『―――DlumiroorDragonArmorGreatWar――』
先の第二次神人戦争が終結してから、十三年。平和過ぎて反吐が出る夢鏡王国に、新たな王が就いてから七年後……。
安寧の続く平和な日々は、突如として消え去った。いや、厳密的にはこのワシが壊したのだがな。
始まりは、ワシのエレゴグルドボト帝国の開戦宣言だった。
『グハハハハハハハ! ワシの名は「オブタミス=ドルーミラ」! ヌシらの望む平穏など、このワシには不快でしかないッ!! よって、ここに宣言するッ!! これより、帝国侵略大戦を始めるッ!!』
あまりにも一方的な宣言だが、ワシはもう止まらんッ!! このような平穏、ワシには必要ないのだッ!! ワシが求めるのは、ただ一つの殺戮と戦争のみッ!!
「ドルーミラ伯爵! これは一体どういうことだね!?」
荒々しく扉を開け放ち入室を果たしたのは、現在エレゴグルドボト帝国を治める『イーグニロ=マドゥーエ=ベラス』だった。一応大公であるので、ワシよりも地位は上に当たる。
「グハハハハハ! 何か問題がおありか? ワシはただ、あらゆる国に戦争を持ちかけただけの事ッ! 大公殿にはお分かり頂けぬか? 今周囲の国は疲弊しております……先の戦争で多くの兵は削がれ、早急に新王を選抜しているのが現状。この期を逃す手はありますまい! だからこそ、こうしてワシが出向くのです!!」
そう、周囲の帝国や王国の疲弊っぷりは、ワシ自身この目で見届けている。それを確認している今、侵攻に打って出ないのはもったいないというもの。
「分からんのか、ドルーミラ伯爵。我々には時間と力の蓄えが必要なのだ。先の大戦で、我々の頭は討ち取られた。蛇は頭を討とうと動くというが、今はその時ではない。動くには、その分の動力となる血が流れ過ぎた。我々は、多くの同胞を失い過ぎたのだ」
「それがどうなさった? ワシらは言わずと知れた鎧一族ッ!! 護りでは右に出る物はいないとされておるのですぞ!? そのワシらが進軍すれば、必ずや敵国は侵略出来ましょう!!」
ワシは懸命に己の意見を述べる。が、大公殿は首を振って否定した。
「いいや、今は出る時ではない。それに、貴殿も知っておるはずだ。先の大戦には、あの伝説の戦士もいたと聞く。彼らが相手では勝てるものも勝てん。それが分かっておるのか?」
「ふんッ、怖気づきなさったか、大公殿ッ!! 見損ないましたぞ、ワシは何と言われようと進軍いたしますッ!!」
そう言うと、大公殿が止めるのも効かずに部屋を後にした。
早く支度しなければ、宣言を聞きつけた各国の軍が侵攻を始めるかもしれん。戦は早めにした方がいい。
兵の数も少ない。特攻をかけるッ!!
「聞け、皆の者ッ!! ワシらが手始めに攻めるは、攻めで右に出る者はいないとされた、フレムヴァルト帝国だッ!! 隣国を攻め、そこからゴルガルゴストス王国を攻めるッ!! この王国は、先のサルパストナム王国で兵力が回復していないッ!! この期を逃す手はないぞッ!!」
『おおおおおおおッ!!』
ワシの言葉に、軍兵が声を張り上げる。なかなかの士気だ。これならばじゅうぶんに戦えるぞッ!
そうして気合十分に進軍を開始したワシのドルーミラ軍団。だが、予想だにしない伏兵が潜んでいた。
そのたった二名の伏兵は、ワシの率いる軍兵を薙ぎ払い、それ以上の進軍を阻止した。
「何者だ貴様らッ!!」
ワシは腹立たしい気分だった。当たり前だ、たっぷりと暴れられるはずが、目の前に伏兵が潜んでいたのだ。何よりも、たった二名にこの体たらくなのが非常に許し難い。何なのだ、この二人は!?
ワシが歯ぎしりしていると、声が聞こえてきた。
「これ以上の進軍は許可出来んな、我が同胞にそう言われている」
「兄さんの言うとおりだ、これ以上進軍はさせないよ?」
どうやらこの二名は兄弟か何かのようだ。しかし、謎だ。一見ただの青年風だが、一体二人のどこにこれほどの力があるのだ?
