第四話:これからのこと
「ありがとな。それで、これからどうするつもりだ?」
「うん、魔法を使って何か作ろうと思ってる。それを売っていくつもり」
それは波留が実家を目指す途上で考えていたことだった。大学には行かない。せっかく異世界で得た魔法だ。有効に利用して起業してやると。
「起業するつもりか?」
「うん、相談に乗ってくれる?」
「もちろん構わないが、大学には行かないのか?」
心配そうな顔で父は尋ねたが、波留の心はもう決まっていた。
「うん、時間の無駄だから」
「まぁ社長業をするなら学歴が直接関係することはないが、苦労するかもしれんぞ」
「そうかもね。でも異世界で20年もいろんな修羅場をくぐってきたからね、それこそ貴族とか国相手に。だからたいがいのことはどうにでもなるよ」
波留の話を聞いて、父も母もしばらく考え込むような素振りを見せた。
「そこまでの覚悟があるなら好きにするといい。頼もしい限りだ。ところで波留、こっちの時間ではお前が生まれてからまだ23年と数か月しかたってないが、向こうの時間を合わせるともう40手前だろ。どうしてそんなに若く見えるんだ?」
「そうそう、母さんもそれが気になってたの。若さを保つ秘訣でもあるの?」
波留は母の圧に気圧されそうになった。そして獲物を逃がすまいとする猛獣に追い詰められ、怯えて縮こまる草食獣になったような錯覚に襲われたのである。
「一定以上の魔力をもつよになると老化がほとんど止まるんだよ」
「それはなんか……私には無理そうね」
母が凄く残念そうな顔をしている。この日本にも魔素があることは確かだが、あまりにも薄すぎて魔力による老化速度の低下を望むことは出来ないだろう。でも。
「若くなりたいなら方法はあるよ」
そう言って波留は収納から青い液体が入った小瓶を取り出し、両親に見せた。
「これは10歳くらい若返る魔法薬。効果に個人差はあるけどね」
小瓶を凝視する母の目が怖い。波留はそう思った。
「でも、これ使っちゃうと効果が出すぎて会社に行きづらくなるよ」
「10歳くらいの若返りならなんとでも誤魔化せるわ」
これは困ったと波留は思案する。今の波留の保有魔力ならば寿命はあってないようなものだ。転移魔法で使いすぎた魔力の補填方法は考えてある。それもあって両親には定期的に若返ってもらい、自分の寿命にある程度は付き合ってもらおうと思っていた。
でも、そうなって周囲の干渉を跳ね返すだけの財力も社会的地位も今の波留にはない。父と母には彼自身がそれだけの社会的地位と財産を得てから若返ってもらおうと考えている。まだ時間は充分にあるのだから。
「父さんと母さんにこの薬を飲んでもらおうとは思ってないよ」
波留の言葉を聞いて母はこの世の終わりでも見たような絶望的な顔をしている。そして父も目を見開いて裏切られたような顔をしていた。どうやら父にも若返りたいという願望はあるようだと波留は安堵する。
「父さんと母さんにはこっちの薬をいずれ飲んでほしいんだ」
そう言って波留が取りだしたのは、黄金色に輝く液体が入った小瓶だった。
「この魔法薬はね、体力的に全盛期の若さに戻ることができる魔法薬だよ。でも、今これを飲んじゃうと若返りすぎてヤバいことになる。だから俺が起こす会社が周囲のやっかみを跳ね返せるくらい大きくなって、父さんと母さんには俺の会社に入ってもらって、俺たちが社会的地位を得て安全になるまで待ってほしいんだ」
少しの時間考える素振りを見せた父の口が動いた。
「すると何か? 波留はそれほどまでに、しかも短期間に会社を大きくするつもりなのか?」
「うん、他に腐るほど商売のネタはあるから、10年以内に純利益で日本有数の企業を目指すつもりだよ。それくらい会社が大きくなったら、俺たちに手を出そうとする人は居なくなると思うんだ」
「それはまた大言壮語だな。が、慎重なお前がそこまで言い切るってことは自信があるのか?」
「そうだね、道筋は見えているよ。ということでとりあえずだけど、年商10億を越えたら俺の会社に入ってくれる?」
「何年くらいで年商10億を目指す?」
「いや、一年かからないと思うよ。その後は加速度的に年商は増えていくはずだから、純利益日本一はもしかしたら10年かからないかもね」
あまりの話に、父も母も呆気にとられたような顔をしていた。それでも父は少しの間を置いて聞いてきた。
「それで、なにを売るつもりだ?」
「最初はメガネかな。これから作る予定なんだけど、幽霊が視えるようになるメガネ。それを最初は安く売って商品が認知されたら一つ100万円で売る。単純計算すると、1年で1000個売れたら年商10億だよ」
「本気で1000個も売れると思ってるのか?」
「うん、悪い幽霊、悪霊は存在するし、人間に悪影響を確実に及ぼしてるはずだから、多くの人に認知さえされればあっという間に売れると思うよ。たとえ一つ100万でもね」
帰宅途中に波留は何体もの幽霊を目撃していた。街を彷徨う浮遊霊や人に憑りついている霊、いかにも力がありそうなというか、他の幽霊よりも明らかに邪悪で力を持った幽霊というか、明らかな悪霊も彼は目にしていたのである。




