第五話「瓦解せし五大帝国の関係」・2
*注:多分な下ネタがあります。ご注意ください。
「して、いかがするでござるか?」
「そうだな、フレムヴァルト帝国が滅亡したんなら――」
ガチャンッ!!
突如響き渡るガラスの割れる音に、俺と影明がそちらを見やると、そこには目を見開いて驚愕している鈴華の姿があった。
しまった、失念していた。そうだ、ここにはフレムヴァルト帝国の帝王である鈴華がいるんだった。
「鈴華、落ち着いて聞いてくれ! まずは冷静に……」
「う、嘘ですよね……ご主人様。そんな、攻めの鳳凰と謳われた私達の一族が、そう易々と負けるはずが……」
信じられない、いや信じたくないと言わんばかりに首を左右に振る鈴華。俺だって信じたくないが、悲しいかなこれは現実だ。
夢なら醒めて欲しいが、生憎と夢でもない。
「聞いてくれ、鳳凰一族は……フレムヴァルトはほろ――」
「滅んでなんていませんっ!!」
俺の声を遮るように声を張り上げると、目元からキラリと光る何かを零しながら、鈴華が脱兎の如く部屋から出て行った。
「あっ、待て鈴華ッ!!」
「主殿!?」
影明の声が背後で聞こえたが、それよりも今は鈴華の事が先決だ。あんな状態ではまともな理性は働かないだろう。もしかすると、よからぬ事態でも引き起こしそうな感じがした。急いで止めなければ!
息が切れそうになるのも構わず、俺は夢鏡城中を駆けた。
と、その時――。
ドンッ!!
「うわッ!!」「あんっ!」
いかん、誰かにぶつかってしまったらしい。
俺は慌てて身を起こして誰にぶつかったのかを確かめた。俺の眼の前にいたのは、童顔系の少女。ウェーブがかった桜色に近いピンクの髪の毛は凄く長く艶やかで、尻餅をついているためにどこまでの長さがあるかは分からないが、少なくとも床に着くくらいだから相当だろう。
その容姿と髪の毛の色からも分かるが、双眸の色を見て確実なものになる。彼女はリスマード一族の人だ。ってことは、夢鏡王国王家の血筋ということ……もしも俺より偉い人だったらどうしよう。でも、一応俺は二代目国王なんだし、俺の方が上なのだろうか?
と、とりあえず手を貸してあげないと。
「すみません、ちょっと急いでて……大丈夫ですか?」
「……え、ええ。ありがとう」
そう言って彼女は、俺の手に手を重ねて起き上がり――もとい、引っ張ってきて――って、え?
と、俺がきょとんとしている間もなく、グイッと手を引っ張られた俺の体は、必然的に前のめりに倒れてしまい、目の前の女性に倒れ掛かる態に。
そしてそのまま――倒れてしまった。同時俺の片手は女性に握られたまま、もう片方の手は何か柔らかい物を掴み、顔はこれまた柔らかい物に包み込まれる形になる。
これは、マズイ。俺の経験上の何かが警鐘を鳴らす。
俺は慌てて体を起こした。
「す、すみません!」
顔を真っ赤にして体を起こすと、目の前には眉尻を下げて八の字にした女性が目を潤ませ、もう片方の手を口元に軽く添わせて荒い息遣いをしている姿があった。
「わ、私……このまま月牙くんにあんな事やこんな事されて、既成事実を作られてしまうの? あぁ、でもいけないわ。そ、そんな……私には既に夫という心に決めた人がいて……ポッ。もう既に人妻なのに……」
「え、いや……」
「あっ、ま、まさか……ひ、人妻がお好みっ!? あ、あら、結構大胆な御方なのね……ポッ」
何なんだろう、何かどこかで似たような状況に陥ったことがあるんだけど。
「あの、俺は別に人妻が好きでもないし、そもそもこんな状況になったのってあなたのせいですよね?」
「そ、そんな!? 既成事実を作った挙句、私から迫った事にしろなんて!! そんなご褒美――ぶるぶる、命令するなんて。どこまで鬼畜なのっ!?」
「何でそうなるんですかッ!! 引き上げてあげようとしたら、あなたが俺の手を思いっきり引っ張ったからこうなったんでしょう!?」
仰向け状態で目尻に涙を溜めながらも、更に頬を紅潮させてホの字になる女性に、俺は思わずツッコんでしまう。
「ふふ、噂通りのツッコミね。なかなかいい突きしてるわ……月だけに」
「誰が上手い事言えって言いました!?」
いきなりの寒いオヤジギャグに、敬語を忘れてしまいそうになる。だが、これで大分明らかになってきた。うん、リスマードの血筋は下ネタとオヤジギャグで出来ているんだ。しかし、見た事のない人だな。この見た目だから年齢も良く分からないし……でも、人妻ってことは下手すると子持ちの可能性もあるよな。
「あの、失礼ですけどお名前は?」
「そんな、私の名前を忘れるだなんて……私とのアレは遊びだったのっ!?」
やや上半身を起こしながらも、背中側に片手をついてショックを受けたような顔をする女性。
