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ドラフト9巡目の二刀流 ~入団したら順位は関係ない~  作者: 愛太郎


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第4話 春季キャンプ開幕

~前回までのあらすじ~


ドラフト9巡目で横浜海嶺マリナーズへ入団した相沢直人。

新人合同自主トレでは走力や守備で評価を高め、野手として順調なスタートを切る。一方、投球を確認した首脳陣からは投手としての可能性も見出され、サイドスローへの挑戦が始まった。

野手と投手、両方の可能性を残したまま、相沢は初めての春季キャンプを迎える。

1月31日。


横浜海嶺マリナーズの二軍キャンプ組は、キャンプイン前日に沖縄入りした。朝に横浜を発ち、飛行機で那覇へ渡ると、空港からは球団のバスで宿舎へ向かう。到着した頃には、すでに日が傾き始めていた。


ロビーではスタッフが部屋割りを確認しながら、選手たちへ順番に鍵を渡している。相沢も自分の名前を探していると、同室の欄に「宮原拓海」という名前を見つけた。高卒2年目の内野手だと、事前に聞いていた名前だった。


「お前が相沢だな。俺は宮原だ」


声をかけられて振り返ると、日に焼けた選手が歩み寄ってくるところだった。


「はい、相沢です。宮原さん、よろしくお願いします」


「よろしくな。俺もまだ2年目だし、そんな固くならんでいいよ」


宮原はそう言って鍵を軽く掲げると、そのままエレベーターへ向かって歩き出した。移動中に姿を見かけたことはあっても、まともに言葉を交わすのはこれが初めてだった。今季は三塁を中心に一軍を狙っていると聞いている。


部屋には2つのベッドが並び、その間に小さなテーブルが置かれていた。宮原は迷わず奥のベッドへ荷物を下ろす。


「俺、奥使うけどいいか?」


「はい、どっちでも大丈夫です」


「あと机の下にもコンセントあるから使えよ。去年、最初は気づかなくてたこ足買いに行くところだったんよ」


軽く笑いながら教えてくれる様子に、押しつけがましさはない。相沢も礼を言って荷物を解き始めた。高校時代も、大会や遠征でチームメイトと寝泊まりすることには慣れていた。ただ、ほとんど話したことのない相手と2人で同じ部屋を使うのは、これが初めてだった。


「相沢は内野のどこを守りたいんだ?」


棚に練習着をしまいながら、宮原が尋ねてくる。


「ショートですけど、セカンドやサードも守ると思います」


「じゃあ結構一緒になるな。俺はサードがメインだと思うけど」


「高校の時はショートもやってたんですよね?」


「ああ。でもプロでショートを任されるやつはほんの一握りだからな。俺なんてすぐサードにコンバートされたよ」


宮原は特に気にした様子もなくそう答えた。


「それに一軍のショートはあの久我さんだからな。そもそもチャンスすらないぜ」


久我慎吾。マリナーズの正遊撃手で、攻守ともに球界を代表するスター選手の一人だ。侍ジャパンにも選ばれており、プロ入り前の相沢も当然その名前を知っていた。打線では中軸を任され、長年チームの中心として遊撃を守っている。


「確かに久我さん相手の競争は厳しいですね。まあ試合に出られるならどこでもやりますよ」


「とはいっても久我さんも若くはないから、相沢が一軍に上がるころには案外空いてるかもな」


宮原は少し笑った。


「まあ、俺も早く二軍は卒業したいし、お互い頑張ろうや」


「はい。頑張ります」


相沢は頷いた。初めてまともに話したばかりだったが、接しやすい先輩なのはすぐに分かった。


2人はそのまま、ミーティングまでの時間を使って荷物の整理を続けた。


まもなく館内放送でミーティングの集合が告げられ、2人は部屋を出た。


会場には二軍キャンプに参加する選手、首脳陣、スタッフがすでに集まっている。相沢は新人合同自主トレから顔なじみになっていた宮地たちを見つけ、その近くに腰を下ろした。宮原も同年代の選手たちと短く言葉を交わしてから席についた。


