第5話 初の対外試合
~前回までのあらすじ~
ドラフト9巡目で横浜海嶺マリナーズへ入団した相沢直人。
新人合同自主トレで野手として評価を高める一方、投手としても可能性を見出され、春季キャンプでは野手練習と並行してサイドスローの調整を続けていた。
そしてキャンプ最初の対外試合で、相沢は7番・遊撃としてスタメンに名を連ねる。
2月6日。
キャンプインから5日が過ぎ、相沢は二軍での練習にも少しずつ馴染み始めていた。この日は、入団後初めての対外試合が予定されていた。
相沢は初めてマリナーズの試合用ユニホームに袖を通した。
着替える前、ロッカーに掛けられていたユニホームを手に取り、一度背中を広げて見た。大きく入った背番号は70。入団時、空いていた番号の中から自分で選んだもので、相沢直人という名前の語呂合わせだった。
理由はそれだけだったが、相沢自身は気に入っていた。初めて試合で背負う番号だと思うと、これまでより少し特別に見えた。
そのままユニホームに袖を通していると、隣で着替えていた宮原が声をかけてきた。
「そういえば相沢は実戦でユニホーム着るのは今日が初めてか。俺も最初はお前みたいに広げて眺めてたなぁ」
宮原も自分のユニホームの裾を整えながら、懐かしそうに笑った。
「宮原さんもそうだったんですね。やっぱり実戦で着るのは、ただ着るのとは違いますからね」
相沢は袖を通し終えると、胸元を軽く整えた。着替えただけなのに、これから試合に出るという実感はさっきまでより強くなっていた。
「そうだよなぁ。そういえば相沢は何で70にしたんだ?」
宮原の視線が、相沢の背中へ向いた。
「語呂合わせですよ」
「そうか、そういえば直人だったな」
「はい、安直ですけど愛着湧いてますよ」
宮原は納得したように笑った。相沢もユニホームの裾を整え、ロッカーに置いていたグラブを手に取った。
今日の相手は、社会人野球の沖縄電力。マリナーズにとっては、一軍と二軍を通じて今季最初の対外試合だった。
グラウンドへ出ると、両チームの選手たちがそれぞれ試合前の準備を始めていた。周囲にはキャンプを見に来たファンの姿もあり、普段の練習日より明らかに人の数が多かった。
まだ公式戦でもなければ、一軍の試合でもない。それでも、マリナーズが今年初めて他のチームと戦う試合として、それなりに注目を集めていた。
相沢も全体のアップに加わり、身体をほぐしていった。キャッチボールが始まる頃には、初めてユニホームを着たときの落ち着かなさも薄れていた。
続いて内野のシートノックが始まり、相沢は遊撃へ入った。三塁には社会人で複数の内野を守ってきた新人の藤堂、二塁には俊足が持ち味の3年目内野手・杉原、一塁には長打力が持ち味の4年目内野手・新田がついた。
「ショート、行くぞ!」
佐伯のノックに合わせ、相沢は正面のゴロを一塁へ送り、続く三遊間の打球にも一歩目を切って追いついた。さらに二塁寄りの打球では、そのまま杉原へ送球し、併殺までの動きを確認した。
試合前だからといって、特別なことをするわけではなかった。キャンプに入ってから繰り返してきた動きを、一つずつ確かめていった。
ノックを終えてベンチへ戻る途中、相沢はバックネット裏へ目を向けた。記者らしき人間が何人も並び、その中にはカメラを構えている者もいた。
「思ったより人多いですね」
飲み物を手にしていた宮原が、相沢の視線を追った。
「メディアのことか?」
「はい。二軍の試合ですし、社会人チームが相手ですからね」
「まあ、今年最初の対外試合だからな。二軍とはいえプロはそれだけ注目されるんだぞ」
「練習試合でも気が抜けませんね」
宮原は一口飲んでから、相沢の方を見た。
「それと相沢、お前試合後覚悟しておくんだな」
「何のですか?」
「スタメンで高卒ルーキーはお前だけだろ。担当記者なら逃すわけないわな」
「ああ、そういうことですか」
相沢はもう一度バックネット裏へ目を向けた。思っていた以上に、自分も注目されていることを意識した。
その後も試合前の準備は進み、ベンチには今日のスタメンが書かれたメンバー表が貼り出されていた。7番・遊撃の欄には、相沢直人と書かれていた。
