第四十九話:AI搭載アンドロイド
2028年に入り、5月になった。田中グループの2027年度の純利益は波留の予想を大きく上回って2300億に達していた。その理由は各種製品の売り上げが伸びたという至極まっとうな理由であるが、そのけん引役となったのが霊視メガネと霊力測定器と霊力強化マニュアルである。
2027年の終盤に入ったころから、田中グループの製品、たとえば霊視メガネやシワ取りクリームの効力は何に由来しているのか? ということが注目されはじめ、その根源にあるのが霊能力にあるということが知れ渡っていった。
そうなると、霊能力の研究についてもますます盛んになり、アイテムにどうやって霊能力を付与するのか? そもそも霊能力でどんなことができるのか? そんなことが研究される土壌が醸成されていった。
そんなことから、霊能力に目覚めれば大儲けできたり、企業への就職や転職に有利になるということが常識になっていった。企業も霊力が高い人材を募集するようになり、霊能力に関する部門ができたりして研究に励むようになり、とくに霊視メガネと霊力計測器の需要が跳ね上がったということである。
これは当然海外でも同様の事態になっていて、もはや田中グループだけでは需要に応えられない状況になりつつあった。
「霊視メガネと霊力計測器の予約状況ですが、先月時点で予約を打ち切らねばならない状況になっております。年末に稼働予定の広島事業所での生産数を加えてもです」
田中特殊雑貨工房の経営会議で、営業部長がそう訴えてきた。
「それは各事業所の生産ラインを増やしてもですか?」
「はい。生産ラインを倍に増やしたところで需要に応えることは不可能でしょう」
波留の問いかけに営業部長は苦し気な表情で答えた。波留は少しの時間考えてから答えた。
「OEM生産の受託先を探すしかないな」
「OEMですか」
OEM生産にすれば受託企業の利益も確保する必要が出てくる。そうなると、管理費も増して田中特殊雑貨工房の利益率は減少するが、数もこなせるようになるし、総合的な利益は増える。なにより自社で今以上に製造しなくてよくなる。
もともと波留は、田中特殊雑貨工房が上げる利益は田中ホールディングスを成長させるための足掛かりとしてしか見ていなかった。もちろん田中特殊雑貨工房に愛着は出てきているし、彼が日本で作った最初の会社だから軽く扱おうとは思っていない。今後も成長させていこうと思っている。
そんなことがあって受託先を募集したわけだが、手を挙げる企業が多すぎて受託先を選定するのに予定よりも時間がかかってしまった。
霊視メガネと霊力計測器の製造に田中特殊雑貨工房と同じ製造工程を採用すれば、受託企業の設備投資費はかなり安くなるし、利益率もかなり大きくなる。そんな理由で手を挙げる企業が多くなったようだ。
選定した企業は様々なリスクや生産能力を考慮して1社ではなく6社になった。
波留は現在、田中特殊雑貨工房における生産を完全に部下に任せ、自身はAI搭載アンドロイドの開発にかかりきりになっている。波留が売ろうと思っているアンドロイドは大きく3タイプに分かれる。
一つは生活補助型のアンドロイドで、会話でのコミュニケーション能力を備え、たとえば介護や家事、家計管理や様々な手続きに必要な書類作成などを担い、価格は当面1体1000万円程度になる予定だ。一応主人が倒れた場合の応急処置や、強盗から主人やその家族を守るくらいは戦闘もできる。量産ができるようになれば1体500万円を目指すことにしている。
もう一つは危険作業を担うアンドロイドで、たとえば人命救助や極悪環境下での工事や作業を担う。このアンドロイドが完成すれば、たとえば事故を起こした原発の解体も可能になるだろう。放射性物質の処理は別になるが。価格は1体5000万円を予定。
最後の一つは守備型のアンドロイドで、主に要人の警護を担う。通常タイプは複数体でチームを組み、遠距離からの狙撃であっても警護対象を守り切るくらいの性能になる予定だ。もちろん注文が1体だけであっても販売はする。
スペシャルタイプの性能は、2体いれば小隊規模の軍人による襲撃でさえ無効化するくらいの性能になる予定だ。
通常タイプの価格は1体2億円を予定。また、スペシャルタイプは1体10億円を予定している。
ただし、アンドロイドを軍備として売る予定はなく、たとえば軍事に関わる命令や軍事ではなくても攻撃命令を受けた場合、その命令には絶対に従わないようなロック機構を設けようと波留は考えている。襲撃者への反撃は、命を奪わない範囲で可能である。
――戦争とか紛争に使われたりしたらたまらんからな。イメージ下がるし。
それが波留の考えであるが、アンドロイドではない防衛装備に関しては関わっていこうと考えている。けれどもそれは直近の話ではない。
そんなこんなで波留は研究所に詰めることが増えているが、もちろん彼一人で開発を進めているわけではなく、優秀な二人の若手研究者がアンドロイドの開発には携わっている。
波留は自身が担当しているアンドロイド用神経経路の研究が一区切りついたタイミングで、その他の要素を担当している研究室へと足を運ぶのだった。