全員が揃うと、二軍監督の水野修司が前に立ち、翌日からの練習予定や第1クールの方針、集合時間や移動について順を追って説明していく。特別な内容ではなかったが、新人合同自主トレとは明らかに違う空気があった。明日からは新人だけではなく、二軍の先輩たちに混じって練習することになる。


説明を聞きながら周囲の顔ぶれを見渡すと、一軍へ上がるためにはこの中で結果を残さなければならないのだと、改めて実感する。それでも、不安より楽しみの方が大きかった。


ミーティングを終えると、選手たちはそのまま夕食会場へ移った。食事を終えると各自部屋へ戻り、相沢も翌日の準備を済ませて早めに床についた。


2月1日、横浜海嶺マリナーズの春季キャンプが始まった。


グラウンドへ出ると、新人合同自主トレまでとは顔ぶれが一変していた。同期だけでなく、昨年まで二軍で試合に出ていた若手、一軍を経験した選手、プロで長く生き残ってきた選手も混じっていた。相沢はその中でウォーミングアップを始める。


全体のアップを終えると、選手たちはそれぞれの練習へ分かれていった。


「相沢、内野の集合はあっちだ」


宮原に声をかけられてついていくと、すでに何人かの内野手が集まっていた。相沢も順番に挨拶を交わしていく。新人だからといって特別な紹介があるわけでもなく、すぐにその日のメニューについて説明が始まった。相沢にとっては、その方がありがたかった。


新人合同自主トレでは、自分たち新人が練習の中心だった。ここでは違う。相沢もまた、その集団に加わった1人に過ぎない。


説明が終わり、選手たちが準備へ移ると、相沢もグラブを手に取った。


同じポジションを争う先輩たちがどんな動きを見せるのか。その中で、自分がどこまでやれるのか。


見るものも、見せるものも、これまでより格段に増えていた。


相沢は内野手たちとともに、最初の練習へ向かった。


* * *


最初の内野守備では、相沢は二塁を中心にノックを受けた。


三塁には宮原が入り、遊撃や一塁にもそれぞれ二軍の内野手がつく。相沢は自分の順番をこなしながら、周囲の動きにも目を向けていた。捕る、投げるといった守備そのものに大きな戸惑いはない。ただ、プロでは打者や状況に応じた守備位置、併殺を想定した連係など、高校まで以上に細かな判断が求められる。相沢にとって増えたのは、守備技術そのものより覚えるべきことの種類だった。


その日の守備練習を終えたあとも、佐伯から指摘された二塁での足運びを何度か確認する。捕球後に二塁へ送るのか一塁へ投げるのか。その判断をより早く送球動作へつなげるための細かな修正で、大きく形を変えるようなものではない。


「相沢、次打撃だぞ」


三塁側から宮原に声をかけられ、相沢はグラブを外した。


「今行きます」


キャンプ序盤は、守備、打撃、走塁、トレーニングと基本的なメニューが続いた。木製バットは高校最後の大会を終えてから使い続けている。合同自主トレの頃にはすでに感触にも慣れており、キャンプに入ってから大きく戸惑うことはなかった。


打撃投手を相手にしたフリー打撃で、相沢は次々と打球を打ち返していく。特に外角の直球には迷いがなく、無理に引っ張らず球の勢いに逆らわないようバットを出すと、芯で捉えた打球が左中間方向へ何度も伸びた。後ろで見ていた二軍打撃コーチの小松亮介が、その打球の行方を追う。


「相沢、逆方向の打球は結構伸びるんだな」


「流し打ちの方が打ちやすいんですよ」


「なら無理に引っ張らなくていいな」


「はい」


一方で内角へ来た直球を引っ張りにいくと、芯に近いところで捉えても打球は右翼の手前で失速した。外角の球なら投球の勢いをそのまま利用できるが、内角を引っ張るときれいに捉えても思ったほど飛ばない。相沢自身、そのことはすでに感じ取っていた。