「何を定番使ってるんですかッ!! 根も葉もない嘘吐きまくってると、いい加減怒りますよ!?」
「怒っちゃダメ……どうせ怒るなら、その滾った怒りで私のありとあらゆる部分を鎮めて? 沈めるだけに……」
「とんでもない下ネタぶっこまないでくださいッ!!」
「ぶ、ぶちこんで!? そ、そんな……私にそんなプレイを求められても……」
「だから違うつってんでしょッ!?」
いかん、これ以上この人と会話を続けていたらいつか胃潰瘍になる。にしても、この人の下ネタ力はミーミルを凌ぐ程だ。ヒュニールさんもなかなかだったけど、それ以上だ。まさか、この人って……。
「結局名前は何なんです?」
「そんな、私の――」
「言っておきますが、もしも振り出しに戻ったらマジギレしますよ?」
「…………メリーナよ」
「メリーナさん?」
やはり聞いたことのない名前だ。
「何で俺の名前を知ってるんですか?」
当然の質問だ。俺は彼女との面識はない。なのに彼女が俺を知っているということは、誰かから聞いたと言う事だろうと推測する。
「ああ、それはね。ヘーニルに聞いたのよ」
「ヘーニルさんとはどういう関係なんです? まさか、お――」
「ヘーニルは私の従妹よ。……今、なんて言おうとしたの?」
「え!? いや、お……おおお、お綺麗ですねぇ~と」
「あら、嬉しいわね。じゃあ、私を襲ってくれるのね?」
「どこをどうしたらそういう結論になるんです!?」
ダメだ、一度言葉を会話すると返しが大抵下ネタになる。まるで下ネタ製造機だ。こんな可愛い顔立ちしてるのに、もったいないなぁ。
などと俺が思っていると……。
「いい加減、いたいけな女の子を引き上げてくれないの?」
「ああ、すみません」
そう言って俺はメリーナさんに手を貸した。すると、その俺の手の上に手を重ねて――。
「言っておきますが、同じネタは使わないでくださいね?」
「うっ、な……何の事かしら?」
「いえ、ただちょっと今引っ張られる感覚があったんで……」
「だって、引っ張らないと反動で起き上がれないでしょう?」
「メリーナさん、起き上がるつもりないでしょ?」
「あら、あなたのここはもう起き上がっ――」
「言わせねぇよッ!!」
危うい、ホントこの人容赦ない。恥じらいってものがない。いや、あるんだろうけど、その恥じらいでむしろ興奮するタイプの人だ。つまり結論的に何が言いたいかというと、この人多分……ドMだ。
と、俺が可哀想な物を見る目で見ていると――。
「起き――」
「何もう一度言おうとしてるんですか!!」
信じられない。ネタ封じをしたはずなのにそれをもう一度入り込ませてくるだなんて……この人、出来るッ!!
などと思っている間もなく――。
「お――」
「だから言うなって言ってんでしょ!?」
「おっ――」
「いい加減に――って、ん? ちょっと待ってください、今メリーナさんなんて言おうとしてました?」
俺の聞き間違いでなければ、最初に言おうとしていた言葉と異なった気がするんだが……。
「そんな、私の口からは言えないわ……」
そう言ってクネクネと体をクネさせるメリーナさん。いかん、これが大人の色気というものなのか!?
とか、そんなことはどうでもいい。
「まぁ、そこまで気にはなりませんけど」
「ええっ!? そんな、ボケを潰すなんてお笑いでは御法度よ!?」
「あのですね、俺は別にメリーナさんとコンビ組んだ覚えないんで……」
「上の口は堅いけど下の――」
「だから言うなっつのッ!! それ以上はいい加減何かに引っかかりますよ!?」
くそ、早く鈴華を探しに行かないといけないのに……厄介な人にぶつかったな。
「ねぇ~ん、早く聞いてよ」
そんな懇願するような顔で見られても……ねぇ。
「はぁ、なんて言おうとしたんです――」
と、俺が最後まで言葉を発するまでもなく。
「おっぱいっ!!」
「……」
ナニイッテンダコノヒト。
おっと、思わずカタコトになってしまった。この人油断も隙もないな……何でここまではっきりと物が言えるんだ? ちょっとは恥じろ。
「あれ、聞こえなかったのかしら? おっぱい!」
「いや、聞こえてますよ」
「ひどいっ、よくも私を辱めてくれたわね!? この屈辱は必ず晴らしてあげるわっ!!」
「あの、もうそれはいいんで先に進んでください」
「……」
俺の半眼に呆れ顔という様子で何かを察したのだろう。メリーナさんは先ほどまでの輝きに満ちていた顔を一気に崩すと、無表情になってしまった。
「……あーあ、一気に冷めちゃったわー。どこかの誰かさんがー、私の熱を冷ましてしまったわー。せっかく昂ってきて噴火――」
「おいッ!!!」
棒読みだったのでそこまで問題はないだろうと思っていたが、それはお門違いだった。彼女の下ネタは無表情の方がクオリティがあがるのだろうか? いや、どっちもどっちか?