昨日のミーティングですでに聞いていたとはいえ、改めて自分の名前を目にすると、いよいよ試合が始まるという実感が強くなった。
グラウンドでは先発の小田切が最後の投球練習を行っていた。3年目を迎えた元ドラフト1位の右腕にとっても、これが今季最初の実戦登板だった。
やがて沖縄電力の選手たちがベンチへ戻り、マリナーズのスタメンがそれぞれ守備位置へ向かい始めた。相沢もグラブを手にベンチを出て、先ほどまでノックを受けていた遊撃の位置まで走ると、足元の土を軽くならした。
そこから一度ホーム方向へ目を向ける。バックネット裏には先ほどと変わらず記者やカメラの姿があり、その向こうには試合開始を待つファンが並んでいた。
相沢の胸は少しだけ高鳴っていた。それでも、守る場所もやることも変わらなかった。
相沢はグラブを左手にはめ直し、打席へ向かう沖縄電力の1番打者を見た。
小田切がマウンドに上がり、篠崎から返されたボールを受け取った。審判がホームベースの後ろについた。
「プレイボール!」
審判の声がグラウンドに響き、マリナーズの今季最初の対外試合が始まった。
* * *
初回、マウンドに上がった小田切は先頭打者を追い込み、最後は外角のストレートで詰まらせた。
打球は二遊間寄りへ転がり、相沢は左へ数歩動いて正面に入ると、そのまま一塁へ送球した。
「アウト!」
一塁塁審が右手を上げ、アウトを宣告した。
新田から返ってきたボールを受け取り、相沢はマウンドの小田切へ投げ返した。
特別なことは何もなかった。ノックで何度も繰り返してきた動きと変わらなかった。
ただ、アウトが宣告された瞬間だけは少し違った。
これが相沢にとって、プロ入り後初めて実戦で取ったアウトだった。
小田切は続く2番打者を右飛、3番打者を空振り三振に仕留め、初回を三者凡退で終え、上出来な立ち上がりを見せた。
その裏、マリナーズは1番の宮坂から攻撃を迎える。宮坂は俊足を武器に、昨季も代走や守備固めを中心に一軍で起用された5年目の外野手だ。
沖縄電力の先発は、ドラフト候補として名前の挙がる右腕だった。ストレートの球威に加え、変化球の精度や制球力も高く、高校野球の投手とは完成度が一段違う。
宮坂は追い込まれてから低めの変化球に空振り三振。続く藤堂も内野ゴロに倒れると、3番の宮原も外角のストレートを打ち上げて中飛に終わった。
マリナーズも初回は三者凡退。沖縄電力の右腕も危なげない立ち上がりを見せた。
相沢はベンチから投球を見ながら、打席に入る選手に合わせてタイミングを取っていた。ストレートだけでなく変化球もしっかり低めに集まり、簡単には甘い球を見せなかった。
2回表も小田切が無失点に抑え、その裏は4番の新田から始まった。
先頭の新田が外角のストレートを右中間へ弾き返し、二塁まで到達した。続く5番の永井は、控えとして一軍経験もある9年目の外野手だった。打球は詰まって二塁方向へ転がり、アウトにはなったものの、その間に新田が三塁まで進み、1アウト三塁とチャンスを広げた。
6番の杉原が外野へ打ち上げると、新田はタッチアップからホームへ生還。マリナーズが1点を先制した。
2アウト、ランナーなし。
次の打席に備えていた相沢が立ち上がると、バックネット裏のカメラが一斉にその姿を追い、シャッター音もひときわ増えた。
ここで7番の相沢に、プロ入り後初めての実戦打席が回ってきた。
「7番、ショート、相沢」
名前を呼ばれ、相沢は左打席へ入った。
初球、相沢はまず球筋を確かめるため、外角へのストレートを見送った。ボールはわずかに外れ、1ボールとなる。
2球目もストレート。相沢は少し早めにバットを出して引っ張り、一塁側へファウルにした。打球の感触を確かめ、そのまま構え直す。
カウントは1ボール1ストライク。
3球目は低めへ沈む変化球だった。相沢は早い段階でコースを見極め、そのまま見送った。腕の振りもストレートと比べて大きな違いはなく、狙い球をストレートに定める。
ボールとなり、2ボール1ストライク。
続く4球目は外角へ逃げていくスライダー。相沢は見送ったが、判定はストライクだった。
「ストライク!」
2ボール2ストライクと追い込まれ、相沢もここから待ち方を変えた。ストレート中心の狙いは維持しながら、際どい変化球にも対応する構えを取った。
