第六十一話:動画投稿配信サイトだけのつもりが その一
沙耶によって開設された動画投稿配信サイト「Your Window」は、日本国内のみのユーザーに開放される形でスタートしたが、投稿者フレンドリーであり、かつ、ユーザーフレンドリーであることと、AI作成動画のほぼ完全なシャットアウト、いかがわしい広告の完全排除、広告の設置数制限(動画開始前と動画終了後に一つづつ)及び広告の時間制限(最大10秒)、誹謗中傷コメントの即時削除とコメント投稿者の永久BANなどが受けて瞬く間に登録者が増えていった。
別の動画投稿配信サイトで人気を得ていた沙耶が動画内で「Your Window」を宣伝したことも大きく初動に影響していた。けれども、日本国内の有名動画投稿者数名が引き連れてきたファンや、SNSでの拡散も登録者数拡大に大きく貢献したようだ。
企業向けAIについては、沙耶の影響力と着々と増えていく営業部隊の頑張りもあって、契約数は飛躍的に伸びていった。もちろん契約数が伸びた一番の原因は他社を完全に置き去りにした性能にあることは間違いないが。
今では沙耶が率いる田中ロボテクスと田中ソフトウェアが田中グループの稼ぎ頭になっている。
そんな沙耶が久しぶりに本社ビルに顔を出して波留に報告をしていた。
「ずいぶん利用者数が増えたな」
「はい、登録アカウントは5000万件を超えたようです。重複登録を含みますが」
「収益の方はどうなってる?」
「今現在は若干の黒字が出ている程度ですね。もともと収支トントンでよかったですし、今は利用者数を増やすことに重点を置いてますから。ただ……」
言い淀んだ沙耶に波留が催促する。
「ただ?」
「利用者を魅了するような魅力的コンテンツというか、目玉がありませんから利用者数と登録者数が伸び悩んでますね」
「そうか、無いなら自分たちで作ったらどうだ? たとえば総合的なエンターテインメントサイトとか」
「ずいぶん資金が必要になりそうですが、よろしいのですか?」
「他の有力事業に比べたら誤差みたいなもんだろ」
「確かにそうですね。では、AI事業で出た利益から資金を割り振って総合エンターテインメントサイトを作ってみます」
そんな経緯で沙耶は「Your Window」をコンテンツの一つとする総合的なエンターテインメントサイトを運営する「株式会社総タメ」を立ち上げることにした。提供するコンテンツは映画、ドラマ、スポーツ、ニュース、アニメ、漫画、小説、イラスト、Your Window、18禁動画などなどである。このなかで有料コンテンツは、海外映画や海外ドラマと海外スポーツ、18禁動画だけだった。
ちなみに株式会社総タメは田中ソフトウェアの完全子会社であり、田中ソフトウェアは田中ロボテクスの完全子会社である。
沙耶が提出してきた計画書では、総合的なエンターテインメントサイトの中に漫画投稿サイトと小説投稿サイトとイラスト投稿サイトを作り、映画やドラマ、アニメの原作、絵師発掘の場にしようという計画があった。
さらに、有望なクリエイターを集めるために、漫画部門と小説部門、イラスト部門のコンテストを年1回同時開催し、各部門のグランプリに輝いた作品に賞金3億円、準グランプリに賞金1億円、各部門ごとに設けられた各ジャンルの金賞に賞金5000万円、次点の銀賞に賞金3000万円、佳作に賞金1000万円を贈るという超太っ腹な企画が計画されていた。
要するに超高額賞金でクリエイターを集めようという、資金力に物を言わせた身も蓋もない戦略だった。
「いいんじゃないのか。沙羅の好きなようにすればいいよ」
「ありがとうございます」
こうして波留の承認を得た沙耶は、僅か一日で総合エンターテインメントサイト「総タメ」を作り上げ、Web上に公開してクリエイターと職員の募集を始めたのである。
「総タメ」開設当初はYour Windowと、漫画投稿サイトと小説投稿サイトとイラスト投稿サイトしか稼働しておらず、少々物足りなさがあったが、それでも「総タメ大賞」というコンテストと賞金額を大々的に発表したことから、もの凄い勢いでクリエイターが集まりはじめた。
また、広告表示PV数に応じたインセンティブも先行の類似サイトより高額に設定されていたことから、クリエイターの受けは良かったが、同時にインセンティブ目当ての悪質ユーザーも増え始めた。
けれどもそこはYour Windowで得たノウハウを活かし、他社生成AIに大きく依存した作品のほとんど――100%はさすがに不可能だった――や、あからさまなパクリ作品とか粗製乱造作品を締め出すことに成功し、悪質ユーザーのほとんどを短期間でBANしていった。
他の類似サイトはAIが生成した作品を認める方向に進んでいるが、芸術は人間が人間たる所以の一つだと考えている波留にとって認めがたい行為であった。その薫陶を受けている沙耶が、AI生成作品を締め出しているのも当然のことだろう。
それはいいとして、投稿された良質な作品が増えるにつれ、閲覧者も順調に増加していき、開設半年を過ぎるころには各サイトのユーザー数で日本一を誇る人気サイトになっていった。
そしてそのころには、映画やアニメなどの映像コンテンツも増え始め、それらの閲覧を目的とした「総タメ」の利用者数も爆発的な増加に至ったのである。