とにかく、これ以上彼女に変なことを言わせる前にこの件に終止符を打った方が速いな。
「えと、ごめんなさい……俺が悪かったです。なので、何であの言葉が出たのか聞かせてくれませんか?」
「……うふっ、やっぱぁ~? 気になるぅ? やっぱりぃ? そうよねぇ!! 男の子だもんね、美人の人妻のスリーサイズくらい知りたいわよね?」
ん? どこをどうしたらそうなるんだ? いや、ここでツッコんだらまた変な事になりそうだから黙っておこう。
「そ、そうですね。それで、結局何であの言葉を?」
「それは、あなたが私のおっぱいを揉んだからよ?」
「え――」
そんな事したっけ? よし、記憶を早戻ししてみよう。
ギュルルルルルル……。
――同時俺の片手は女性に握られたまま、もう片方の手は何か柔らかい物を掴み、顔はこれまた柔らかい物に包み込まれる形になる。
これは、マズイ。俺の経験上の何かが警鐘を鳴らす――
ん? ちょっと戻そう。
ギュルルル!
ストップ。再生……。
――もう片方の手は何か柔らかい物を掴み――
一時停止……俺の思考回路も一時停止……。
ぬおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? やってやがった俺ッ!!
「す、すんませっしたぁああああああああ!! あ、あのこれは事故というかなんというか……」
「ふふっ、いいのよ。気にしてないわ。それに、久しぶりだったから私も嬉しかったし……」
ん?
「それに、あなたもミーミルだとちっぱい過ぎて揉めないものね?」
ん?
「やっぱり月牙くんが巨乳好きだっていう噂はホントだったのね?」
んんッ!?
「ちょちょちょちょちょちょ、ちょっと待ってくださいッ!! 何ですかその噂ッ!! 俺知らないんですけど」
「あら、そうなの? 召使いの子が他の子に話してたけど? だから最近、月牙くんの所に行く子は、巨乳の娘ばかりでしょう?」
「そ、そう言えば……」
言われてみればそうだった。何かここ最近、お世話に来るメイドが皆して俺の顔色をチラチラ窺っては顔を赤らめてたけど、あれそういう事だったのか!!
「その言いふらした子って?」
「えと、確か……すず――」
ブチッ!!
「鈴華てんめぇええええええええええええええええええええええええッ!!!!」
俺は捜索目的がいつのまにか別理由になっていた事も忘れて、鈴華の名前を大声で叫びながら城中を駆け巡った。
その後約二時間は城中を走ったものの、鈴華は見つからなかった。ふと心の中である人物を想起したが、すぐに払拭する。
それから俺は、嘆息して外に出た。
夢鏡王国の近くにある少し大きな湖畔。そこにやってきた俺は、そこでしばらくの間佇んでいた。
途方もなく出る溜息。こんなに吐いて幸せゼロになりやしないかと危惧したが、別にそんなこと構わなかった。
城中捜索してもいなかったということは、既に城から飛び出したということかもしれない。もしもそのままフレムヴァルトに向かったのだとしたら……嫌な予感が頭をよぎってしまう。そんなの駄目だ。これ以上俺の周りで人が死ぬ事は許さないッ!!
と、その時、背後から声が聞こえた。
「あのー」
見知らぬ人に声をかけるかのような声に俺が振り返ると、そこには桜色に近いピンク色の髪の毛をした女の子が――何、だと……!?
勘弁してくれよ、もうツッコミ過ぎて疲れたんだ。それに、さっきずっと鈴華の名前叫んで喉が痛い。
仕方ない、下ネタ吐かれても聞かなかった事にしよう。
そう決意して俺は幼い顔立ちの少女に言葉を返す。
「どうかした?」
少しやつれ気味の表情を浮かべていたかもしれないが、相手は怖がる素振りを見せない。警戒心はそこまでなさそうだな。
「そこ、ボクの場所なの。お兄さんどいてくれない?」
「ああ、悪かったな。特等席なのか?」
「うん、まぁね。ボク、湖畔が大好きなの」
「へぇ……ん?」
湖畔が好き? それって……どこかで聞いた様な――あっ!!
「も、もしかして君……ニョルーラちゃん?」
「へ? ど、どーしてボクの名前知ってるの!? お兄ちゃん、エスパー?」
「いや、エスパーじゃないけど……君の知り合いに聞いたんだ」
その時俺は言い方を誤ったかもしれないと思った。知り合いじゃなく、再従兄妹と言ったほうがよかったのだろう。だが、時すでに遅しだった。
というわけで、シリアス回のはずがちょっと下ネタコメディな感じになった二部です。そして、ここでまたもや新キャラ登場。メリーナさんです。この人はリスマード一族の一人で、ヘーニルの従姉でもあります。にしても、リスマード一族の女性陣は下ネタと親父ギャグが好きなようです。一応こんなんですが、小七ヶ国の中で唯一治安を保ち続けている平和な国のお姫様たちなんですが……どうしてこうなった。
また、彼女達が絡むと必然的に月牙はツッコミの人になります。
では、名前のみ先に登場していた新キャラ、ニョルーラが出て来た所で三部へ続きます。リスマードの人間ということは……?