その後は際どい球をファウルで逃げ、低めの変化球を見送りながら粘った。カウントは3ボール2ストライクとなり、さらに1球をファウルにして迎えた8球目。
右腕が投じたのは、外角へ逃げていくスライダーだった。
相沢は早い段階でコースを見極め、最後までバットを出さない。ボールは外へ外れた。
「ボール、フォア!」
球審が右手を横へ広げ、相沢に一塁を示した。
8球粘った末、相沢のプロ入り後初めての実戦打席は四球となった。
相沢はバットを置いて一塁へ向かった。ベースに着くと防具を外して預け、三塁コーチのサインを確認した。
相沢には盗塁のグリーンライトが与えられており、走る判断は本人に任されていた。
マウンド上の右腕へ視線を向け、セットに入るまでの間や足の上げ方を確認しながら、少しずつリードを広げていった。
相沢は次打者への初球を狙っていた。初めて塁に出たルーキーがすぐに走るとは相手も考えにくいと見て、警戒が強まる前に仕掛けるつもりだった。
投手が捕手からサインを受け、セットに入った。
左足が動いた瞬間、相沢はスタートを切った。
初球は外角へのストレート。打席の篠崎が見送ると、捕手はすぐさま立ち上がり、二塁へ送球した。
ボールは低い軌道のまま二塁へ伸びていった。高校時代に相手にしてきた捕手と比べても、送球は明らかに速かった。
それでも、相沢のスタートも悪くなかった。投手の動き出しとほぼ同時に切れた分だけ、わずかに余裕があった。
二塁手が送球を受け、滑り込んできた相沢へタッチを伸ばす。
「セーフ!」
二塁塁審が両腕を横へ広げた。
相沢はベースについたまま一度息を吐き、立ち上がった。プロ入り後初めての盗塁は成功。これで2アウト二塁と、再び得点圏に走者を置いた。
続く2球目は変化球だったが、やや甘く入った。篠崎はそれを逃さず引っ張り、打球は三遊間を抜けてレフト前へ転がった。
2アウトだけに、相沢は打球が飛んだ瞬間からスタートを切っていた。レフトが素早く前へチャージする中、相沢は速度を落とすことなく三塁を回った。
レフトも捕球すると、すぐさまホームへ正確な送球を返す。相沢はそのまま本塁へ走り込み、返球よりわずかに早くホームを駆け抜けた。
相沢の走塁が相手の守備を上回り、マリナーズに2点目が入った。
なおも2アウト一塁だったが、続く俊足が売りの育成2年目外野手・福永は内野ゴロに倒れ、この回の攻撃は終了。
3回からマリナーズは継投に入り、小田切に代わって最速154キロのストレートを投げる2年目右腕・高瀬がマウンドへ上がった。
先頭打者にヒットを許すと、続く打者の送りバントで1アウト二塁。初めて得点圏にランナーを背負った。
続く打者の打球は遊撃方向へのゴロ。相沢は正面に入って捕球すると、二塁ランナーを目で牽制してから一塁へ送球し、進塁を許さないままアウトを1つ増やした。
高瀬は続く打者も打ち取り、沖縄電力に得点を許さなかった。
その裏、マリナーズもランナーを出したものの追加点にはつながらず、試合は2対0のまま4回へ進んだ。
高瀬が4回表も無失点で切り抜けると、その裏は5番の永井から始まった。永井、杉原と続けて打ち取られ、2アウトランナーなし。
ここで相沢に2打席目が回ってきた。
1打席目と同じくストレートを狙っていたが、変化球を交えられて2ストライクまで追い込まれた。そこからストライクゾーンへ入ってきた変化球を引っ張ると、打球はライトへ高く上がった。
芯に近いところで捉えていたものの、打球は思ったほど伸びず、そのまま右翼手のグラブに収まり、4回裏の攻撃も終わった。
5回表、マリナーズは守備を入れ替えた。杉原がベンチへ下がり、二遊間をこなす7年目内野手・中尾が遊撃へ入った。相沢は遊撃から二塁へ回った。
キャンプでは二塁の守備にも入っており、守備位置が変わっても相沢に戸惑う様子はなかった。
マウンドには3番手として、11年目を迎えた左腕・塚本が上がった。先頭打者を打ち取ったあと、続く打者にヒットを許し、1アウト一塁となった。
次の打者が放ったゴロは遊撃方向へ転がった。相沢はすぐに二塁ベースへ入り、遊撃手からの送球を受けながらベースを踏むと、そのまま一塁へ転送した。打者走者も間に合わず、併殺が完成した。
