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異世界帰りの大賢者  作者: 九一七
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第六十六話:電力会社からの相談

 2029年も6月に入って温かくというか猛暑日になったりする日が出てきだしたころ、波留はとある電力会社の重役から相談を持ち掛けられた。


 それは波留が核融合発電所の建設現場に視察に訪れたときだった。


「霊力を用いて重水素プラズマのベクトル制御が出来るのでしたら、放射線の制御も可能なのでは?」


 ヘルメットをかぶって工事現場を遠目に見ながら、電力会社重役からの何気ない質問に波留はこう答えた。


「霊力の特性上、原子や分子のようなミクロな物質の制御は最も得意とする分野になりますね。つまり放射線の制御もわりと容易だということになります」


 本来は霊術をかける対象が大きかろうが小さかろうが、関係なく霊力によって様々なことが出来るのだが、この地球世界では霊子濃度が薄すぎることから、大きな霊力を使うためには霊子を集めて濃度を上げるという工程が必要になる。


 だからそれほど霊子濃度を上げなくて済む原子や分子のような小さな物質の制御が楽になる。


 ちなみに、地球上で霊子をどれだけかき集めても霊子が枯渇するようなことは起きない。その理由はおそらく宇宙全体に霊子が光速で飛び交っているからである。宇宙から見れば地球みたいなチリのような存在でどれだけ霊子をかき集めたところで、その濃度が識別可能なレベルまで変化することはあり得ないだろう。


「福島の原発事故処理も御社でしたらどうかと思いましてな」

「そうですね、いくつかの装置開発などが必要になりますが、アンドロイドに作業させれば比較的安全に事故処理できるでしょう」


 この会話が切っ掛けになって話がとんとん拍子に進んでいった。現在廃炉に関わる事故処理費用が年間3000億ほどかかっているらしく、しかも除染や汚染水貯蔵及び処理にも別途費用が掛かっているらしい。


 これらは電気代にも乗ってくるわけで、波留が事故処理を引き受ければ核融合発電と合わせて電気代の抑制にも繋がるだろう。


「ちなみに事故処理費用は総額でどの程度と見積もられていますか?」

「そうですね、さきほど申しましたとおり廃炉や除染、汚染水処理の完了までの総額で15兆弱、賠償費が10兆弱といったところです」


 つまり原子力発電にはそれくらいのリスクがあるということであり、如何に核融合発電が低リスクであるということの裏付けが取れたということでもあった。


 それはさておき、波留としてはこの相談には積極的に乗っていこうと即断した。賠償に関しては知ったことではないが、事故処理費用と期間に関しては大幅に圧縮が可能だからだ。


 もともと危険作業を担うアンドロイドの開発は進めてきたし、事故を起こした原発の廃炉作業も想定事例に入っていた。


 そしてこの仕事はアンドロイドの有用性を示す絶好のPRにもなるし、田中グループのイメージUPにもつながる。さらに、多額の補助をしている政府に対する立場も補強できる。




 本社ビルに帰社した波留は、田中ロボテクスの幹部社員を集めて会議を開き、この仕事を受ける決定を下した。波留の役割はアンドロイドの放射線防護処理と除染装置の開発だ。


 汚染水処理については今現在稼働している処理装置で充分に間に合っているらしく、新たな開発は不要だと判断した。


「危険作業用アンドロイドは来月末までに最大何体用意できますか?」

「そうですね、放射線防護処理を除けば最大200体は用意できます」


――200体も必要ないな……50体もあれば充分か。

 

「では50体用意できた時点で研究所に回してください」


 電力会社は廃炉作業と除染作業で、総額12兆円を見積もっているとの情報を波留は得ていた。営業部にはその一割の1兆2000億円を受注額最低額とし、できるだけぶん取ってこいと送り出した。




 廃炉と除染を合わせた工期を波留は受注確定後半年と見積もり、それと処理費用の安さを武器に営業部隊が頑張った結果、倍額を超える2兆5000億の一括払いで受注することに成功した。


 その報を聞く前から、波留は除染装置というか除染器――見た目は掃除機のような簡単な機械で、放射性物質だけを抽出して除染機内部にため込むことができる――をほぼやっつけ仕事で5台完成させていた。


 アンドロイド50体の放射線防護処理は装置を使わず、波留が直接霊術を付与するだけに留めた。今後ほかの原発の廃炉工事とかを見据え、放射線防護処理装置の開発は行うつもりだが、今はとりあえず時間を優先した形だ。


 2兆5000億円という受注価格は、国の補助がほぼ不要になると考えていた波留だが、一括2兆5000億円はやはり厳しいらしく、国が半額を補助することになったようだ。それでも政府にも電力会社にも貸しを作れたことに波留は満足だった。政府や電力会社からは感謝状まで貰えることになり、良いPRになるからと素直に受け入れることにした。


 とはいえ、国が電力会社に補助した金額の7割弱は税金で持っていかれることが確定していて、国の痛手はかなり小さくなったというのも感謝状が贈られた一因になっているようだ。



 こうして日本が抱える問題を一つ解消するめどをつけた波留は、日本は及ばず世界への発言力を強化することになったのである。

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