「貴様らに忠告する、今すぐ踵を返して帰国せよ!」
「そうだ、帰りたまえ!」
「グッ、ふざけるなッ!! そのようなこと、出来るはずがなかろうッ!!」
ビキビキと青筋を立て憤慨するワシは、馬より降りて叫んだ。
「一体何者なのだ貴様らはッ!!」
ワシは正体の掴めぬ二人に、そう問い|質《ただ」す。
すると、余裕綽々で二人が答える。
「我が名は『鱗堂 俊龍』……そして此方は――」
「『鱗堂 聖龍』だ」
俊龍に聖龍……二人の名前を反芻し、ワシは思った。そういえば、名前に「龍」とつく者の中に、とんでもない怪物がいたと聞いたことがある。
確か――。
『二人揃って「聖俊の雙龍」!!』
思い出した、そうだ。この二人があの龍竜族の双子で、恐ろしい力を持つという伝説の戦士の二人。
しかし、それが何故ここに?
「貴様らの目的は何だッ!!」
「ふむ……目的か。言うなれば、これより先の守護だ!!」
この先の守護だと? 分からんな……こやつらに何の特があるのだ? 理解出来ん。
「……貴様らの言う事を聞くとでも思うたか? ワシは偉大なる鎧一族が一人にして、伯爵……オブタミス=ドルーミラであるぞッ!! そのワシに歯向かうなど、万死に値するッ!! 者共、行けぇええええええッ!! 進軍を止めてはならんッ!! 絶好の機を逃すべからずッ!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉッ!!!』
ワシの大地を震わさんが如くの叫びに、軍兵が声を張り上げる。
「はぁ、どうやら我らの忠告は無下にされたようだ」
「仕方ないね、兄さん。これはもう、この者達には実力行使しかないよ」
そう言う二名に、沸々と更なる怒りがこみ上げるが、それも力に変えてみせよう。そして、こやつらに思い知らせるのだ。このドルーミラ様こそが最強であるとッ!!
「目指すはフレムヴァルトぞ、者共行けえええええッ!!」
「ふっ、老人は偉そうにしているのが腹立つな。最強というのは、己自身の力を周囲に見せつける事を言う。それなのに、貴様のやっていることはただのエゴだ!!」
エゴだと? ハッ、馬鹿馬鹿しい……このワシがそのようなこと、断じてありえんッ!! ワシの崇高なる目標にケチをつけようとは、ますます許せん。
「貴様ら有属性者などに、ワシらは負けはせぬッ!! くらえぇえええええ!!」
己の得物を振り回し、ワシ自ら二人の元へと突貫を仕掛ける。後ろからは、軍兵が馬を走らせている。
そして、そのまま二名と対峙……。
刹那――。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!
凄まじい轟音と舞い上がる砂煙。ワシらは一瞬にして視界を奪われたために立ち往生した。狼狽える馬を必死に宥め、何とか落馬せぬように耐える。
その内視界が晴れ、気づけば周囲の景色は一変。
先程の二名がいた場所の地面が抉れ、周囲に蜘蛛の巣状の亀裂が走っている。円形に地面が沈み、クレーターの様だった。
たった二名の龍竜族に衝突しただけでこれほどの衝撃波……だと?
いや待て、確かこのような話も聞いたことがある。
龍竜族は元々ドラゴンの成りをしていて、人間でいるのは仮の姿だと。だとすれば、あの二人も同様なのではないか?
