第五十四話:記者発表会 その一
2028年末、田中グループの新会社「田中ロボテクス」によるAI搭載アンドロイド発売に向けての記者発表会が行われることになった。発表会の一週間ほど前には、プレスリリースとして報道各社にプレゼン用の資料が配布されている。
なお、霊力核融合発電に関しては、試験と試作が極秘裏に進められていることもあって、安全性、性能及び建造コスト、運用コストなどが合格ラインに達したと確認できるまで記者発表は行わない予定だ。
順調に進めば、春から初夏あたりにプレスリリースを出してから記者発表を行う予定である。なお、現時点で発電電力が投入電力を大きく上回っていて火力発電を超えているため、記者発表が終わればすぐにでも営業活動に入る予定である。
AI搭載アンドロイドの記者発表会当日、波留は沙耶と共に会場となるベルサール東京日本橋の大ホールに出向いていた。なにかと話題になっている田中グループの代表が主催し、かつ、人間とそん色ないらしいアンドロイドの記者発表会とあって、ホールには日本はおろか世界中の報道各社が集まっている。
沙耶が同行している理由は、アンドロイドにもしもの不具合が出たときに対処するためである。
「そろそろ時間ですね」
「そうだな、行くとするか」
波留を先頭に、沙耶、アンドロイド、田中ロボテクスの広報部長が、控室からガヤガヤと記者たちの声が入り混じるホールの壇上に歩み出た。
波留を中心に皆が一列に並んで深くお辞儀をすると、一斉にフラッシュが焚かれてカメラのシャッター音が鳴り響く。一列に並んだ中にアンドロイドが紛れているなど、集まった記者たちは気づいていないようだ。
連れてきたアンドロイドは最初に試作した女性型のプロトタイプである。ちなみに男性型の試作と性能確認も済んでいて、期待通りの性能を引き出すことに成功していた。
それは置いておくとして、波留が一歩前に出て手に持っていたワイヤレスマイクを口に近づけた。
「田中ホールディングス代表の田中です。本日はお忙しいなか弊社が新開発しましたアンドロイドの発表会にお集まりいただき、誠にありがとうございます。ご質問は発表が終わってから受け付けますので、それまではお静かに発表をお聞きください」
波留の挨拶のあと、田中ロボテクスの新任広報部長――48歳の理知的な雰囲気の女性――がプロジェクターを使ってアンドロイドの仕様、性能などを慣れた口調でスマートに説明していった。
記者たちからはときおり、どよめきやシャッター音が聞こえてくる。
「――以上が生活補助汎用アンドロイド”新星”シリーズの仕様と性能になります。続きまして、お披露目とデモンストレーションに移らせていただきます」
視線を向けてきた広報部長に、ステージ右後方の椅子に並んで座っている波留が頷き返した。そして彼の右二つ隣に座っていたアンドロイドに広報部長が目配せをする。
「”新星”シリーズ、プロトタイプ初号機リリス、ステージ中央に出て皆様にご挨拶を」
その言葉を合図にアンドロイド、個体名「リリス」が椅子から立ち上がり、人間と区別がつかない自然な歩みで広報部長の横に並び、顔を上げて紫の瞳で記者たちを見ている。額に埋め込まれたひし形の金属プレートが、照明に光できらめいた。なお、リリスのマスターには広報部長が登録してある。
「皆様にはお初にお目り掛かります”新星”シリーズ、プロトタイプ初号機のリリスでございます」
そう言って深くお辞儀をした紺のパンツスタイルスーツを着用したリリスに、記者席からは大きなどよめきと、フラッシュの洪水とともにシャッター音が鳴り響いた。そんななか、広報部長がデモンストレーション行うように指示を出す。
「リリス、デモンストレーションNo.001を実行してください」
「かしこまりました。デモンストレーションNo.001を実行します」
リリスはあらかじめ決められていたとおりのデモンストレーションを次々にこなしていく。300Kgのバーベルを片手で持ち運んだり、ラジオ体操してみせたり、体操選手の床運動と見まがうばかりの技を披露してみたり、広報部長をお姫様抱っこして運んでみたり、広報部長に殴りかかろうとする棒読み大根役者風悪漢役の波留の鋭い力の乗ったパンチを片手で受け止めてみたり。
リリスの動きを見た記者たちからはどよめきと共に拍手まで起こっている。そして一番の反応はリリスが天井近くまで垂直飛びしたときに起こった。人間には絶対にできないことだからだろう。これでリリスがアンドロイドであることを証明できたはずである。
「以上でデモンストレーションを終了します。15分の休憩の後、ご質問を受け付けますので、それまでお待ちくださるようお願い申し上げます」
広報部長がそうアナウンスする否や、記者たちは慌ただしく一斉に動き出した。スマホを耳に当てながら会場から出ていく者、一心不乱に持ち込んだノートパソコンでタイピングする者、数人ずつ固まって唾を飛ばしながら議論する者、着席したまま腕を組んで何やら考え込んでいる者など様々だった。




