第五十八話:アンドロイドと自動運転
2029年2月1日、AI事業とWeb事業を統括する株式会社田中ソフトウェアが誕生し、沙耶が代表取締役社長に就任した。波留は代表権が無い取締役会長である。同時にAI事業のWebサイトと動画投稿配信サイトがWeb上に公開された。
偏向報道に対する法的手続き――民事及び刑事の訴訟手続き――は急ピッチで進められていて、テレビ局と系列雑誌と系列新聞社――テレビ番組の後追いでアンドロイドと田中グループへのネガティブ記事を掲載――に抗議文を発送した。
波留は訴訟関係を法務部隊に完全に任せ、自身は近づいてきた霊力核融合発電に集中しようかと考えていた。波留が直接動くのは示談交渉のときだけで充分だ。
しかしその前にAI事業の準備がすべて整ったと沙耶からの報告があって、それぞれのWebサイトを公開したわけであるが、霊力核融合発電は波留自身が関わらなくても当面は問題ないだろうと思いなおし、先にAI事業の方を軌道に乗せてしまおうと考えた。
というのも、アンドロイド事業とAI事業は密接に連携していく必要があって、さらに、自動運転とアンドロイドによる運転も切っても切り離せない関係にあった。だから波留はAI事業の方に強く関わろうと考えなおしたのである。
「沙耶、田中ソフトの営業部隊はどうなってる?」
「鋭意募集と面接を行っていますが、現時点では万全とは言い難い状況です」
「当初の計画よりデータセンターと事業所の建設が早く終わったからそれも仕方がないか」
「そうですね、予期していなかったトラブルは多々ありましたけど、原因がすぐに判明したことと社員の能力の高さに助けられました」
沙耶はそんな感じで謙遜しているが、彼女が現場に張り付いて指揮を執っていたことが計画より早くなった一番の要因だと波留は思っている。もちろん社員の能力が高かったということも好影響を与えているだろうが。
「報告ありがとう。営業部隊がまだ貧弱だというなら沙耶、二人でTop営業としゃれ込もうか?」
「はい、喜んでご一緒します」
沙耶は弾んだ声でそう言って笑顔になった。咄嗟の思い付きで提案した波留だったが、彼も久しぶりに彼女と二人きりで緊張感を味わえるかもしれないと思うと楽しくなってきた。
「どこに営業をかけますか?」
「そうだな、企業用AIと自動運転の営業が同時にできる自動車メーカーが良いと思う。沙耶、女性型アンドロイド2体と男性型アンドロイド2体を営業用に回すから自動運転のプログラムとデータをインストールしておいてくれ。それから資料の準備を頼むよ」
「かしこまりました」
「営業のアポはこっちで取っておくから」
アンドロイドに自動車を運転させることは法律上できない。けれども、能力的には人間よりも正確で安全な運転ができるはずであり、交通ルールも完ぺきに記憶している。そんなこともあって、いずれ波留はアンドロイドに自動車運転の機能をオプション搭載するつもりでいた。
その前に法律の壁が立ちはだかるが、介護業界に限らず個人所有であっても、アンドロイドに安全確実に運転させるという需要は大きいというのが波留の読みだった。
というか、記者発表やHP上でのデモンストレーションを見れば、そんなことは波留でなくても誰もが思いつくだろう。それはいいとして、アンドロイドに自動車を運転させることができれば、体が不自由な独り暮らしの人とか、介護が負担になっている家庭とか、高齢者世帯とか、アンドロイドの需要は跳ね上がるはずである。
さらに、役所とも連携する必要が出てくるが、書類の代筆や代理提出とか確定申告とか、あるいはちょっとした買い物とか、病院通いとか、あるいはちょっとした観光とか、自動車を運転できるアンドロイドに任せられれば要介護者や高齢世帯の生活が飛躍的に楽になることは誰が考えても明らかである。
さらにさらに、そうなれば自動車の需要も増えてくるはずだし、自動車メーカーも食いつくのではと波留は考えた。そんな理由もあって波留は自動車メーカーに営業をかけようと決心した。
さらにさらにさらに、運転免許を管轄する警察――公安委員会――や、法律を動かす国会議員とのパイプを考えると、自動車メーカーとの繫がりは絶対に有った方が有利になるだろう。
さらにさらにさらにさらに、自動車メーカーであればアメリカとの貿易摩擦も経験していて、アンドロイドの国外への輸出や、あるいは国外での現地生産に関してもノウハウをため込んでいるはずである。
そんな理由があって、波留は国内すべての自動車メーカーとのパイプ作りがアンドロイド事業、あるいは計画しているその他の事業に大いに役に立つと考えている。
とにかく田中グループにとって自動車メーカーとのパイプや連携はなくてはならない要素であり、沙耶にも十分そのことを説明したうえで資料づくり等の営業準備をお願いした波留だった。
「さぁ忙しくなるぞ」
「楽しそうですね」
「ようやく本番って感じになってきたからな」
沙耶は楽しそうにしている波留を見て嬉しそうに微笑んだ。
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