「そこは無理して飛ばそうとしなくていい。今のお前なら、強い打球になるところをしっかり打てばいい」


「分かりました」


自分に長距離打者ほどのパワーがないことは分かっている。だからこそ、どの球を打つかが大事だった。変化球も見えているし、甘ければ捉えられる。ただ、球速の落ちる変化球を自分の力だけで飛ばそうとすると、きれいに当たっても外野フライで終わることが多い。その点、直球なら投球そのものの勢いを利用できる。だから追い込まれるまでは、基本的に直球を待つ。変化球を打てないからではなく、より強い打球になりやすい球を選んでいるだけだった。


キャンプが数日進むと、実戦形式の打撃練習も始まった。相沢が左打席へ入る。マウンドには、二軍で登板経験を積んでいる右投手が立っていた。打撃投手とは違い、打ちやすいところへ投げてくれるわけではない。


初球、外角へ来た直球を相沢は迷わず振りにいった。タイミングは合っていたが、打球は左方向へのファウルになる。球速だけなら高校時代にも同じ程度の投手とは対戦しており、直球そのものに振り負ける感覚はなかった。


続く2球目は、途中までは直球とほとんど同じ軌道だったが、手元でわずかに横へ動いた。相沢はバットを出さずに見送り、ストライクを取られる。


「今のカットボールですか?」


捕手に尋ねると、短く頷かれた。球は見えているし、曲がったことも分かる。ただ、直球との違いがはっきりした時には、すでにかなり手元まで来ていた。高校時代にも変化球のいい投手とは対戦してきたが、曲がりの鋭さや球速、手元での変化は明らかに一段上だった。


その打席は結局、甘く入った球を捉えきれずに凡打で終わったが、何打席か回ったところで小松が相沢を呼んだ。


「どうだ、プロの球は」


「変化球のレベルが違いますね。見えてないわけじゃないですけど、反応だけで捉えるのは難しそうです」


「さっきのカットボールとか?」


「はい。でも慣れたら打てないってほどでもないです。ただ、俺の場合は変化球を打ってもあんまり飛ばないんで。基本ストレート待ちです」


小松は、さっき相沢の打球が伸びていた左中間へ目を向けた。


「球の勢いを使えるから?」


「そうです。特に外のストレートはその方が打球が伸びるんで」


小松は少し考えてから頷いた。


「それなら無理に変える必要はないな。ただ、相手もずっとストレートを投げてくれるわけじゃないぞ」


「まあ追い込まれたら、変化球も振りますよ。厳しい球はカットすればいいだけですから」


小松が笑った。


「簡単に言うなあ」


「でも、基本ですよね?」


「まあ確かに……みんなそれができれば苦労はしないんだがな」


次の打席では、その言葉通りの展開になった。低めのスライダーと外角のカーブを見送って早々に追い込まれると、相沢は際どい変化球を2球続けてファウルで逃がし、じっと直球を待ち続けた。そして甘く入った外角の直球を逃さず振り抜くと、打球は左中間へ低い軌道で伸び、そのまま外野の間を抜けていった。


打席を離れながら、相沢は小さく頷いた。高校まで続けてきた打撃そのものを変える必要はなさそうだった。ただ、相手にする投手のレベルは明らかに上がっている。


練習が終わったあと、小松は手元のメモを確認しながら、水野へ声をかけた。


「相沢、打つ方も面白いですね」


「もうプロの球に対応できそうですか?」


「そこまではまだ分かりません。実戦になれば配球ももっと厳しくなるでしょうし」


小松は少し間を置いた。


「ただ、ストレートにはかなり強いです。それに変化球が見えてないわけでもない」


「じゃあ、どうしてあまり振らないんです?」


「本人なりに打つ球を選んでるみたいです。変化球を打つより、ストレートの勢いを使った方が強い打球になるって」


「なるほど」


新人合同自主トレでは、木製バットを問題なく振れているところまでは確認できた。キャンプに入り、その先も少しずつ見え始めていた。


野手としてプロの練習に加わる中で、自分の打撃がどこまで通用するのか。その感触も、少しずつ掴み始めていた。


* * *


キャンプでは、通常の練習と並行して投球練習も続けていた。


新人合同自主トレで試し始めたサイドスローは、二軍投手コーチの片桐と調整を重ねている。


横から投げること自体には、もうそれほど戸惑いはない。


課題になっているのは、その先だった。


その日も野手のメニューを終えたあと、相沢は投手用のグラブを持ってブルペンへ向かった。


「今日はストレートとスライダー中心でいこう」


片桐がボールを渡す。


「コントロールと、球種ごとに変な癖がついていないか。その二つを確認する」


「分かりました」


捕手を務めるのは篠崎航平だった。高卒3年目の20歳で、強肩を武器に二軍で経験を積んでいる若手捕手だ。口数は多くないが、投手の球やフォームの変化をよく見ている。キャンプに入ってから何度か相沢の球を受けており、サイドスローへ取り組み始めてからの変化も見ていた。


