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異世界帰りの大賢者  作者: 九一七
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第六十二話:動画投稿サイトだけのつもりが その二

 沙耶によって開設された総合エンターテインメントサイト「総タメ」の存在感は日に日に増していった。彼女は総タメを運営するにあたって、儲けることを一切考えていない。


 極端な話、たとえ1000億の赤字を出そうとも構わないとさえ沙耶は思っている。広告やコンテンツの輸出、書籍販売などの収益は出るだろうから、さすがにそんな額の赤字になることはあり得ないだろう。というかおそらくトントンくらいにはなるだろうというのが、彼女が掴んでいる感触である。


――ちょっと煽りすぎましたか……。


 超破格の賞金が効いたのだろうが、第一回の総タメ大賞への応募作品数がとんでもないことになっていた。応募はひとり2作品まで――漫画は40~50ページ、小説は10万文字~15万文字、全部門未発表作品に限る――と制限を付けていたが、5万作品を超える応募があったのだ。その8割以上が小説部門であり、とてもじゃないが人間が公平に審査できる作品数ではなかった。


――仕方がありませんね。


 沙耶は忸怩たる思いを抱きながらもAIに頼ることにした。芸術分野の創造性が必要な要素にAIは関わらせたくないという思いと、公平に審査しなければならないという思いがぶつかり合い、後者が勝ったということである。


 少し補足しておくと、波留はエンタメ業界がAIを使用することを嫌っているわけではない。人間だけが持つ創造性に関わる要素をAI が生成すべきではないと考えているだけだ。


 例えばアニメなら、原画や美術、背景、ストーリーやセリフなどである。AIは原画マンが描いたシーンとシーンの繋ぎ、つまりアニメーターが担当していた部分をAIに担当させるわけであるが、それでアニメーターの仕事がなくなるわけではなく、アニメーターは原画マンが描いたシーンとシーンの間をさらに細かく区切って表情や動きの変化を今までよりも精密に描き、その細かく区切ったシーンとシーンの間のコマをAIに補完させるということになる。


 そうすることでアニメーターの仕事も楽になるし、作品の品質も良くなるし、人間の創造性も失われないと波留は考えている。要するにAIは時間と労力と根気が必要な単純作業を正確に素早くこなすことが役目になる。


 また、たとえば実写映画などでクリエイターのイメージ通りの魔法などのエフェクトを生成させたり、人間では不可能な例えば空中戦の様子を出演俳優の姿形そのままで生成させたりすることも想定している。ここらあたりが波留が考えるAIに任せても人間の創造性を失わないボーダーラインである。沙耶はそんな波留に薫陶を受けている。


 波留自身のエゴというか思想をもろに反映させたAIの仕様になっているが、それが嫌ならば田中印のAIに関わらなければいいというのが彼の考えであり、彼がそれを曲げることはよほどのことが起こらないかぎりあり得ないだろう。


 そんなことは置いておくとして、沙耶はサイト上で、応募作品数が多すぎて予定していた人間の審査員だけでは公平な審査ができないこと、一次審査を自社製のAIに任せることを公表し、公平に審査した証として応募作品すべてに選評と順位を送付することを確約した。


 作品制作において補助的利用――誤字脱字のチェックや調べもの――以外にAIの使用を認めないというガイドラインがあるのに、審査にAIを使うとはけしからんという類のクレームは多少あったが、おおむね好意的に受け入れられたと沙耶は安堵することになった。


 むしろ作品すべてが確実に審査され、さらに選評が貰えて順位が分るならAIによる審査だろうと大歓迎だという意見も数多く寄せられる結果になった。


 また、プロアマ不問という応募資格に対して不公平だというクレームも多く寄せられたが、作品の出来が全てであって、そこにプロだとかアマだとかという区別は入り込むべきではないと沙耶は跳ねのけている。賞金額が超高額なこともあって、プロ作家からも多数の応募作が寄せられている状況だ。


――さすがにプロ作家というだけはありますね。


 当然ではあるがプロ作家の1次選考突破確率はアマチュアと比べてかなり高かった――とくにイラストや漫画――。けれども2次選考――ここから人間の審査員による選考――を通過した作品はプロアマ拮抗していて、3次選考で多くのプロの作品が落選していった。


 これは、小説ならば文章の正しさや美しさ、上手さよりもストーリーの面白さや新規性が、漫画ならば絵の上手さよりもストーリーの面白さや新規性が優先されたからであり、小説部門も漫画部門もグランプリはアマチュア作家が勝ち取っていた。ただ、絵の上手さの比重が大きいイラストだけはプロが強く、グランプリも準グランプリもプロが持っていく結果になった。


 なお、受賞者を決める最終選考においてはプロ作家を選考委員に選ばず、編集部員で受賞作を決定した。理由は、プロ作家は選考のプロではない――責任を取らせられない――からであり、また、プロ作家の名前を利用する旨味も沙耶には感じられなかったからだ。




「田中社長、そろそろ時間です」


 総タメ大賞の授賞式が立食パーティー形式で、帝国ホテルの孔雀の間にて行われている。部下に時間になったことを告げられた沙耶は、開会の挨拶を行うために控室から壇上に上がりマイクの前に立った。


「本日はお忙しいなか第1回総タメ大賞授賞式に多くの方がお集まりいただき、大変嬉しく思っています。栄えある第1回総タメ大賞グランプリを獲得したお三方、おめでとうございます。また、惜しくもグランプリには届きませんでしたが、準グランプリ、各部門賞に選ばれた方、おめでとうございます。受賞された方はたとえ佳作であっても5万作品を超える応募のなかから選ばれたということに誇りを持ち、今後も作品作りに励んでいただきたく思っております。お集りの皆さま、どうぞ拍手をもって受賞者の方々をご祝福ください」


 会場に詰めかけた関係者やエンタメ関係の賓客からの拍手が鳴り響くなか、受賞者が壇上に歩み出た。その後グランプリから順に表彰が行われ、受賞者を取り囲んでの立食パーティーがが行われた。


「ずいぶん豪華な式になったな」

「はい、奮発しました」


 会場に顔を出した波留に問われた沙耶はそう言って嬉しそうにしている。


 今回漫画部門の銀賞以上の受賞作は改稿して連載&出版が行われ、アニメ化もしくはドラマ化もしくは映画化まで確約されている。小説部門では全作品が出版&漫画化され、銀賞以上はアニメ化もしくはドラマ化もしくは映画化も確約されていた。イラスト部門の受賞者は希望者のみであるが、受賞者全員が小説の挿絵の担当が出来ることになっている。


 そんなことや破格の賞金があるからか、祝福されているからか、祝福の輪の中心にいる受賞者たちは皆が嬉しそうに笑顔を見せていた。

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こちらの作品「逆行転生自己育成リア充計画~リトライ、リア終小説家のかなり遅すぎた初恋~」もよろしければお読みくださるとうれしいです。
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