第十二話:意地っ張り
ネットフリマやネットオークションに登録するには、ほとんどのサイトが本人確認書類に免許証かマイナンバーカードが必要だと沙耶に指摘された波留。要するに免許証かマイナンバーカードを持っていなければ登録できない。
「むむむ、そこまでマイナンバーカードを取らせたい? 政府の差し金?」
出鼻をくじかれ、波留は陰謀論的被害妄想に取り憑かれている。
「沙耶、一番簡単で早く取れる免許って何?」
「ちょっと調べてみますね……小型特殊免許が筆記試験のみで合格当日の交付です。試験は午前中で平日ならいつでも受験可能みたいです」
「受験に必要な書類は?」
「住民票の写しですね。マイナンバーが記載されていないものが必要なようです」
「となると、明日市役所に行って住民票の写しを貰って、明後日の午前中に試験を受ければいいわけか」
「そうなります」
そう決めた波留は、沙耶にネットで資料をかき集めてもらって暗記をはじめたわけだが、小型特殊すなわち農業用トラクターとかを運転するつもりは当然ながらない。ということで、多少のズルはしょうがないよなと自分に言い聞かせ、魔法を使って自分だけが見える――脳裏にテキストイメージが映る――カンニングシートを作成して眠りについた。
そして翌日市役所に行き、さらに翌日試験場に行って小型特殊免許を取得したのである。市役所ではもちろんマイナンバーカードの申請は行わなかった。
波留はマイナンバーカードは何があっても申請しないと心に決めてしまった。彼は根に持つタイプなのだ。そしてあまのじゃく的な性格も併せ持ち、意地っ張りでもある。
「沙耶、これを使って複数のフリマサイトに分けて霊視メガネを売り出してくれ。値段は5000円の定額出品だ。商品説明には免責事項として幽霊を見て心的障害を負ったとしても当方は責任を取れませんみたいなことを書いといてくれ」
「かしこまりました」
霊視メガネが複数のフリマサイト、オークションサイトで出品された。けれども、波留の期待とは裏腹になかなか売れない。本販売用――定価100万円――の通販サイトも【田中特殊雑貨工房】というサイト名で立ち上げて同時並行で運営しているが、もちろん一つたりとも売れていなかった。
「妖しすぎるのかなぁ~」
波留は売れたかどうかをちょくちょく沙耶に尋ね、そんな要因分析をしていた。それでも世の中には物好きというか、数奇者と言うか、好奇心旺盛な人が居るものである。
「マスター、一つだけですが売れましたよ」
「ようやくか、もっと簡単に売れると思ったんだけどなぁ」
「発送作業に取り掛かりますね」
一個目が売れたのは、出品してから10日目のことだった。その間波留は結界用の護符を書き溜めたり、商品ラインナップを考えたりして過ごしていた。
父の髪の毛も生えそろい、最近はやたらと機嫌がよくて、家族が集まる朝食時の雰囲気がとても良くなっている。父は元気というか覇気が出てきた感じで漲っているし、母は母で小ジワが無くなったせいか活き活きとしていて機嫌がすこぶる良い。
数日後。
そんな感じの田中家とは無縁で対照的な、あまり有名ではないとある心霊スポット。人が住まなくなった廃村の朽ちかけた民家を背景に、二人の若い男がカメラを前になにかを言い合っていた。カメラの後ろにも動画を撮る数名の男たちが居る。
「配信見てくれてる人、ありがとー。今日は久しぶりのライブ配信だよ~。そんじゃさっそく。じゃーん! すっごく妖しいの入手しました。コレです、コレ!」
「なにそれ、ただのメガネじゃん――」
背が高い方の男が、カメラに向かって突き出したのはなんの変哲もない黒縁メガネだった。そのメガネを見てツッコむ男。二人はカメラの前で軽快なトークを披露している。
彼ら二人の正体は、登録者数が40万人を超えるそこそこ人気の動画配信者、いわゆるユーチューバーだ。
「――ということで、今日は以前からリクエストがあった廃村に来ています。今回こそなんでもいいから心霊現象、見れるといいですね~」
「今日はダイジョウブだって、俺にはコレがあるからね!」
背が高い男のふざけた言葉に相方がツッコむ。
「まぁーたしょうもないもん買って、いつも騙されてるじゃん」
「だってコレ見てよコレ!」
背が高い男がカメラの前に突き出したのは、スマホの画面に映るメガネの商品紹介ページだった。そこには幽霊が視える霊視メガネと商品説明がしてある。
「だから騙されてるんだって! そのメガネ、どうみても2000円くらいの安モノじゃん。5000円で買っちゃったの。アホだわコイツ」
「だってネタとしてはサイコウな逸品だよ。買わない手はないね」
彼ら二人は毎回こうやって妖しいアイテムを購入して地雷を踏みに行ったり、小バカにする小ネタを動画やライブ配信に取り入れて笑いを取っていた。
そもそも彼らのチャンネルはオカルト系のチャンネルではなく、リクエストに応じた場所に行ったりしてふざけ合うトークメインのチャンネルだ。二人ともオカルトには否定的なタイプであることは視聴者には知れ渡っている。
「まぁそうなんだけどね。そんじゃま、さっそく使ってみてよ」
「まっかせなさい」
配信のチャット欄には、お約束というか、どんなボケを見せてくれるのかを期待したような書き込みが割と高速で流れていた。




