第六十四話:霊力核融合発電のその後
経済産業大臣らとの話し合いを終えた波留はすぐに動いた。発電設備の建設に関わった経験がる技術者と組み立て作業員だけにとどまらず、機械系の技術者と組み立て経験者を業界問わず大々的に好待遇で募集をかけ、田中電力の社員を一気に5倍に増強したのである。
試作発電設備に関わった技術者や工員をリーダーにして入社してきた社員たちを割り振り、部隊を5つに分け、1部隊で1設備を設計から設備建設完了まで任せることにした。
大型発電設備の建設には顧客――電力会社――の引き合いから建設完了まで1年近くかかると予想できたので、波留が予測していたとおり、今のところ1年で5基の核融合発電所が建設できる見込みだ。
技術者や工員の募集は引き続き行われているが、これから日本中で核融合発電所の建設ラッシュが起こることが分かっていることから、良質な人員の確保に手間取ることになった。発電設備関係の他社も人員を増強しはじめたからだ。
それでも給与の高さと待遇の良さまで他社には真似できず、良質な人員は増えていった。同時に、外注先に選ばれた協力会社の社員も研修という形で多数受け入れ、今後その他社社員が日本全国に散って発電設備の建設にあたることになっている。そしてその中には、国外に出向いていく者も含まれていた。
第一陣の納入先に関しては5基すべてが日本の大手電力会社に決まったが、その後増強した人員によって国外向けの核融合炉が製造されることになった。
国外向けの核融合炉に関しても、どんな政治的力学が働いたのか波留は聞き及んでいないが、アメリカに12基、欧州に合わせて8基、インドに5基、カナダに2基、韓国に1基がとりあえず収められることになった。もちろんこれは政府の要請を受け入れた結果である。かなり高度な政治的かけ引きがあったことは間違いないだろう。
世界情勢では原油価格が大暴落を起こし、ガソリン代がかつてない安値になっていて、円安傾向が円高傾向へと転換した。
それはいいとして、致命的な問題が起こらなければ、引き続き国外への輸出は継続され、その数量は段階的に増えていくだろうと波留は聞き及んでいる。
100万Kw級核融合発電設備の価格は2000億円に設定された。核融合炉は1基あたり1200億円だ。核融合炉1基あたりの製造原価は現時点で400億円程度だから、1基売れればそれだけで800億円近い営業利益になる。このくらいの価格帯になると人件費は誤差の範囲だ。
将来的には核融合炉1基を800億円で販売しようと考えている。それを想定して波留は売価を1.5倍にし、リスクヘッジだと言い張って電力会社に認めさせた経緯があった。
それでも原子力発電設備の1/4~1/6程度の値段だから、電力会社にとってもまだまだ格安であることに変わりがない。さらに、超絶面倒な核燃料や使用済み核燃料の管理が不要になるから、それ用の設備投資費や人件費、処理費用も不要になることで、今後電気代は少しづつではあるが核融合発電所が増えるのにつれて安くなっていくだろう。
今年度はとりあえず国内5か所の核融合発電所と国内外合わせて50基の核融合炉の売買契約が決まったのであるが、この内田中電力が直接担当するのが核融合発電所5か所と、核融合炉20基である。残りの核融合炉30基は外注であるが、人員の指導料込みで外注費が1基あたり350億円に決まった。外注費が当初の工場原価より下がったのは、材料と部品の量産効果によるものである。
以上の情報をもとに大雑把ではあるが営業利益を算出すると、4兆7000億円程度の営業利益になる見込みである。したがって純利益は3兆1000億円程度になると予測できた。
これは田中電力が、収益だけで見ると一躍日本のトップ企業グループに肩を並べるということを意味している。そして来年度か再来年度には間違いなく日本一の収益を出す企業へと上り詰めることが確実になった。
帰還を果たしたばかりの波留は両親に10年かからずに日本一になるということを宣言していたが、実質5年程度でそれを果たそうとしている。
さらに、再来年度には霊薬関係各種が認可されるだろうから、その収益とアンドロイドの収益をプラスすれば、田中グループの収益は一気に世界トップレベルへと上り詰めるだろう。
各国の法律の壁があるとはいえ、リスクがほとんどなく、薬効が恐ろしく優秀な各種霊薬は、どの国から見ても手に入れようと躍起になるはずであり、そのときには政治家に頑張ってもらって楽をしようと波留は考えている。苦労は買ってでもせよという教訓があるが、すでに異世界でとんでもなく苦労してきた彼は、もう苦労は御免こうむりたいのである。
それはいいとして、そこまで田中グループが大きくなれば、波留の発言力はどんな国であっても無視できないほどに大きくなり、彼の当初の目標を成し遂げる目処が立ったと言えるだろう。
もちろん波留はそんなところで足踏みしようとは考えておらず、圧倒的な世界一位の資金力と発言力を得るまでは突き進むつもりでいる。
「――今年度の収支予測は以上になります」
本社ビルの最上階で白川から報告を受けた波留は、次に手を付ける事業はなににしようかと考えはじめるのだった。




