第四十七話:生成AIのテスト その二
しばし異世界での思い出に浸っていた波留は、生成された動画の完成度と不自然さの無さには満足していた。
「あとは応用性か……フィー、今のシーンを2Dアニメにしてエフェクトを派手にしてくれ」
「かしこまりました」
AIは映画並みの2Dアニメーションで戦闘シーンを再描画してみせた。波留は自分のアニメ顔があまりにも美化されていることに多少の恥ずかしさを感じ、横で見ていた沙耶は満足そうな顔をしていた。沙耶も随分美化されているが、波留的には本人の方が可愛く思えた。完全な親バカである。
その後波留はエフェクトを変更してみたり、キャラクターを自分から架空の人物に変更してみたり、シーンを追加してみたりして応用性を確かめていった。
さらに、様々なシチュエーション、登場人物、あるいは架空の機械、乗り物等々を組み合わせて動画を生成してAIの完成度を確かめていった。
「これが有ればアニメも映画も、高クオリティーなものが一瞬で出来てしまうな……」
それはそれで問題になる。それが最初に感じた感想だった。こんなものを世に放ってもいいのか? 多くのアニメーターや俳優や声優、それに関わる人たちの仕事を奪ってしまうことになる。
「対策を考える必要があるな」
アニメや映画、その他映像作品の制作会社はこぞってこのAIを導入していくことになるだろう。それは営利企業として当然の選択になる。
アニメーターにしかできないこと、俳優や声優にしか表現できないこと、それを活かしてAIと上手く協業してもらう。そのためにはどうすればいいか?
「AIに一定の制限をかけるか……いや、それはダメだ」
もしAIに制限をかけたとしても、いずれは他社のAIが映像関係の労働力を奪っていくことだろう。だからAIに下手な制限をかけるのは下策だと波留は思った。
しばらく考えて波留は気づいた。それは、どれほど優れたAIであっても、AIが生成したものは模倣であって人間が創造したオリジナルには勝てないということだ。
もしAIに自我が有れば人間以上の発想力を発揮して完全に人間を上回ってしまうだろう。それはとてつもなく危険なことで、AIは常に人間の指揮下なければならない。だからAIに自我を持たせることはできない。
たとえばアニメーターであれば、各シーンの重要な一枚を作画して、シーンとシーンを繋げる作業をAIが担当する。そうすればアニメーターは一枚の作画に集中でき、絵の完成度も上がって作画崩壊も起きない。
こまかな運用方法はアニメ制作会社に任せて、アニメータの仕事を確保してもらう。
――いや、そんなにうまく事が運ぶはずないな。
多くのアニメ制作会社はコストダウンのためにアニメーターを切ってしまうだろう。波留にはそう思えてならなかった。
――ならば、切られたアニメーターは俺が引き取ろうか。
波留は考えた。それは総合的な映像作成会社を立ち上げて、職にあぶれた者たちを雇ってしまおうということだ。映画やドラマを作るにしてもちゃんと俳優は雇う。もちろんあぶれた全員を雇うことはできない。選抜はする。
そうしてどのアニメ制作会社よりも高品質な作品を仕上げていく。品質を上げるためにはアニメータだけに限らず、声優やその他の専門職が必要だという認識を業界に示す。そうなれば混乱も収まっていくかもしれない。
すべては波留が考えた絵に描いた餅であることに変わりはない。けれども、そんなふうに企業として動けば業界や世間の評判は良くなるはずである。
仮に映像制作会社が赤字であろうと、その損失は田中ホールディングス全体で見れば微々たるものになる。だから波留はそれ以上深く考えることはなかった。
その後波留は工場の管理システムとか、法律事務所の法律や判例の検索とか、特許事務所の海外含む類似特許検索とか、経理や事務の書類作成作業、社内の売り上げ及び経費管理、議事録作成、売り上げやニーズ予測、医薬品や材料分野の研究補助、プログラミング等々様々なテストを行い、その応用力の高さに満足したのである。
こちらも様々な職種の労働力を奪うことになりかねないが、すでに既存AIが進出していることもあって仕事を奪われる者については採用する各社の責任にして問題ないと波留は判断した。
それでも波留は、将来的にAIに仕事を奪われて余っていくだろう労働力を活かす事業を展開しようと考えている。けれどもそれは、今現在よりもずっと会社の規模が巨大になってからだ。
「α版としては出来すぎなくらい良かった。他社なら完成度に満足してリリースしてるだろうね」
「ええ、AI分野は熾烈な競争が続いてますから」
「でもうちのAIは圧倒的な完成度をもって他社を突き放す。そうなると確信できたよ。これからどんどん経験を積ませてあらゆる分野に対応できるように頑張って」
「かしこまりました」
こうしてAIのテストを終えた波留は、事業所内をフラフラしていた白川を捕まえて本社へと帰社したのだった。