ベンチから見ていた佐伯も、その一連の動きを確認していた。遊撃から二塁へ回っても守備の安定感は変わらず、首脳陣から見てもどちらで起用しても計算できる内容だった。
その裏、沖縄電力は先発右腕に代えて2番手の左腕をマウンドへ送った。
8番の篠崎から始まったマリナーズは、ヒットや四球を絡めて1アウト満塁のチャンスを作る。3番の宮原が外野へ打ち上げると、三塁ランナーがタッチアップで生還し、マリナーズが1点を追加した。
なおも2アウト1、二塁だったが、新田は打ち取られ、5回裏は1点止まり。スコアは3対0となった。
6回表を塚本が無失点で切り抜け、その裏は5番の永井から始まった。永井が倒れたあと、6番の中尾がヒットで出塁。1アウト一塁で相沢に3打席目が回ってきた。
相手は前の回から登板している左投手。相沢はこれまでと変わらず、ストレートを中心に待って打席へ入った。
初球は外角低めの変化球が外れてボール。2球目は内角いっぱいのストレートを見送り、ストライクとなった。
1ボール1ストライクから迎えた3球目。今度は外角へストレートが入ってきた。
相沢は逆らわずにバットを出し、左中間へ弾き返した。打球は左翼手と中堅手の間を抜け、そのまま外野を転がっていった。
一塁ランナーは一気に三塁を回り、ホームを狙った。外野からの返球を受けた中継の野手は、そのまま本塁へ送球した。
捕手がボールを受け、滑り込んできたランナーへタッチを伸ばした。
「セーフ!」
球審の両腕が横へ広がる。すでに二塁まで到達していた相沢は、その本塁送球の間に三塁を陥れていた。
相沢のプロ入り後初安打は、左中間へのタイムリー二塁打。さらに送球間の進塁で、1アウト三塁とチャンスを広げた。
しかし、続く篠崎は変化球に空振り三振。福永も凡打に倒れ、相沢は三塁に残ったまま6回裏の攻撃を終えた。
7回から、マリナーズは大きくメンバーを入れ替えた。相沢もここで交代となり、この日の出場を終えた。
グラウンドには途中出場の選手が並び、投手陣も予定通り継投へ入った。7回は大森、8回は新人右腕の若松、9回は西谷がそれぞれマウンドへ上がった。
沖縄電力も終盤に反撃し、マリナーズ投手陣から2点を返したものの、序盤からのリードをひっくり返すまでには至らなかった。マリナーズも7回以降は追加点を奪えず、そのまま試合終了。
4対2。
マリナーズは今季最初の対外試合を勝利で終えた。
初めてマリナーズのユニホームで臨んだ対外試合で、相沢は高校まで培ってきた自分のプレーを、そのままグラウンドに出してみせた。
* * *
選手たちは整列を終えるとベンチから引き揚げ、控室へ向かい始めた。
その途中では、記者たちがそれぞれ目当ての選手へ声をかけている。今季初登板を終えた小田切の周りにはすでに何人かが集まり、別の場所でも選手が足を止めて取材に応じていた。
相沢もグラブを手にその横を通り過ぎようとしたところで、後ろから声をかけられた。
「相沢君、少しいいかい?」
振り返ると、1人の記者がこちらへ歩いてきていた。
日邦スポーツでマリナーズを担当している三浦拓海。30代半ばの記者で、キャンプが始まってからも何度か練習を取材している姿を相沢は見かけていた。
「はい、大丈夫です」
相沢が足を止めると、その様子に気づいた別の記者も何人か近くへ集まってくる。
試合前に宮原から言われた通りになった。
「プロに入って初めての対外試合でしたけど、実際にやってみてどうでした?」
最初に質問したのは三浦だった。
「最初は少し緊張しましたけど、試合が始まったらいつも通りに試合に入れたと思います」
試合前こそ緊張はあったものの、相沢は最初の守備機会を終えたあたりから普段の実戦と変わらない動きを見せていた。
「初打席は8球粘って四球でした。かなりボールも見えていたように思いましたが」
「あの打席はゾーン内の変化球と外れるボールがはっきりしていたので見極めやすかったと思います」
三浦が次の質問へ移る前に、横にいた別の記者が走塁について尋ねた。
「そのあと、いきなり盗塁しましたね」
