第二十六話:霊力とかの数値化
特許を取得する場合は、いろいろなパラメータを数値化して限定しない方が広く権利を取れることが多い。その分取りにくくはなるが。だから波留は請求項に数値化したパラメータを入れないように知財課の村上に指示した。
けれども、製造技術やその装置化、あるいは製品においては厳密なパラメータの数値化が必要になってくる場合がほとんだ。とくに霊力や霊子濃度については、製品の性質上きっちりと数値を押さえておかないと、再現性や品質のバラツキが大きくなってしまう。
パラメータの数値化を行うにあたって何が必要か?
それは計測器である。霊子濃度、霊力――=霊圧×霊流量――などを測定する計器。
もちろんそんなものは地球世界には存在しない。しかし異世界にはあった。というか霊力計については波留が自ら開発した。家族のもとに帰るために必要だった巨大な魔石。それを持つ竜種の力を予測するために必要だったからだ。
ただ、異世界最強の魔獣である竜種の魔力を測定する魔力計だ。計測レンジが違いすぎて地球では使いようがなかった。重量計に例えると、最低メモリがトンのオーダーの巨大な計りでミリグラム単位の精密計測をする感じだと言えば解るだろうか。
――やっぱりネット通販は便利だよなぁ。
波留は天井付近までの高さがあるパーテーションで仕切られた社長室のデスクの上に、通販で取り寄せた電子機器や部品を並べて悦に浸っていた。
もともと波留は電子工作を趣味にしていたくらいだ。こういったアイテムを使って何かを創作することが大好きである。大好きなのであるが、悠長に自分で電子回路を組んでまで趣味を優先するつもりはない。いや、本当はやりたいと彼は思っているが、両親と自分、そして会社の仲間たちの社会的地位が安定するまでは効率を優先せねばならなかった。
ということで波留がやろうとしているのが既製品の小型コンピュータを利用することである。そんな理由で彼が購入したのはラズパイ――Raspberry Pi――シリーズの一つだった。
波留は自作した魔力アンテナと、被検体と測定器間の距離を魔力波を使って測定する部品と、人口魔石――魔力を蓄えておける電池のようなもの――と、簡易的に術式を収めた部品を銀線で適切に繋ぎ、その出力を電圧に変換――魔力電力変換器(霊力電力変換機構及びその装置として特許出願予定)――してラズパイの入力端子繋いだのである。
その後波留は銀線を魔力で変異――異世界でミスリル化と呼ばれていた技術――させ、銀線の魔力抵抗をゼロにした。あとは液晶表示器を繋いで市販のケースに収めれば完成になるのだが、もちろんそれだけでは足りなくて、ラズパイにOSと専用ソフトをインストールしなければならない。
波留はあらかじめ沙耶に言って作ってもらっていたソフトとOSを、自分のパソコンからラズパイにインストールした。そしてケースにねじ穴を加工し、組み立てておいた主要部品一式とその他もろもろの部品を組み合わせて一体化し、魔力測定器の試作品が完成したのだった。
――あとは調整と基準魔力を決めるだけだけど……やっぱりちゃんと測れるか試しておこう。
そう考えた波留は、自分の名刺をケースから一枚取り出し、微量の魔力を付加して試作品の計測ボタンを押してみた。すると000.00を示していた表示が一瞬で001.25という値を示した。
――問題は基準をどうするかだけど……。
とりあえず波留は社員の魔力をこの状態のまま計ってみることにした。ノイズが入るとマズいから、自分の魔力を完全に0に抑え込んで社長室を出る。
そして社員一人一人に声を掛け、新製品の基準にするから霊力を計らせてほしいと一応聞いて社員の魔力を測定していった。今このフロアには田中特殊工房と田中霊薬の社員が合わせて50人ほど働いている。
さすがに社長や会長である波留の頼みを断る社員はいなかった。彼は一応、絶対に安全であると声を掛けたときに説明して回っていたが、社員にどう思われたかまでは分からなかった。
何人かは自分の数値を興味津々の顔で聞いてくる社員もいたが、今はまだ基準を決めている段階だから基準が決まったら希望者には霊力値を教えることを波留は約束したのだった。この魔力計はもちろん製品化する予定だ。きっと爆売れするだろう。
そんなことを考えながら、波留は社長室に戻ると記録した数値をエクセルでソートし、上位5人と下位5人を除いたトリム平均を求めてみた。トリム平均を使ったのは2人ほど飛び抜けて大きな魔力を記録した人物がいたからである。
――中央値にわりと固まってるけど、奇麗なガウス分布になったか。中央値は5.21……。
波留は中央値がちょうど10.00になるようにソフトのパラメータを書き換えた。中央値を10.00にしたのは、試作した計測器の小数点以上が3ケタだったから。
波留が今まで見てきた日本人や外国人でも4ケタを超えるだろう人物はいなかった。校正後の社員の最高値は127.28であり次点は98.77だった。
50人中魔力が15を超えたのは7人、20を超えたのは4人だった。技術部長の高田も恐らく魔力値20を超えているだろうが、今日は出張していて測れていない。他にも十数名が出張中だが、彼らも希望すれば魔力を測ろうと波留は思うのだった。
この魔力値20が魔法の素質が有るか無いかの境目だと波留は考えている。でもそれは訓練してようやく幽霊や他人の魔力が見える程度のことしかできず、霊を祓ったりできるのは魔力値で50前後、付与が出来るようになるのは、難易度を問わなければ100前後だと彼は予測したのだった。




