第二十一話:世間の動き
波留が霊視メガネを売り出してから100日ほどが経過した現在、世界中に10000を超える数が出回っていることになる。売れ行きの方はいまだに国内外問わず絶好調というか、値下げして1つ50万円するというのに数日で売り切れ、圧倒的に供給量が足りない状態である。
そしてその結果、世間には霊の存在がかなり認知されてきていると波留には感じられた。というのも、SNSや動画サイトで霊が撮影されては拡散され、テレビでもほぼ毎日どこかの局で特集が組まれたりしている。そしてそれは海外でも変わらないようだった。もはや心霊現象が一概にオカルトとは言い切れなくなっている状況だ。
とはいっても、まだまだオカルトな部分も多く、一部の困った人たちが活発な動きを見せるようになってきた。その問題は後述するかもしれない。需要は海外の方が圧倒的に多いようだが、いまのところ国内販売と海外輸出で1対1の割合になっていた。これは波留が契約を結んだメガネメーカーの販売戦略らしい。
波留はその意図をわざわざメーカーに聞こうとは思わなかった。きっといろんな力学が働いているのだろうし、今はそんなことに構っている状況ではないからだ。そしてそれは、世間が彼が望んでいる状況になりつつあることを示していた。
さらに、霊視メガネは本来、魔力、地球世界で言えば霊力を視認するための補助具であり、霊が視えることはその副産物でしかない。
この魔法というか技術は、本来魔法を使えるようになるための第一関門であり、索敵や調査にも使われる魔法の基礎だったりするのだが、その本質に気づくユーザーも地球世界に現れだしたことが波留には嬉しかった。
それはすなわち、霊視メガネを使って霊力の動きを観察し、霊能力を得るために試行錯誤する人物が現れだしたということである。さらに、霊力という存在を科学的に理解しようという動きも見られるようになった。
いくつかの大学がすでに研究に取り掛かっているようだし、個人でその動きを見せている者も散見される事態になっている。
――早いとこ出てきてくれるとありがたいんだけどな。
それは魔法使いというか、自力で霊を祓える一般人のことである。それはようするに異世界的に言えば入門レベルの魔法が使える人のことだった。
自力で霊を祓える人は以前から存在していた。霊力が強くてセンスがある仏僧や神職の人たちだ。彼らは霊が可視化されたことによってその存在感というか、社会的地位が上がりつつある。
けれども副作用もあって、霊を祓う能力がない仏僧や神職の人たちがあぶり出されることになってしまった。ようするにはっきりとした実力差というか格差が表面化したわけだが、有能な者には依頼が殺到し、そうでない者の仕事が奪われる結果になっている。
それが最も顕著に表れたのが不動産業界からの依頼である。建物の建築前はもちろんのこと、最も多いのが事故物件でのお祓い業務である。
霊視メガネは不動産業界と賃貸物件のオーナーたちにとって救いの手となった。いわゆる事故物件か否か。それは主に賃貸料を決めるうえで大きな違いを生む。
事故物件が霊的に安全かどうか、霊視メガネの登場によって簡単に見分けられるようになった。通常の事故が起こっていない物件と同額とまでは行かないが、以前より価格差はかなり改善されることになった。
今では事故が有ろうと無かろうと、業者が霊の有無を確認するようになってきているし、もし憑いていれば仏僧や神職の人にお祓いを依頼すれば良い。
さらにオプションとして、田中特殊雑貨工房製の護符を設置するという安全策が講じられるようになった。これは波留にとっても、オプション料として設ける機会を新たに得た不動産業者にとっても好都合であり、田中特殊雑貨工房と不動産業者の関係はwinwinなものになったのである。
もちろん賃貸物件以外でも霊視メガネは活躍している。活躍の場所は一般人の持ち家や店舗、商業施設、オフィスや工場、公園などの公共地などなど数え上げればきりがない。
霊視メガネが普及するにつれ、仏僧や神職の人気はうなぎ登りだ。当然、今まで職にあぶれていた者や、今の仕事に行き詰まりを感じていた者、もっと稼ぎたい者の中から、仏僧や神職に鞍替えする者も急増している。
祓いの素養があるかどうかは霊視メガネでその人物を見ればひと目で分かる。だから仕事を鞍替えしたい者は霊視メガネを所持している寺や神社に行って判定してもらうようになった。もちろんだがタダで見てくれるところは少ない。
――いい傾向だな。
社長用のデスクでそんな感じでほくそ笑んでいた波留のもとに、最近雇ったばかりの事務員の女性が近づいてきた。
「社長、警察の生活安全部の方が話を聞きたいとお見えになってます」
――やっぱり来たか。
まだ完全には社会的信用を得ていない霊的なことを商売にしている以上、動いてるカネがデカいこともあって、いつかはこういうときが来ると思っていた。なにを聞かれるかまでは分からないが、余計なトラブルや詮索を避けたいと思っている波留は、素直に会って話を聞くことにした。
「分かりました。応接に通してください。お茶を出してくださると助かります」




