第五話:霊視メガネ販売計画
波留が考えた計画。まだ大筋しか考えていないが、彼は帰宅途中に感じることができた魔力と、かなりの数を見かけた幽霊の存在を利用し、地球世界を少しだけファンタジーな世界に改変というか、人々の認識を変えていこうと思っている。
この地球に魔素があることは確認したが、世界中の人々には、それを魔素よりはまだ受け入れやすいだろう、心霊に関連した霊子、あるいは霊力という造語を認識してもらうつもりだ。大気中には霊子が漂っていて、幽霊は死んだ人の魂が霊子をまとって霊力に変換し、生前の姿になっている状態だと波留は考えている。
お坊さんとか神主さんとか、宗教関係者なら幽霊が視えるメガネに価値を認めて有効的に使ってくれるだろう。それ以外の一般人も、怖いもの見たさとか、動画のネタに使うとか、ほかにも使い方を思いついて買ってくれる人が出てくるはずだ。波留はそんなふうに目論んでいる。その考えを両親に伝えたのだった。
「――とまぁこんな感じなんだけど」
父が少しだけ間を置いて聞いてきた。
「お前の考えは分かった。それで、いくらで売るつもりだ? どこで売るつもりだ?」
「手始めにサンプル価格表示で1つ5000円の20個限定販売にして、ネットフリマとかオークションに出すつもりだよ。そしてそれとは別に企業サイトを立ち上げて、一つ100万円で販売する。上手くいけばそれで売れるはずだよ」
「そうか……売れるといいな」
そう言った父は、あまり信じていないような顔をしていた。
「まぁ、なんとかなると思うよ。ダメだったら他の手を考えればいい。それから父さん、これ飲んでみて」
波留はそう言って収納から薄い黄みがかった液体が入った小瓶を取り出し、父に渡した。
「毛生え薬。寂しくなった頭髪を復活させる薬だよ」
父は薬を手に取ると、それをしげしげと眺めている。
「効き目はどれくらいだ? 何か月で効き目が出てくる?」
少し興奮気味に聞いてきた父に、波留が笑みを浮かべて答えた。
「飲んだ翌日から徐々に髪の毛が生えてきて、十日くらいで生えそろうよ。多少個人差はあるけど」
「なんだとぉ! それは本当か? そんなに良く効くのか?」
かなり興奮しながらそう言った父が、少し間を置いて聞いてきた。
「これを売った方が早いんじゃないか? お前が言うことが本当なら1本100万でもバカ売れすると思うんだが」
「いや、今はまだ早いよ。飲み薬だからね。法律とかいろいろ絡んできそうだし、手続きも大変でしょ? それに魔法の説明なんてできるわけないし」
「それもそうだな」
「まぁ、会社があるていど大きくなって、それなりに体制が整ってからだね、売り出すのは」
少し考え込むような顔していた父が、言いにくそうに聞いてきた。
「この薬を俺の飲み友達にも1本だけでいいから融通してほしいんだが、頼めるか?」
「それは構わないけど……」
「いやな、俺の髪がもし生えそろったら、そいつは必ずしつこいくらいに問い詰めてくると思うんだ。奴の頭は俺よりかなり寂しいことになってるからな。それにな、そいつは医薬品関係を仕事にしてるから法律面とか手続き面にも明るい。味方に引き入れておくと心強いと思わないか?」
仲間内で「テメーだけ抜け駆けすんな」的なものだろうか。それは置いておくとしても、医薬品関係に明るい人物を味方にできることは大きいと波留は思った。
そして、話を聞いていた母が「私にもなにかないの?」と言いたげな視線を送っていることに波留は気がついた。
「もちろん母さんにもあるよ。はい、これ」
そう言って波留は、収納から底があまり深くないエメラルドグリーンの蓋つきガラス容器を取り出し、母に手渡した。
「小ジワが完全に無くなるクリームだよ。一回で一週間は効果が保つから、風呂上りとかに気になるところに薄く塗ってモミ込めばいいよ」
「ありがとう波留! さっすが私の息子ね」
波留が両親に渡した毛生え薬とクリームは、かつてお世話になった貴族に恩返しをするために開発した魔法薬である。もちろん両方とも起業する会社の製品としてラインナップに加える予定だ。
そのほかにも波留が開発した魔法薬や化粧品は幾つかあるが、それらもいずれは製品ラインナップに加えようと思っている。
とはいっても、幽霊とか霊能力を世間に認知してもらうことが第一優先であることに変わりはない。医薬品や化粧品、その他の霊的――魔力を使った――なアイテムの効果に、現代科学的な説明をつけることは不可能ではないが、それはものすごく面倒で時間がかかる。それに関しては、波留は学者さんに頑張ってもらおうと考えている。
それは置いておいて、医薬品や化粧品以外にも日本や他の先進国のガチガチに固められているであろう法律を搔い潜って霊的アイテムを売ろうと考えているのだから、霊的な存在や能力が実在することを世界の人々が広く認知することは、ものすごく重要なことである。
波留は父と母に、「有効に使ってね」と毛生え薬と小ジワ取りクリームをさらに2つづつ追加で手渡した。
その後父は捜索願を取り下げてくると言って外出し、母も今日は御馳走を作らなくちゃと言って買い物に出て行った。波留は父に、ついでに金と交換した100万円からそこそこの性能のノートパソコンを1台買ってきてと頼んだ。
両親を見送った波留は風呂に入って異世界の垢を入念に落とし、魔力の減少と体力的疲れもあって、異世界に迷い込む前の状態に保たれていた自室のベッドで眠りにつくのだった。




