第五十二話:アンドロイドの試作 その一
AI搭載アンドロイドのプロトタイプ試作は、当初2028年の8月か9月に行われる予定だった。けれども、データセンターの近隣に建設中の霊力核融合発電試作機のほうで技術的トラブルが発生し、波留がその対応に手を取られてしまった結果、アンドロイドの霊力経路の実験が遅れてしまった。
霊力核融合発電試作機の技術的トラブルは、発電機の大型化に伴う耐久性不足が原因だったが、その不具合解消に2か月ほど波留の手が取られることになってしまった。
波留と技術陣の奮闘によって不具合対策の妥当性検証が何度も行われ、不具合は解消することになった。霊力核融合発電の稼働開始時期もずれ込むことになったが、大きな遅れにならずに波留はホッと胸をなでおろした。
そんなことがあって、AI搭載アンドロイドのプロトタイプ試作試験が2028年の11月にズレ込んでしまった。
研究所の大型試作室に設置されたボックス型のアンドロイドの組み立て機プロトタイプの前には、所長である波留とともに、フッ素ゴム素材の開発に携わった高田、組み立て装置の霊力パラメータを膨大な回数の数値シミュレーションで最適化した小林と、自動車メーカーを定年退職したばかりの元製造部長と技術部長が並び、二人の研究助手がアンドロイドの部品を組み立て機の中にセットする様子を眺めていた。
自動車メーカーを定年退職した元製造部長と技術部長は、第二秘書の白川がスカウトしてきた人物である。波留はこの二人に製造部長と技術部長として、アンドロイドの量産工場立ち上げを任せるつもりだ。霊力核融合発電のプロトタイプ試作機の最終試験が迫っているから、波留はアンドロイドの量産工場立ち上げに関わることができない。
それは置いておくとして、アンドロイドの組み立ては部品数が多いことから、部品は専用トレーに乗せられ、頭部及び首、胸部、左腕、右腕、胴体、左足、右足、皮膚となるシリコン素材、潤滑液、波留が特殊処理を施した粉末状の銀素材が人体に倣った窪んだ指定か所に設置されていく。
「部品全てセット完了しました」
「ハッチを閉めてください」
波留の指示で助手がハッチをそっと閉め、ピピっと電子音が鳴った。ハッチの300mm×1000mmの強化ガラス窓からは、トレーに載った部品が良く見える。
元製造部長と技術部長の二人は前かがみになって装置に近づき、中の様子を真剣な面持ちで覗き見ている。
「そろそろ始めましょう、開始ボタンを押してください」
その言葉を聞いて元製造部長と技術部長の二人が装置から離れた。波留に言葉をかけられた研究助手は、少しの間を置いて口を開いた。
「やっぱり記念すべき初回は所長が押した方が……」
「そうですか、では私が押しましょう」
波留は笑みを湛えて研究助手にそう言うと、一応準備が整っていることを示す装置右上部のランプが緑色に点灯していることを指さし確認し「それでは押します」と言って赤い開始ボタンを押し込んだ。すると装置上部の稼働中と記された青いランプが点灯して組み立て中であることを示した。青いランプの上には、組み立て完了を示す黄色いパトライトが配置されている。
波留が少し後ろに下がって覗き窓越しに装置の中を見ると、チタン合金製の骨格が中空に浮くようにして人体の骨格標本のようにつながっていく最中だった。
その様子を皆でガラス窓を取り囲むようにして注視している。小林は万感の思いが叶ったような顔で感動しているようだった。
「スゴイ、骨格が浮いて空中で組み上がっていくぞ!」
そんなふうに感嘆の声を上げたのは製造部長だった。技術部長は装置の中の様子を目を皿のようにして注視している。装置の中では、すでに組み上がった骨格に筋肉にあたる成型されたフッ素ゴムが、一つ一つ骨格へと移動していった。
さらに、成型されたフッ素ゴムの両端が腱のように形を変えて骨格へと張り付き、同時に霊力経路が形成されていくのだが、その動きは非常に遅く、最後まで注視し続けるのはさすがにキツいと思わせるほどだった。
「まるで魔法を見ているようです。一体組み上がるのにどれほどの時間を要するのですか?」
製造部長の問いかけに波留が答える。
「そうですね、シミュレーションでは4時間弱かかりました。ですから、休憩しながら様子を見ていきましょう」
波留はそう言って組み立て装置の傍を離れたが、製造部長と技術部長は、アンドロイドが組み上がるまで装置の前を離れることはなかった。
そしてそれは高田と小林も同じで、特に小林は涙ぐみながら組み立てが進んでいく様子を眺めていた。
波留は大型試作室の片隅に設置された椅子に腰掛け、作業台にノートパソコンを置いて沙耶とチャットで連絡を取りながらそんな様子を眺めていた。彼女はいよいよ佳境に入ったAI用データセンターとの通信および生成AIの調整に掛かり切りになっているが、随時波留との連絡はとりあっていた。
そして4時間弱の時間が経過し、ブザーの音が鳴って組み立て装置最上部の黄色いパトライトが回り出したのだった。




