第五十五話:記者発表会 その二
休憩を挟んで質疑応答の時間になった。壇上には波留を中央にして沙耶と広報部長がその両脇に、沙耶の隣にはアンドロイドのリリスが並んでいる。広報部長がマイクを持って記者たちに呼びかけた。
「ただ今より質疑応答をはじめます。ご質問がある方は挙手なさってください。指名された方にはマイクをお渡ししますので所属と氏名を名乗られたのち、ご質問をなさってください。アンドロイド以外のご質問はお控えください。アンドロイド以外のご質問された方は残念ですがご退場いただきます。また、ご質問はおひとり様二つまでとさせていただきます。なお、質疑応答はただ今の時間から一時間の経過をもって締め切らせていただきます」
多くの記者たちが勢いよく手を上げた。広報部長はその様子を見て中央付近の記者に手を向ける。
「そちらのベージュのスーツの女性の方」
係員がワイヤレスマイクを指名された記者に手渡した。
「○○通信社の米田と申します。素晴らしい技術だとは思いますが、それほどの性能を持ったアンドロイドが市場に出回れば仕事を奪われる人も増えるのではないでしょうか。そこのところ、どうお考えかお聞かせください」
至極まっとうな、想定済みの質問である。マイクを持った波留が答える。
「確かに従来の仕事を失う人は増えるでしょう。ですが技術の発展にそう言ったことはつきものですし、仮に我々が市場に出さなかったとしても、いずれは他社が、あるいは国外の企業が同等の性能を持ったアンドロイドを市場に出してくることは止めることができないでしょう。ですから私どもは、アンドロイドとのより良い共存を模索し、社会への悪影響が極力小さくなるように努めてまいる所存です。さらに、当面は個人向け、あるいは介護業界への販売を優先するとともに、その他の企業向けについては厚生労働省に相談するなりして方向性を探っていこうと考えております」
「お答えいただきありがとうございました。介護業界への優先的販売は評価されるべきでしょう。次の質問です。販売価格についてなのですが、1000万は少々高すぎるのではないでしょうか。その価格でアンドロイドを本当に必要とされている方々へ届くとお考えですか?」
「現行価格で低所得者層の方がご購入できないことは当然ながら私どもも理解しております。ですが、第一に私どもが営利企業であるということをお忘れなきようお願いいたします。そして、低所得者層の方々には是非とも介護業界のデイケアサービス等をご利用いただきたくご検討をお願いいたします。さらに、価格を1000万円に設定したことは、競合他社への配慮も含まれています。私どもが開発したアンドロイドは、競合他社のどのアンドロイドよりも遥かに高性能であり、価格を同等にすることは、競合他社のシェアを完全に奪ってしまうことになりかねません。数年が経ち、量産効果が大きくなれば値下げも考えますが、当面はこの価格で販売してまいりたいと考えています」
「お答えいただきありがとうございました」
係員が女性記者からマイクを受け取り、次に広報部長が指名した男性記者へとマイクを手渡した。
「××テレビの加藤と申します。あまりの性能の高さに驚いているところですが、二つ質問させてください。まず一つ目ですが、プレスリリースではアンドロイドには感情も心もないと書いてあります。ですが私にはどうしてもそう思えません。その自然な微笑み、広報の方を負ぶったときの気遣い。その自然な所作を見ていると、僅かにでも感情のようなものがあるのではないでしょうか?そこのところをお答え願います。そしてもう一点、本当に感情も心もないのだとしたら、なぜそうしたのかをお答えいただければと思います」
「仰るとおりアンドロイドの所作や表情、そして声は人間と区別がつきません。ですがアンドロイドは一片の感情も心も持ち合わせていません。二つ目のご質問についてですが、アンドロイドが感情や心を持つ、それは非常に危険なことです。想定される最悪の事態は、万が一アンドロイドに感情が発芽してしまった場合、アンドロイドが人間の命令を聞かなくなったり、人間の愚かさに気づいて人間に反抗したり、人間の排除を試みたりといったところです。そんな事態が絶対に起こらないように私どもはアンドロイドに三重の安全対策を施しています。一つは思考プログラム改変防止機構、一つは思考プログラムとは完全に隔離された思考監視プログラム、最後に命令に背いたときの機械的な活動停止機構。これらの安全対策によって万が一アンドロイドに感情が芽生えたとしても機能を停止させることができるように設計されています。また、第一に私どもは神ではありません。アンドロイドに感情が芽生えるような奇跡など起こせるはずがありません。アンドロイドはどう見えようと機械です。感情や心を持つ生命体ではありません」
「ありがとうございました」
こんな感じで質疑応答は続けられた。波留は全ての質問にそつなく答え、会場の雰囲気は穏やかであったが、最後の質問者がその雰囲気を打ち砕いた。
「△△新聞です。あなた方は霊が存在するということを世間に公表して社会に大きな混乱を引き起こしましたが、これについてどう考えていますか? 責任を取るつもりは無いのですか? 二つ目として」
そこまで質問者が話したところで波留が広報部長に目配せした。広報部長はマイクを取り質問者の発言に被せるようにハッキリした通る声で注意した。
「アンドロイド以外のことに関するご質問にはお答えできかねます。そして質疑応答のルールを無視なさる方はご退場願います。係員さん、その方を会場の外にお連れしてください」
係員にマイクを取り上げられ、四人の屈強な係員に囲まれて会場外に連れ出されていく記者は何やらわめき散らかしているが、そんな彼を見て会場からは失笑が起こっていた。そんなハプニングはあったが、質疑応答終了の時間が来て記者発表会が終わったのだった。