そう思っていると、上空が薄暗くなる。ふと上を見れば、そこには巨大なドラゴンが羽を動かしてホバリングしている姿があった。
まさか……。
【フンッ、貴様ら如きに我らの姿を晒すハメになるとはな。まぁいい、事は早く成すべきだ。忠告はした……だが、貴様らは我らの忠告を無視した。であれば、遠慮は無用……消し炭にしてくれようッ!!】
巨大な龍がテレパシーに似たもので声をあげる。その直後、僅かに開いた口の隙間から炎の煌めきが見えた。
「マズイッ、者共出来るだけ離れろッ!! ええい、狼狽えるな!! 馬を捨て身を伏せるのだッ!!」
ワシの指示がどれほどの人間に届いたかは理解出来ん。だが、確認を取っている暇はない。
【喰らえ、『龍竜の咆哮』!!】
龍がそう言葉を発するや否や、地面に張り付くようにしてうつ伏せになっているワシを含めた軍兵の真上を、紅蓮の炎がとぐろを巻いて発射された。炎熱系魔法に似た物だが、質量が凄まじい。
指示が届かなかった軍兵も何人かいるようで、遠くの方で悲鳴が聞こえた。
「クッ、おのれぇええええええッ!! 貴様、絶対に許さんぞッ!!」
【フッ、貴様らは既に勝敗が決している事にも気づかんのか?】
そう言う巨大な飛龍に、ワシはその場に立ちあがって叫んだ。
「グヌッ、貴様ら……何をしておるッ!! ワシらは鎧一族だぞ!? このような所で燻るなどあってはならんッ!! 立ち上がれ、ワシらの偉大なる力……鋼の力を持って目の前の怪物を打ち砕くのだッ!!」
『うおぉぉぉぉおおおおおおおッ!!』
ワシの鼓舞が効いたのか、残った軍兵が次々と立ち上がり武器を手に取る。そして、ワシを先導に目の前の飛龍に攻撃を開始した。
「くらえ、怪物ッ!!」
槍投げの要領で得物をぶん投げる。ワシの投げた一本に次いで、次々と幾本もの槍が投じられるが、飛竜はそれを風の咆哮のみで払いのけた。勢いを失った槍は、雨の様に地上に降り注ぐ。下手をすれば、真下にいる兵達に襲い掛かる始末だ。
「クッ、空を飛行されては厄介だ……にしても、もう一体がおらんのはどういう了見だ?」
それがずっと気になっていた。龍竜族は二名だ。片方が空を飛ぶとなると、もう一体は地上にいるはずだ。確か、龍族は空を飛び、竜族は地上を跋扈するはず。
しかし、姿がどこにも見受けられない。となると、どこかに姿を隠しているとしか考えられない。
「ええい、考えるなど面倒だッ!! 火球投下ッ!!」
ワシの指示で軍兵の何人かが前衛に進み、そこから炎熱系魔法を使用する。次々と魔法陣から放たれる火球は、隕石の如く飛竜を襲う。
しかし、敵の鱗は余程硬いのかなかなか効果が見られない。さすがは龍の鱗。レアアイテムとして扱われるだけの事はある。何せ、ワシらの鎧の成分に含まれているのだからな。
「ドルーミラ伯爵、このままでは兵が疲弊するだけです! いかが致しますか?」
兵の一人が敬礼しながらワシに相談する。グッ、よもやこんな所で手間取るとは……運命とはどれほどまでに愚かなのか。だが、ここで諦める訳にはいかん。ここで兵を退けばいい笑いものだ。ドルーミラ家の存亡も危ぶまれるに違いない。
こうなれば、最後の手段……。
「兵を二つに分断する。一つはこの地にて進軍を続ける! 一つは裏より周りフレムヴァルトに潜入せよ!!」
「しかし、まだ翼竜の位置が掴めておりません!」
そうだ、未だに居場所の掴めない翼竜。一体、どこにいるというのだ?
「クッ、細かい事は考えるなッ!! フレムヴァルトに進軍する事だけを考えよ!! よいか、フレムヴァルトに潜入出来た者は、即座に鳳凰一族を襲撃するのだッ!! あそこには巫女しかおらんッ!! やつらを潰せば帝王のおらんフレムヴァルトなど容易いッ!!」
「ですが、ドルーミラ伯爵……あそこにはあの恐ろしい女軍師がおります!」
「グッ!?」
そうだった、あそこにはあの邪魔な女がいたのだった。いや、正確には双子の軍師……『鳳凰の軍神』とまで言われ、ちやほやされていると聞く。
だが、やつらはまだ子供。あの有名な第一次光闇戦争の時代で軍師を務めていた女の娘とも言われていたはずだが、それが果たして真かどうか……。
「とにかく、すぐに進軍せよ!! いざという時は契約召喚も構わんッ!!」
「ま、まさか……アレをお使いになられるのですか!?」
それも吝かではない……確かにアレを使えばワシの首が飛ぶことは必至。しかし、勝利のためには手段を講じる他ありはせんッ!!
