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異世界帰りの大賢者  作者: 九一七
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第八話:相棒

 PCを組み立てた翌朝、波留は午前8時ごろに目覚めた。寝たのが遅かったとはいえ、いつもはもっと早く目覚める彼だが、やはり界渡りの転移魔法を使った疲れがまだ残っているのだろう。


――寝過ごしたか……。魔力もほんの少ししか回復してないし。


 空気中の魔素濃度が異世界の100分の1程度しかないのだから、それも仕方がないことだろうと波留は諦めた。けれども魔力は早いうちに回復するに越したことはない。彼はその方法をいずれ確立しようと決めたのだった。


 それはいいとして、波留が1階に降りていくと、父と母の姿はすでになく、テーブルには書置きと朝食が並べられていた。彼は手と顔を洗ってから、書置きに従って味噌汁を電子レンジで温め直し、炊飯器からご飯を茶碗によそって冷たくなった焼きジャケをおかずに朝食を摂った。


 2階の自室に戻った波留は、自分のベッドの上にとあるものを収納から取り出した。それはどう見ても人間だった。20歳前後の女性、髪は波留と同じ少し茶色がかった黒のショートボブ。服装はゴスロリ風のメイドコス。肌は透き通るように白く、顔立ちは日洋のハーフっぽい感じだ。身長は181cmの波留よりやや低く、175cmほどで、女性としては高身長である。


 けれどもその女性は人間ではない。波留が異世界に迷い込んで12年目に創造した疑似生命体だ。骨格は強化された軽量金属製であり、彼が創造した人口魂魄(こんぱく)の性能によって人間らしく振舞うことができる。肌や筋肉はどちらも超強化されていて、人間並みの弾力性を保ったままかなりの強度がある。

 

 波留は目を閉じて眠っているように見える彼女の額に手をかざし、ほんの少しだけ魔力を流し込んだ。すると少し間を置いて彼女のまぶたが開いていく。


「ごきげんよう、マスター。転移は無事成功したんですね」

「うん、成功したよ、沙耶。今はこっちに来て3日目の朝だ」


 波留に沙耶と呼ばれた女性は、上体を起こすと周囲を見渡した。


「魔素濃度がひどく薄いですね」

「うん、正確には計ってないけど、あっちの世界の100分の1程度だよ。でも、有るのと無いのとでは全然違う」

「そういえば言ってましたね。この世界に魔素はないだろうって」

「そうだね。僅かでも有ったことは幸運だったよ。考えていたより、いろんなことが出来そうだ」


 異世界にいたころ、波留は日本に戻れた後のことも当然ながら計画していた。魔力は収集していた大量の魔石を少しずつ使えば、かなりの年数いろいろなことができる。魔力が使える期間を使って生活の基盤を整え、社会的立ち位置を築き、人生を楽しみながら悠々自適の生活を送る予定だった。


 けれども魔素が存在するとなれば話が変わってくる。異世界より魔素濃度が極端に薄かろうが、かき集めればいくらでも魔力は補填できる。するとどうなるか?


 魔力を永続的に使えるということは、魔力が有限な場合よりも圧倒的に寿命が延びるということである。生きるのに嫌気がささないかぎり、波留の寿命は無限と言っても過言ではない。


 そうなると、立てていた計画以上のことができる。考えていたことよりも大きなことができる。社会的地位を築き、悠々自適な生活を楽しむ予定に変わりはない。


 けれども、腐るほどの時間があるならば、もっと腰を据えて大きなこと、すなわち、地球の一般常識を今までよりファンタジーなものに改変したり、徐々に悪化している日本の状況を良くしてみたり、予定より圧倒的な社会的地位を獲得してみたり、使い切れないほどの大金を稼いでみたりと色々なことが可能になってくる。


 だから波留はその準備のために沙耶に告げる。


「まずはそのパソコンの仕組みと使い方を覚えてくれ。終わったらパソコンを使って世界中の状況を把握し、この世界の常識と、とりあえずは英語とロシア語、中国語を学んでくれ。フェイク情報が山ほどあるから騙されるなよ」

「かしこまりました。これがパソコンですか」


 波留が椅子に座った沙耶の肩越しにマウスを操作してブラウザを立ち上げた。


「ここにこうやって文字を打ち込んでEnterを押せば検索結果が表示されるから」

「かしこまりました」


 沙耶が作業をはじめたのを見て、波留は残っていたディスプレイ2台の修理に取り掛かった。彼女の能力があれば、手動のマウス操作であっても、ブラウザのウィンドウを複数立ち上げてサイトを開く待ち時間を利用しながら3画面をロスなく使いこなせるはずだ。


 だからそれを実現するために波留はディスプレイを修理しているのである。


 しばらくしてディスプレイの修理が終わるころには、沙耶は恐ろしい速度でページをスクロールしながら情報を読み込んでいた。すでにパソコンを使いこなしつつある。


「沙耶、この二台のディスプレイもこのケーブルで繋いで3画面で作業してくれるか」

「かしこまりました。マスター、この世界は面白そうですね。魔法もないのにこれほど文明が発達していて、けれども付け入る隙と、とっかかりは向こうの世界より遥かに多い」

「まぁ、社会が複雑になると綻びが増えるからね。それに人口の多さも桁がぜんぜん違うし」

「そうですね」

「じゃぁ俺は別の作業を進めるから引き続き頑張って」

「かしこまりました」

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こちらの作品「逆行転生自己育成リア充計画~リトライ、リア終小説家のかなり遅すぎた初恋~」もよろしければお読みくださるとうれしいです。
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