第四十八話:自動運転AIほか
2027年も終わりに近づいたころ、ある者はクリスマスに浮かれ、ある者は年末進行に忙殺され、ある者は業界の衰退に絶望し、ある者は変わりつつある社会に希望を見出し、あるいは絶望に沈んだりしている。
そんななか、沙耶の戸籍も無事に取れて、社員数も順調に増加している田中グループは予測を超える圧倒的売り上げに沸きながらも多忙を極めていた。
2027年度の営業利益はグループ全体で2000億に迫る勢いになっていて、そこから税金と動画用データセンターやレンズ処理工場、霊力計測器組み立て工場とかの建築費や設備投資費を差っ引いても1000億近い金額が来年度の事業拡大用資金として使える見込みである。
真偽判定メガネについては、先月警察官僚である上野が霊の声を聞き取れるマイクの採用が正式に決まって価格交渉に訪れた際に、波留は真偽判定メガネを開発した責任者として採否の趨勢だけを聞くことになった。
上野によると、いまだに法曹界や警察の上層部で喧々諤々の議論が行われているらしいが、容認派というか積極的に使っていくべきだとする意見が多数派であるらしい。
どうなるかまでは断言できないが、使用を反対する勢力というか数人が折れるのも時間の問題だろうということだった。
生成AIはグループ会社内に導入され、すでに半年近いβテストが実施されていた。
久しぶりにふじみ野の本社オフィスを訪れた沙耶が、社長室にて波留にAI事業の報告を行っていた。
「AIのテストはどうなってる?」
「もう社内で試すことはほとんどありません。今はもっぱら業務形態や社員の行動などの学習がメインになっています」
沙耶が構築した生成AIは、彼女の人工頭脳と記憶の一部をコピーしたものと、既成AIとのハイブリッドである。主となっているのはもちろん彼女の人工頭脳をコピーした側であり、既成AIと連携し、情報のやり取りをしながら結果を出力している。
だから人々が活動する現場やWeb、地球人の言動や習性、習慣などなどを学習することは必須であり、学習が進むほど正確性が増し、役に立つ情報を出力できるようになる。
既存AIとの違いは、もちろん沙耶の人工頭脳の一部をコピーした思考ユニットの有無であり、既存AIには無い判断力と応用力、そして人間が持つ常識や非常識を有するAIになっている。
「そうか、報告ありがとう。自動運転のほうはどう?」
「自動運転についても順調に学習が進んでいます――」
沙耶の報告によれば社用車全台に取り付けた各種センサーやカメラによって自動運転用のAIの学習は順調に進んでいるそうだ。さらに、社用車だけではサンプル数が少ないことから、社員の協力者を募って――協力金支給――サンプル数を大幅に増やす計画が進んでいるということだった。
社員の協力者を募る件については波留も承知していることであり、多くの社員が協力を申し出てくれたとのことだった。
「――ですが、一部の社員からちょっとした不注意によって大手自動車メーカーに当社が自動運転用AIの試験をしていることが漏れている様子です」
「……故意ではないなら注意するだけに留めておけばいいさ。将来の顧客だし、宣伝にもなるしな」
もともと自動運転の開発をしていることが重要な企業秘密なら、一般社員にその情報を漏らすことはないし、テストも極秘裏に行われる。だから波留はこの件を重大なミスだとは捉えていない。
波留は自動運転の自動車を開発しようと思っているわけではない。自動車メーカーに自動運転ユニットを売り込もうと目論んでいるだけだ。
自動車製造は日本の主要産業の一つであり、それを既存メーカーから奪い取るメリットは少ないと波留は考えている。何も彼は
金を稼ぐことだけに執着しているわけではないのである。
金を稼ぐとともに、日本の世界的立場を押し上げたいと波留は考えている。だから自動車メーカーには外国の競合他社が太刀打ちできないくらい安くて安全で正確な自動運転ユニットを供給しようと考えている。
もちろんそれでは海外メーカーの不満が募るだろうから、海外にもいずれは輸出するつもりだが、供給は国内自動車メーカー優先である。
「自動運転についてはだいたい分かったよ。そろそろ土地を買収して市街地とか都市部の道路を模したサーキットでも造ってAIに運転の経験を積ませるか」
「候補地を見繕っておきましょうか?」
「そうだな、長く使うわけでもないから工場にでも転用できる場所を選んでほしい」
「かしこまりました」
――あとはアンドロイドか。
AIを使ったもう一つの事業がAI搭載のアンドロイド事業である。波留はこれを量産して巨額の利益を得ようと考えている。けれども、既存のモーターを使った人型ロボット、あるいはアンドロイドではコストがかかりすぎる。
だから波留は今までにない新しい動力源と制御信号の伝達経路、動力の伝達路、組み立て装置などの開発を研究所で極秘裏に進めてきた。そんなだからここ半年ほど波留は研究所に詰めていることが多く、沙耶とは毎日実家で顔を合わせているものの、共に過ごす時間が少なくなっていた。
「沙耶、まだ定時には少し早いが今日はここまでにしよう。久しぶりに外へ食事にでも行かないか?」
「はい、喜んでご一緒します」
波留は久しぶりに沙耶の心からの笑顔を見た気がした。