「構わんッ、ワシが許可する!! よいか、本当に危機に瀕した時使用せよッ!!」
そう言いきると、ワシは目の前の飛竜に向かって魔法陣を展開する。二、三枚の魔法陣を重ねてそこへ向かい筒を構える。
「ワシがぶっ放すと同時に行けッ!! くらえ、『火球・豪速球』!!」
ワシがそう叫ぶと同時、筒から飛び出した巨大な火球が魔法陣に突っ込み、そのまま魔法陣と共に飛龍へ直撃する。
【ぐわぁあああああッ!?】
どうやらこの攻撃は効果があったようだ。当たり前だ、ワシの本気とも言えるからな。
「今だッ!!」
声が枯れんばかりに叫ぶ。その頃には既に半数の兵はフレムヴァルトへ行くために森へと進軍していた。
飛龍の方へ視線を戻すが、やつは直撃した際に出た黒煙で視界が悪いはずだ。
と、その時だった。
【あまりにも無謀な事をするね、君達は……】
声のする方を見れば、そこには翼竜がこちらに向けて大きく口を広げている姿があった。どこに隠れていたのかと思えば、体の半分が地面に埋もれている。どうやら、地下に今まで潜んでいたようだ。
【フフッ、残念ながら君達の負けだよ? 負け戦なんてみっともないね……でも安心していいよ? 僕達の目的はここから先の進軍を止めたいだけ、フレムヴァルトの事はどうでもいいんだ】
口を開けたままよくもまぁ話せるものだと感心する。が、その間に翼竜は口内に光を収束させている。どうやら龍属性の攻撃でもするつもりなのだろう。
しかし、一つ疑問に思う事がある。
「何故だ、フレムヴァルトを守るわけではないのか?」
【僕達はフレムヴァルトと何の関係もないよ? どちらかというと、エレゴグルドボトに所属しているんだしね、僕達は……】
「ならば、何故だ!?」
【……この先にいる人を、渡す訳にはいかないからさ】
そう言うと、やつは魔力を込めだした。凄まじい熱気だ。飛龍から受けた炎熱系魔法よりも高熱度だ。下手をすると、跡形もなく消滅してしまうだろう。まさに滅殺魔法というところか。
だが、結局最期まで分からなかった……この先にいる人? 確かこの先にはトゥインクル・ギャラクシー天文台があったはずだ。しかし、そこに何の意味が? ん? 確かあそこには滅多に現れないとされる星魔法を持った男がいたはずだ……まさか、何かを守っているのか!?
いかん、これは……報告せねば、大公殿に――。
【消えなッ!!】
ジュボォォォォォォォォォォォォッ!!!
紅蓮の炎は、星の瞬きのように火の粉を散らせ、流れ星のように煌めきを放つ。瞬間、そこに纏わる様に青白い炎がとぐろを巻く。そこから漏れる淡い光は、銀河の様に穏やかで温かい。
一分が経過して、長い咆哮が止む。
【……どうやら逝ったようだな】
【ああ、僕達の使命は終わりだよ……兄さん】
【しかし、本当に良かったのかフレムヴァルトの方へ行かせて】
【……どちらにせよ滅ぶ運命なんだ。未來さんが言ってただろう?】
【フッ、そうであったな】
雙龍は人間化して人の成りを取り戻す。城くらいの大きさがあった飛龍と翼竜は、チラッとフレムヴァルト帝国の方を一瞥すると、踵を返して聳え立つ一本の棟台へ帰還した。
こうして、僅か兵力五万という人数で無謀にも帝国侵略大戦に打って出たドルーミラ伯爵は敢え無く死亡。後にこの戦争は、突如として現れた龍竜族の二名が絡んだ事より、『ドルミラ龍鎧大戦』と呼ばれた。余談だが、被害総数は零。ただし、これはあくまでもドルミラ龍鎧大戦による被害者数の話。
ドルーミラ伯爵の命令で密かにフレムヴァルトに進軍した軍兵は、見事潜入を果たして鳳凰一族を襲撃した。
突然の事に鳳凰一族の巫女はましな抵抗も出来ず、敢え無く捕らえられてしまい、フレムヴァルト帝国はエレゴグルドボト帝国に敗北宣言をした。
また、双子の軍神も寝込みを襲われたために不覚を取ってしまった。そもそも、軍神で戦略を練るだけなので攻撃力は極限に低かったのだ。
こうして知らず知らずの内に各帝国王国は変貌を遂げて行き、徐々に衰退して行くのであった……。
というわけで、今回はドルミラ龍鎧大戦の話をやりました。大戦と言っても、実際は大した進軍は出来ておらずあっという間に終結しましたが。ただし、フレムヴァルトはちゃんと征服しました。フレムヴァルトの襲撃やその後の帝国については次回五話でやる予定です。また、ドルーミラ伯爵はここで出番終了二度と出ません。まぁ、死んだので。
鳳凰の双子軍師は五話に出るかもしれません。雙龍が守っていた人物は今後を予定。鎧一族のアレは……どこかで出るかもしれません。
次回予告……フレムヴァルトについて触れて、後は他の帝国についての話。
更新は、今月中? それではまた次回。