軽く肩を作ると、相沢はマウンドへ上がった。


最初は真っすぐを中心に投げていく。


外角、内角、低め。


篠崎が構えたところへ球を集めながら、自分の感覚を確かめる。


高校まで長く続けてきたフォームなら、ほとんど意識しなくても同じような位置でボールを離すことができた。


今はまだ、そこまで身体に馴染んでいない。


少し早く離せば球は抜け、遅れれば引っかかる。無理に横から投げようと意識すれば、今度は身体の回転まで崩れてしまう。


数球投げたところで、外角を狙った直球が高めへ抜けた。


「今のはリリースが早い」


片桐がすぐに声をかける。相沢も返球を受けながら頷いた。


片桐は相沢の投球フォームを確認しながら続けた。


「腕の高さを意識しすぎるな。自分が一番自然に投げられる位置を固めて、そこを毎回再現できるようにしろ」


相沢は一度マウンドを外れ、何度か投球動作を繰り返した。


サイドスローといっても、横から投げればそれでいいわけではない。


自分が無理なく腕を振れ、なおかつ狙ったところへ投げられる位置。


そこを身体に覚えさせる必要があった。


再びマウンドへ上がる。


今度は外角低めへ真っすぐが決まった。


続けて内角。


少し甘く入ったものの、大きく外れることはない。


何球か投げたところで、片桐がスライダーを要求した。


サイドスローへ変えてから、最も目に見えて変化した球種だった。


相沢が投げ込むと、ボールは横へ大きく曲がりながら篠崎のミットへ収まった。


もう一球。


今度は外角からさらに外へ逃げていく。


相沢は返球を受けると、少し考えた。


「ストレートとスライダーで変な癖とか出てないですか?」


「今のところは特にないな」


片桐は相沢のフォームを確認しながら答える。


「ただし、曲げることばかり意識しすぎるなよ。変化量より、フォームを固める方が優先だ」


「分かりました」


相沢はもう一度構える。


曲げようとはしない。


真っすぐと同じ感覚で腕を振り、握りと指のかかりだけを変える。


投げ込んだスライダーが再び横へ変化した。


以前よりも投げ方を探す時間は確実に減っていた。


休憩に入ったところで、ブルペンの近くにいた藤森健太が相沢へ声をかけてきた。


「相沢、だいぶものになってきたじゃん」


独立リーグを経て育成でマリナーズに入団し、昨季途中に支配下登録を勝ち取った26歳の変則右腕だ。遠回りしながら一軍のマウンドまでたどり着いた苦労人で、昨季は一軍でも数試合に登板している。