「いきなりけん制は無いと思ったので思い切ってスタートを切れました」
続けて、サインについて質問が飛んだ。
「サインはどうでしたか?」
「グリーンライトでしたけど、2アウトだったので積極的に走りました」
今度は三浦が、高校時代との違いに話を向けた。
「捕手の送球は高校の時と比べてどうでしたか?」
「送球までの速さや送球自体も速かったと思います。今後はけん制のことまで考えるとうかつに走れませんね」
走塁についての質問が一段落すると、三浦は打撃の話へ戻した。
「6回には初安打も出ました。あの打席はどうでしたか?」
「ストレート待ちでした。外角のボールをきれいに流せたと思います」
初安打についても、相沢は大きく言葉を飾ることなく答えた。
三浦はそこで打撃の話を切り上げ、次に守備へ話題を移した。
「途中から二塁に回りましたけど、遊撃との違いは感じましたか?」
「動き方は違いますけど、キャンプでも練習しているので特に困ることはなかったです」
「今後、二塁で出ることにも抵抗はないですか?」
「ないです。どこで出てもやるべきことは変わりません」
相沢は守備位置を問われても、迷うことなくそう答えた。どこを任されても、その場でやるべきことをこなすという考えは変わらなかった。
三浦はそこまで聞くと、最後にこの先について質問した。
「今日が最初の対外試合でした。これからキャンプでアピールしていきたい部分はありますか?」
「まずは自分のできることを続けていきたいです。今日の走塁のような細かいプレーでもアピールできたらいいなと思います」
三浦は最後まで聞くと手元のメモを確認した。周囲の記者からもいくつか短い質問が続いたが、取材はそれほど長くはかからなかった。
「ありがとう。引き止めて悪かったね」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
相沢が軽く頭を下げ、その場を離れる。
控室へ向かう途中では、まだ何人かの選手が記者に囲まれていた。相沢もその横を通り抜けていくと、少し先で宮原が待っていた。
「ほら、言ったとおりだっただろ」
「はい、これがプロなんですね」
宮原は笑いながら歩き出し、相沢もその隣に並んだ。
その後、選手たちは球団バスで宿舎へ戻った。夕食前には短いミーティングが行われ、この日の試合について簡単な振り返りと翌日の予定が伝えられた。
ミーティングを終え、夕食を済ませた相沢と宮原は自分たちの部屋へ戻った。
しばらくして、スマートフォンを見ていた宮原が不意に声を上げる。
「相沢、お前の記事上がってるぞ」
「早いですね、どれですか?」
相沢が身体を起こすと、宮原がスマートフォンの画面を向けた。
表示されていたのは、日邦スポーツのWebサイトだった。
『マリナーズ高卒新人・相沢、初実戦で適時二塁打 走塁でも存在感』
記事を書いたのは、試合後に取材していた三浦拓海だった。
「なかなかの見出しじゃないか。反応も上々だぞ」
宮原が画面を下へ送ると、記事の下にはすでにいくつものコメントが付いていた。
「結構見られてますね」
「新人の結果はみんな気になるからな」
相沢も隣から画面を覗き込んだ。コメント欄には、打撃だけでなく走塁や守備に触れた反応も並んでいる。
『足はかなり使えそう』
『ショートだけじゃなくセカンドも普通に守れるのは便利だな』
『9位の割に期待値が高そう』
「打ったこと以外も結構見られてますね」
「最近のファンはデータを持ち出したり目が肥えてるからな」
宮原はそう言いながら、もう一度コメント欄を眺めた。
「まあ、すぐ名前も覚えてもらえそうで良かったじゃないか」
「そうですね、この調子で頑張ります」
相沢の返事に、宮原は小さく笑った。
相沢はもう一度、画面に表示された記事とコメント欄へ目を向けた。試合で結果を残せば、プレーの細かい部分まで見られ、それがそのまま評価につながっていく。
初めての対外試合を終え、相沢はプロ野球選手として試合に出るということを、少しずつ実感し始めていた。
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次話もよろしくお願いします。




