第五十九話:Top営業
2029年2月初旬、波留は沙耶、白川と共に田中ソフトと田中ロボテクスの営業部長、アンドロイドの女性型と男性型を引き連れて大手自動車メーカーへと車二台で乗り込んだ。白川は運転手と議事録作成が主な仕事である。ちなみにアポイントメントも彼が取ってくれた。
早朝に自社オフィスを出発した波留たちは、自動車メーカーの本社工場にある大きめの会議室に通され、名刺交換を済ませて全員が席についた。
「本日は貴重なお時間を頂けたこと、感謝申し上げます。早速ですが、弊社にて開発を進めてまいりましたAIを利用した自動運転システムが実用レベルに到達したと判断できましたのでその説明をお聞きください」
波留の挨拶に続き、沙耶が持ち込んだノートパソコンをプロジェクターに繋いでプレゼンを開始したわけだが、当初は訝しそうな顔をしていた自動車メーカーの数名の技術者も、自動運転の様子を録画した映像――車内からと外部カメラによる――が流れ出したところで目を見開いていた。
自動車メーカー側からは十名を超える開発部の技術者と、一名の技術担当役員が出席してくれている。
「――以上のように弊社にて開発を進めてまいりました自動運転システムは、突発的なアクシデントに対しても柔軟な対応が可能となっております。さらに、ご覧になられた通り、狭い駐車スペースへの車庫入れ、渋滞時、路面凍結時などのスリップが起こりやすい状況、暴風や土砂降り、ぬかるんだ悪路などに対しても人間を凌駕する運転技術を獲得するに至りました。詳しくはお渡しした資料をご参考にしてくださると助かります」
沙耶のプレゼンテーションに対し、自動車メーカーの技術担当役員である三谷が一人、拍手をして感嘆してくれたが、彼に続くように技術陣からも拍手が沸き起こった。
「非常に分かりやすい説明ありがとうございます。想定外の驚くべき内容でした。開発を預かる身として、御社の技術力に羨ましさも感じますが、我々も世界で戦えるだけの技術集団だという自負があります。この技術に対して御社の考えをお聞きしたい」
三谷の問いかけに、波留は考えていた戦略を隠すことなく話そうと思った。
「そうですね、弊社といたしましてはこの自動運転技術を御社のご採用いただきたいと思っておりますが、真の狙いは別なところにあります」
「別の狙いですか」
三谷は少々驚いたような感じだったが、興味深そうな感じでそう言った。
「はい、先ほどご紹介しましたとおり、本日は弊社の新製品であるアンドロイドを2体連れてきております。弊社といたしましてはアンドロイドをとりあえず日本中に普及させたい。そしてアンドロイドが車の運転免許を取れるようにしたいと考えております。本日プレゼンさせていただいた自動運転技術は、アンドロイドに採用したAI技術を運転に特化した形で学習させたものになります。ようするに、弊社のアンドロイドに運転に関する学習データをインストールすれば、あとは資格さえあれば人間以上の正確で安全な運転ができるということになります。その際、御社がもつであろう人脈のお力を借りることができればとと考えています」
三谷が得心がいったような顔つきで聞いてきた。
「なるほど、弊社も自動運転に関しては開発に注力しているところですが、歴史が浅い御社には法律面での人脈が無いということですね。そしてアンドロイドが運転できる法制度が整えば、年齢や病症が理由で車を持ちたくても持てなかった人に車が売れると」
「まさにそれが弊社の狙いです。御社のよう巨大で盤石な企業とより良い関係を結ぶことができれば、弊社の信用も上がりますし、いろいろな法的手続きも通りやすくなるでしょう。ですから我々は御社の利も考慮した上でこの提案を持って来たということです」
波留の話を聞いていた三谷は楽しげな笑顔で言った。
「良い話を聞くことが出来ました。前向きな方向で考えさせてもらいましょう」
「ありがとうございます。それで提案なのですが、本日連れてきたアンドロイド二体、この二体は車の運転が可能です。それと自動運転ユニット二組を試供品として置いて行きますので試験するなりバラすなりしてお調べになってください。ただ、アンドロイドは分解してしまうと弊社でしか元に戻せませんのでそこのところはご注意ください」
「それはありがたい話なのですが、どう調べても良いと」
「弊社も霊能技術に関しては世界一であると確信するだけの自信がありますから」
「なるほど、盗めるものなら盗んでみろということですか」
三谷は心底楽しそうにしていた。
「アンドロイドと自動運転ユニットの取扱説明書は置いて行きますので参考になさってください」
その後は自動車メーカーの技術陣と波留たちとの質疑応答と技術論議になったわけだが、さすがは世界有数の大企業が誇る技術陣だなと波留を唸らせるだけの充実した時間になった。
そんななか、田中グループの技術で注目されたのがアンドロイドに使われている人工筋肉と、アンドロイドの組み立て装置、そして霊術そのものだった。自動運転についての技術に関しては、まだ協力し合うと決まったわけではないから、波留は核心をぼかした回答しかしていないし、向こうもそれで納得していた。
そんな感じで議論がそろそろ終わろうかとしていたころ、あまり議論に参加してこなかった技術者の一人が恐る恐る聞いてきた。
「全個体電池に霊術を応用しようと考えているんですが、霊術の応用で電池の製造コストを圧縮したりはできるとお考えですか?」
「どのような問題に直面しているのか分かりませんが、人の心を操ったりする以外は何でもできるというのが私の霊術に対する理解です。何をやるかによって難易度はピンキリですけどね」
「そうですか、許可を取る必要はありますが、連携を取ることになったらいろいろご教授願えればと思っています」
「それはもちろん構いません。三谷さん。いろいろと決まってからになるでしょうが、彼を弊社の研究所に預けていただけるなら全個体電池に使えるだろう霊術関連の技術指導をいたしますが?」
「それはありがたいですね。御社と連携を取っていくと決まりましたらお世話になるということでよろしいですか?」
「もちろん構いません。守秘義務契約とかは結ぶことになりそうですけど」
こうして波留と沙耶のTop営業はかなり良い手ごたえを掴むに至ったのだった。




