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異世界帰りの大賢者  作者: 九一七
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第四十四話:沙耶のおねだり

 波留が霊力核融合発電に関する仕様書を白川が集めてくれた技術部隊に託したころには、毛生え薬の治験がはじまっていた。そして霊薬各種も来月の7月には治験に入ると父から報告があった。


 豊富な人脈を伝って電力関係の技術部隊を集め終えた白川は、波留が慰労のために与えようとした数日間の休暇を辞退し、今も積極的に外に出て電力関係の製造に関する人材スカウトに走り回っている。


「代議士先生について日本全国を走り回っていたころを思い出しますなぁ」


 夜遅くに帰社した白川は、報告の際にそんなことを言って笑顔を見せ、また、懐かしそうな顔をしていた。


 秘書としての雑務は、総務部から臨時で引き抜いたベテラン女性社員がこなしてくれているから、白川はスカウトに専念できていた。スカウトが終わったら、彼にはもっと秘書らしい仕事を頼もうと波留は思っている。




 数日後、第一秘書である沙耶は、電話やメールで出来る秘書としての仕事をこなしながら、生成AI事業の指揮を一人で執っている。そんな彼女が、めずらしくおねだりしてきた。




 波留が霊子技術研究所の所長室で、核融合発電の次に取り組もうと考えていた事業の構想を練っていたときだった。波留を訪ねてきた、妙にしおらしい沙耶に促されて機密ルームに場所を移したところでのことだ。


「マスター……折り入ってマスターにご相談があります」


 何か深刻な問題でも起きたのかと波留は思った。いままで沙耶がこんな態度で相談してきたことはない。


「なにか思い悩んでることでもあるのか?」


 もじもじと言いにくそうにしていた沙耶が、意を決したような顔になって波留の瞳を直視する。


「マスターにお願いがあります。動画投稿配信サイトを運営してもいいですか? もしよろしければサイト運営用のデータセンターを建設してくださりませんか? 指揮はもちろん私が執りますので」


 波留は嬉しかった。沙耶が今まで彼女自身のために金銭を伴うおねだりをしてきたことはなかったからだ。彼女は料理が趣味になっていて、けれどもそれは彼に美味な食事をしてほしいという理由があった。だから食材や調味料や調理器具をおねだりしてきたことはある。けれども、どうやら今度は自分自身のためのようだ。


 それは置いておくとして、波留は何としても沙耶の願いをかなえてあげたいと思った。 しかし理由だけは聞いておきたいのも彼の本音だ。


「どうして動画サイトを運営したいんだい?」

「マスターは私が動画配信をする許可をくださいましたよね」


 もちろん波留は喜んで許可を出した。沙耶には表に出て楽しいことを見つけてほしいと思っていたからだ。


「うん、たしかに許可したね」

「それで初めて動画を撮って公開したんですけど、いや、観てくれる人は増えてきたんですけど――」


 沙耶曰く、料理動画を撮って公開したらしいが、そのときに表示された広告の中にどう見ても詐欺の広告があったらしい。それで運営に報告したが詐欺広告が減ることはなかったようだ。


 頭にきた沙耶は、ほかにも困っている人が居るのか調べてみたら出るわ出るわ。詐欺広告にとどまらず、いかがわしい広告とか違法賭博の広告とか、理不尽な収益化停止とかアカBANとか。


「――それにですね、どう見てもAIで作ったフェイク動画がバンバンおすすめに出てきたりして――」


 その後も沙耶の愚痴交じりの訴えを聞いた波留は、彼女もここまで感情を露にするようになったかと喜んでいた。


――喜んでばかりじゃダメか。動画用のデータセンターとなるとかなりの規模にしないと運営できないよな……。


 波留は今年度の収支予測を頭のなかでざっと計算し、今年度の設備投資費や来年度に残すべき内部留保を差っ引いて、いくらまでなら沙耶に任せられるかを弾きだした。


「――だから動画投稿配信サイトを運営しようと考えました。私たちのAIなら詐欺広告なんて簡単に弾けますし、理不尽な収益化停止とかアカBANなんて絶対に引き起こしませんし、警告にしても収益化停止にしてもちゃんとユーザーに理由を提示できますし、理由を提示しても悪用できないようにできますし」


 プンスカと訴えてくる沙耶が微笑ましくて、波留は思わず目じりを下げる。


「分かった。サイト運営していいよ。予算はそうだな……今年度はとりあえず500億までなら自由に使っていいから。母さんには言っておくから」


 波留の許しを得た沙耶の瞳がパァっと輝いた。


「その金額じゃとりあえずは日本国内だけのユーザーにしか対応できないと思うけど、人気が出てきて黒字になるようだったら国外にも対応できるように増資していいから」


 ほとんどお小遣い感覚でポンと500億円を提示した波留だが、沙耶も沙耶で引くどころかお小遣い感覚で受け取ろうとしている。彼女も異世界での彼の金(かね)遣いに影響を受け、金銭感覚がとち狂っていることは間違いない。



 しかしこうして、既存のものではどうあがいても太刀打ちできないであろう新たな動画投稿配信サイトが立ち上がることになるのだった。

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こちらの作品「逆行転生自己育成リア充計画~リトライ、リア終小説家のかなり遅すぎた初恋~」もよろしければお読みくださるとうれしいです。
― 新着の感想 ―
リアルにもこの動画サイト出来ないかな・・・(白目)
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