第五十三話:アンドロイドの試作 その二
アンドロイドの組み立てが無事に終わったようだ。不具合を示すエラーランプは点灯しておらず、完了のパトランプがクルクル回っている。
「それでは確認しましょう。皆さん、ハッチから離れてください」
のぞき窓に張り付くように集まっていた高田や小林、研究助手の二人、製造部長に技術部長が波留の声に従って装置から離れた。
「ハッチを開けてください」
研究助手の二人がハッチの両側についた取っ手を掴んで持ち上げた。装置の中が露になり、各種トレーが設置された台のその上には全裸の女性型アンドロイドが目をつぶって横たわっている。トレーは台のくぼみに設置されているから横たわるアンドロイドの邪魔にはなっていない。
しばらくするとアンドロイドの目が開いた。その瞳は淡い紫色をしていて明らかに人間ではないと分かるが、より確実に人間と区別するために、額の部分には1辺が2cmほどのひし形をした金属光沢のプレートが埋め込まれている。
このプレートは外から開けることができ、メンテナンス時にはそこから頭脳へとアクセスしてプログラムのアップデートが出来るようになっている。
「動いた!」
そう叫んだのは小林だった。涙ぐんでいる彼女は自身のシミュレーションが完璧だったことに感動しているのだろうか? 波留はそう思ったが、真相は彼女にしか分からない。
上体を起こしたアンドロイドは、身をかがめるようにして装置から出ると、一度周囲を見渡して直立したままだ。顔以外は隠すとこさえ隠してしまえば人間と全く見分けがつかない仕上がりだった。
シリコン製の皮膚には薄っすらと産毛まで生えている。まつ毛も眉毛も髪の毛も手足の爪も人間のものと区別がつかない。けれども、乳首はないし股間も人間にはあるはずのものが無くのっぺりとしている。尾骨の上あたりには、霊力を補給するための金属製アタッチメントが見えた。
試作に立ち会っている高田や小林、研究助手の二人、製造部長に技術部長らは、目を見開き生唾を飲んだりしているようだ。
「これを着用しなさい」
「かしこまりました」
波留は用意していた下着や衣服や靴をアンドロイドに手渡した。彼女は黙ってそれを受け取ると、素早く着用してみせた。衣服を着用していく所作にぎこちなさはなく、もう外見上人間と違うのは瞳の色と額のプレートだけだった。
この女性型アンドロイドの身長は160cm、濃いダークブラウンの髪はショートボブになるように設定してある。平均的な日本人顔の特徴はややタレ目で、やや丸みがかった顔の輪郭の彼女が微笑むと、優し気な女性声と合わせて安心感を与えるように設計してあった。
「そのあたりを歩き周ってくれるか?」
「かしこまりました」
微笑みながらそう返したアンドロイドは、自然な足取りで歩きだした。
その後波留は音楽無しではあるがラジオ体操をさせてみたり、走らせてみたり、人間では持てないほど重い物を持ち運ばせてみたり、人を背負わせて歩かせたり、字を書かせてみたり、電話の対応をさせてみたり、様々なテストを実施してその性能を確かめていった。
「これで1000万は安すぎる……」
そう呟いたのは技術部長だ。ちなみに男性型は身長を175cmにしてあるおかげで材料代が増え、定価は1050万円(税別)になる予定だ。
「確かに安く感じますな。だが工場原価は400万以下ですよ。ボッタクリもいいところだ」
自嘲気味な笑い声でそう返した製造部長に技術部長が言う。
「私なら2000万出してでも欲しい。いや、金さえあれば1億だって安い」
「確かにそうですな。ここはひとつ社長に直談判してみませんか? 定価でもいいから優先購入権をくださいと」
「それはいい考えだ。田舎住まいの親のためにも是非とも手に入れたい――」
技術部長と製造部長がそんなことを相談し合っているのを小耳にはさみながら、波留は販売形態やメンテナンス、あるいは特注の依頼を受けるかどうかなどを考えていた。
この性能で1000万は確かに安すぎるが、果たして本当に必要としている人に届くだろうか? 考えるまでもなくそれは難しい。一人暮らしの老人にどれだけの貯えがある?
平均的な所得層の人々が親のために1000万をはたして出せるだろうか? まず出せないだろう。だから波留は富裕層相手にある程度稼いだ後、価格を半額以下にして、購入できる層を増やそうと考えていた。
けれども、それでも買えないような低所得者層、あるいは年金しか収入がない老人には買うことができないだろう。ならばリースならどうだ? あるいは低所得者層向けのサービス会社を作って何件かの家を持ち回りでデイケアするようなサービスを提供するか? そうなると車を運転できるように法制度を変えてもらう必要が……。
考えなければならないことは山ほどある。
――そこらへんはサービス部門を作って考えさせるか。それと営業部隊のテコ入れも必要?
アンドロイド事業は確かに重要な事業だが、ほかにも重要な事業が幾つもある。だから波留はそれ以上考えるのを止めてテストを終了するのだった。




