第三十四話:2026年度決算報告他
レンズ処理工場が操業を開始し、護符の印刷機とともにフル稼働状態になった。それに伴い、霊視メガネの定価は10万円まで引き下げられている。
エナジードリンクの工場も建設に着手し、4月からの操業を目指している。ただ、商品に全く認知度がないため、清涼飲料メーカーから拡販のための営業職と工場運営のため人員を引き抜いた。
その営業職の中から数名に試飲をしてもらった結果、通常のエナジードリンクより効き目がいいのに副作用が出ないと好評だった。
「これは絶対に売れます。他社のエナジードリンクの数割増しの効果に加えてカフェイン不使用。しかも飲んだ後のこの清涼感。子どもが飲んでも問題ありません」
いちおう糖分が入っているから習慣的に飲みすぎると糖尿病のリスクはあるし、小さな子供には飲ませないように注意書きはしてある。
シワ取りクリームについては認証が少し遅れて6月ごろには取れるということだった。
「まったく、お役所仕事は時間がかかってイライラするわ」
珍しく母が怒っていた。
毛生え薬については動物実験がもうそろそろ終わり、臨床試験に入るために、国に提出する必要がある治験計画書を作っている段階らしい。
動物実験に協力してくれた大学教授には、他の霊薬を4種類ほど預けてある。そしてすでにその霊薬の承認に向けてのプロジェクトも動き出している。
その協力してくれた教授がプロジェクトを率いることになっていて、毛生え薬の治験が始まったら残りの霊薬研究にシフトするそうだ。彼は今や霊薬研究の第一人者となっているらしい。
その教授には、霊薬がなぜ人体に効くのか、異世界で得た知識をもとに波留が推測という形でレポートを送っている。まだ会ったことはない。なぜか? 波留はこういった研究者が面倒くさいししつこいことを異世界で知ってしまったからである。
決して人間性を嫌っているわけではなく、むしろ好ましいとさえ思っているが、興味を持ったことに関する好奇心が強すぎる人種だと彼は身に染みて分かっている。
そしてなにより、波留自身が研究対象にされることを心から御免こうむりたいとと思っている。
ちなみに、霊子や霊力に関する研究も幾つかの大学や研究所で始まっていて、動物実験に協力してくれた大学教授経由で波留は研究者宛にレポートを配布している。もちろん予測という形で。
幽霊や霊力、霊子に霊能力については日本中どころか世界中でその認知度が急速に広がっている。そしてその研究も世界各地の大学や研究所、そして企業や個人が取り組み始めているようだ。
波留はこの状況を知ってほくそ笑む。狙って誘導した状況だからだ。それでも彼はイニシアチブを譲る気はなかった。もちろん世界のすべてにおいてイニシアチブを取る気はないが、それでも多くの業界に切り込んでいこうと思っている。
波留がそう決めた理由は、多くの日本人、あるいは日本国が置かれている窮屈で先が見えない状況をひっくり返したかったからだ。彼は決して熱烈な愛国者でも極右でもない。
ただ、理不尽なことが大嫌いなだけである。
異世界よりは遥かにマシだが、現状の日本人、あるいは日本国が置かれた状況は波留にとって極めて理不尽にしか見えなかった。
重税しかり、物価に対して上がらない給料しかり、少子化を招いている社会システムしかり、意味不明な同調圧力しかり、某公共放送の料金システムしかり、利己的な特権階級しかり、グローバリズムしかり、事なかれ主義の公務員しかり、警察や検察が捏造した冤罪しかり、中年男性への世間の風当たりしかり、○○ハラスメントしかり、国民より自分や自党が大事で利己的な政治家しかり。
米国の属国状態しかり、米国及び欧州諸国の経済障壁しかり、米国人および欧州諸国人の人種差別しかり、特亜三国の日本及び日本人に対する考え方しかり、ロシアや韓国との領土問題しかり。
全部に対応することはもちろんできない。けれども、自分ならこれらの問題のうちいくつかを解消できる。波留はそう考えている。
そこらへんは置いておくとして、2026年度の決算報告が経理部長を務める母からもたらされた。
「工房関係の総売り上げが613億、営業利益が451億、税金を差し引いた純利益が302億、設備投資費が152億でグループには150億残るわ」
「利益率が74%か……儲けすぎじゃないか?」
もはやバグみたいな数字に父は呆れているようにも、恐怖しているようにも見えた。
「技術料が大半なんだからそれでいいんだよ」
自信満々にそう告げた波留に、父も母もちょっとだけ引いているようだった。
「株式の配当はどうするつもりなの?」
「配当はとりあえず無しにしようと思ってる。今のところ家族経営だし、配当には税金がかかるからね」
母の問いかけに波留はそう答えた。父も母も彼の考えを聞いて安心したような顔をしている。
そもそも波留にはグループ会社の株式を公開する気が無い。技術料と銘打ったボッタクリシステムをフル活用し、今後も荒稼ぎしていこうと彼は考えている。