キャンプに入ってからブルペンで顔を合わせることも多く、相沢のサイドスローについても何度か話していた。


「最初の頃よりは全然いいよ。だいぶ自然になった」


「自分でも投げやすくなってきました」


「なら順調だな。俺も昔は腕の位置を気にしすぎたことあるけど、結局は自分が投げやすいところを固めるのが一番だったよ」


「やっぱりみんな同じなんですね」


藤森はそこで軽く笑った。


「サイドに限らずフォームはそういうもんだろ」


「言われてみればそうですね」


短いやり取りを終え、相沢は再びマウンドへ戻った。


その後も片桐の指示を受けながら予定していた球数を投げ終えた。


篠崎が防具を外している間、相沢はボールを片づけながら声をかけた。


「篠崎さん、受けててどうでしたか?」


篠崎は少し考えてから答えた。


「球種ごとの癖はかなり無くなったと思う」


「まだありますか?」


「少しはな。でも最初の頃ほどじゃないし、スライダーも前より自然に出てくるようになった」


篠崎は外したマスクを脇に置いた。


「もっと良くなれば、実戦でも通用しそうですか?」


「そうだな。再現性さえなんとかできれば二軍相手なら通用するかもな」


相沢は頷き、左手を軽く握った。


最初に横から投げた時より、感覚はずっとはっきりしている。まだ完成とは言えないが、少なくとも進んでいる方向は間違っていなさそうだった。


* * *


キャンプも最初のクールを終え、翌日には初めての対外試合を控えていた。


その日の練習を終えると、選手たちは球団バスで宿舎へ戻った。相沢も部屋で着替えを済ませ、宮原とともにミーティング会場へ向かう。


全員が揃うと、二軍監督の水野が翌日の予定を確認していった。


集合時間、球場への移動、試合前の練習。続いて投手の登板予定が伝えられる。投手はそれぞれ1、2イニングを目安に登板し、野手もスタメン組を含めて途中から順次入れ替える予定だった。


キャンプ最初の実戦ということもあり、1人を長く使うより、多くの選手を試すことが優先される。


水野は手元の紙へ目を落とした。


「次、明日のスタメンを発表する」


相沢も顔を上げる。


1番から順番に名前が読み上げられていった。


「7番、ショート、相沢」


「はい」


短く返事をする。


対外試合が始まれば出場機会はあると思っていた。ただ、最初の試合からスタメンに名前が入るとは考えていなかった。


オーダーを一通り読み終えると、水野は途中からの守備変更についても説明していく。


「相沢は途中からセカンドに回す。6回を目安に交代だ。両方準備しておけ」


相沢は頷いた。


水野は全体を見渡した。


「明日から実戦に入る。最初の試合だから、結果だけで全部決めるつもりはない。キャンプでやってきたことを試合でも出せるか、まずはそこを見る」


選手たちは黙って聞いている。


「ただ、結果を出したやつには当然次のチャンスも増える。試合に出る以上、しっかりアピールしてこい」


新人合同自主トレでは身体能力を見られ、キャンプに入ってからは守備や打撃を練習の中で見られてきた。


明日からは、相手のいる試合の中で評価される。


そう考えると、相沢の胸にも少しだけ緊張が生まれた。


甲子園のような大舞台とは違う。観客の多い公式戦でもない。ただの練習試合だ。


それでも、プロ野球選手になってから初めて迎える試合だった。


ミーティングが終わると、選手たちはそれぞれ席を立った。


会場を出たところで、宮原が声をかけてくる。


「良かったな、スタメンじゃん」


「そうですね。いきなりスタメンで使ってもらえるとは思ってなかったので嬉しいです」


「張り切りすぎて無理はするなよ」


「はい。でもせっかく使ってもらえるんで、アピールはしたいですね」


部屋へ戻る途中、宮原がスマートフォンを取り出した。


「相沢、今から飯食い行くか?」


「そうですね。せっかくなんで行きましょう」


「なんか食いたいものある? 近くに良さそうな店見つけたんだけど」


画面には周辺の飲食店がいくつも保存されていた。


「結構調べてるんですね」


「まあな。せっかくの沖縄だし飯くらい楽しまないとな」


「そうですね。遠征の醍醐味ってやつですね」


相沢も笑った。


二人は荷物を置いてから宿舎を出て、宮原が見つけた店で夕食を済ませた。宮原は気になった料理をいくつか頼み、相沢にも勧めてくる。食事を終えると、門限より余裕を持って宿舎へ戻った。


部屋に戻った相沢は、翌日の準備を済ませてから予定表をもう一度確認した。


7番、ショート。


途中からセカンド。


6回を目安に交代。


予定は分かっている。


ベッドに入ると、最初の打席や守備で飛んでくる打球のことが自然と頭に浮かんだ。


少し緊張している。


その感覚さえ、相沢には久しぶりだった。


明日になれば、ようやくプロで最初の試合が始まる。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


第5話以降は、先行掲載しているカクヨムの投稿状況に合わせて、こちらも順次更新していく予定です。


引き続きよろしくお願いします。

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