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異世界帰りの大賢者  作者: 九一七
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第三十二話:工場の稼働と思い出話

 いよいよレンズの処理工場が稼働しはじめた。メガネレンズ用が1ライン、スマホとかのカメラ取付用が1ラインの稼働だ。メガネレンズ用のラインで1日4000組の処理が可能で、装置は1日24時間フル稼働で操業していくことになっている。人員は3交代制で回していく予定だ。月産ではトラブルが無ければ12万組のレンズが処理できる――処理目標は月産10万組――。


 カメラ用のレンズを処理するラインは、レンズ自体が顧客となるメーカーごと、機種ごとに違うため、メガネレンズ用の装置ほど効率よく稼働させることは出来ない。けれども、レンズのサイズが小さいことから一度に処理できる数は多い。が、注文数が種類ごとにバラバラなため、数が安定しないという悩みがある。


 レンズ用の処理工場では、操業にあたって70名弱の社員を雇い入れることになった。派遣や外国人労働者には頼らず、すべて正社員として波留は採用している。


 社員の採用にあたっては、能力は当たり前として真面目さと忍耐強さ、そして人間性を重視して選別を行った。管理職以外の学歴は不問、平社員でさえ初任給は賞与込みで年収720万円という破格の条件で募集したことから、中途半端な時期にもかかわらず募集人数の5倍近くが入社試験と面接を受けることになった。


 というか、応募が殺到して募集を開始して早々に打ち切った経緯があったほどだ。その中から上位20%の上澄みを採用できたことを波留は喜んでいる。




「このふじみ野工場は当社の基幹工場として今日から操業をはじめます。現時点ではまだ2ラインしか設備が整っていませんが、随時設備を増やしていく予定です、田中特殊雑貨工房の社員として当工場で働く社員のみなさんには誇りをもって職務に励んでくださることを期待しています」


 レンズ処理を主に行う予定のふじみ野工場の開所式で社員たちを前にして挨拶をした波留は、希望に満ちた顔で目を輝かせている彼、彼女らの様子を見て、毎日コツコツと続けていた手作業でのレンズ処理をもうしなくてよくなると安堵した。


 開所式では役員である父にも一言もらい、田中霊薬のほうがメイン業務となっている母は、後ろに控えたままだった。




 こんな感じでスタートしたレンズ処理工場だが、大きなトラブルはなかったものの、操業当初は不慣れによる時間のロスや、組織的動き、および判断に手間取ったり、クリーンルーム清浄度が原因で不良品を出したりして、処理目標としている月産10万組を処理できなかった。


 けれどもロスの原因を丁寧に潰していった結果、操業3か月目には月産10万組を処理できるようになった。


 レンズの処理作業から解放された波留は、精力的に商売ネタの研究をしたり、沙耶が作ってくれたAI事業のロードマップを元に戦略を練ったりと忙しさは相変わらずだ。


「こうやってマスターと議論をしているとあの頃を思い出します」


 二人が議論しているのは新たに作った研究所の機密ルームだ。沙耶は波留と二人きりでここにいるときだけマスター呼びを許されている。というか、許されているというよりは彼女が波留に迫った結果だ。


「うん、四種とも特性が違ったからな」


 異世界にいたとき、波留と沙耶が本格的な議論というかもはや言い合いをしたのは一度きりだ。ドラゴン四種との決戦に挑む前のことである。


 命大事にの沙耶に対して、リスクよりも実を取ろうとしていたのが波留だ。異世界に迷い込んで16年という歳月が、彼を焦らせていた。もうこの異世界には飽きたし、住民の民度も最低だし、貴族は貴族で狡猾で傲慢だ。そしてなにより、両親が元気なうちに帰りたい。


 けっきょく波留は折衷案をとって一年準備しては一頭倒し、また一年準備しては一頭倒しと四年をかけてドラゴンを確実に倒していった。


 今となってはいい思い出になっているが、この議論とその後の共同作業が、波留と沙耶の関係を使い手と道具の関係から友人あるいは相棒と呼べるような関係へと発展させたのである。


 ちはみに、この二人は決して恋人関係にはなりえない。精神的な意味でも。たしかに沙耶はホムンクルスであって生殖能力を備えていない。けれどもそんなことは関係なくて、彼女を手塩にかけて育てるというかバージョンアップさせてきた波留からすると、彼は彼女を娘のように認識しているのである。


 そんな二人の関係性はさておき、霊視メガネや護符に続く事業として、波留はAI事業に乗り出そうとしている。霊的存在と力を世界中に認知させることはできた。


 それならば次は、その霊的力を用いた製品を展開していくのが本筋であろう。そして波留が考えている最も手軽で最もタイムリーな製品がAIなのである。極論を言えば沙耶の頭脳もAIだ。地球の現行AIとは比べるまでもなく沙耶の方が優秀ではあるが。


 堂々と間違った回答を示し、質問の機微を正確に読み取れず、莫大なリソースを浪費している。それが波留が感じた現行のAIだ。彼はその問題点を突いて業界に切り込もうと考えている。


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こちらの作品「逆行転生自己育成リア充計画~リトライ、リア終小説家のかなり遅すぎた初恋~」もよろしければお読みくださるとうれしいです。
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