第21話 旧交を温めに
とりあえず第二夫人の件は『ま、まあ、考えておきます』と言葉を濁して。
ここは折角の湖である。
セラフィーナとトワは水着に着替えていた。
セラフィーナは背中の開いた藍色の水着だ。遊泳用では訓練用の水着だが、スレンダーな彼女の肢体によく似合っている。
対し、トワは白いビキニだ。セラフィーナと対照的なスタイルが際立っている。
(うわあ、トワさんって……)
自分より年下に見えるのに本当にスタイルが抜群だ。
自分の胸と比較して流石に少しへこむが、魔装機兵の窮屈な操縦席に押し込められる操縦士としてはスレンダーな体格は適している。メリットもあると割り切った。
「セラ! セラ! 遊ぼう!」
早速、湖に膝までつけてトワが言う。
セラフィーナは苦笑をしながらも、自分も湖に入った。
すると、「アハハ!」と笑うトワに水を掛けられてしまった。
「あっ! やりましたねっ!」
セラフィーナは負けじと、トワに水を掛けた。
トワは「アハハっ!」と楽しそうに笑った。二人は水を掛け合った。
「楽しそうだな。二人とも」
そこにユージンがやってくる。片手には釣り具を持っていた。
「ユージンっ!」
トワがバシャバシャを湖の中を進んだ。
そのまま陸地まで駆け上がると、ユージンに抱きついた。
「楽しいぞ! 水遊びなんて本当に久しぶりだ! 前の時の記憶なんてもう遥か遠すぎて憶えてないぐらいだぞ!」
「はは。そうか」
ユージンは水に濡れることも気にせず、柔らかくトワの髪を撫でた。
その眼差しはとても穏やかで優しい。
(いやいやいや)
二人の様子に、セラフィーナが遠い目をした。
(そんなにラブラブでベタベタでイチャイチャなのに、ユージンさん。奥さんってば第二夫人の導入を計画してますよ)
心の中ではそうツッコむが、口には出来ない。
まあ、一夫多妻が認められている国は存在する。特に上級貴族なら第二夫人や第三夫人はいるものだ。セラフィーナの祖国であるこのハロンズ王国でも認められている制度である。そして先ほどの会話からして、きっとトワは一夫多妻が当たり前の国の出身者なのだろう。彼女にとってはごく自然な発想なのかもしれない。
(文化はそれぞれだしね。けど)
改めて、セラフィーナはユージンとトワをまじまじと見つめた。
本当に仲の良い夫婦である。
ただ、ふと考える。今のトワを自分の姿を置き換えた場合をだ。
もしも、ああやって、自分がユージンに髪を撫でられたとしたら――。
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………………………………。
………………………。
数十秒の沈黙。
かああああっと、セラフィーナは顔を真っ赤にした。
「……セラ?」
その時、ユージンがセラフィーナの方に視線を向けた。
「どうしたんだ? 顔が赤いぞ?」
「うひゃあっ!? そ、そんなことありませんから!?」
セラフィーナは思わず直立不動になってそう返していた。
『……セラ』
ペンダントのユキが言う。
『しっかりしなさいよ。そんなことじゃあ本当にトワさんに外堀を埋められるわよ。もしもガロンに到着する前に、ユージンさんに食べられたりでもしたら、この会社を選んだのも本末転倒じゃない』
「た、食べられる!?」
セラはさらに顔を赤くしてユキを凝視した。
『まあ、警戒してたのと違って、あなたも同意の上なら私は何も言わないんだけど』
ユキは嘆息して告げた。
一方、ユージンは「何の話だ?」と眉をひそめていた。
「い、いえ! 何でもありませんから!」
セラフィーナがそう叫ぶと、ユージンは「そうか」と頷き、
「俺はあっちの方の岩場で釣りをしてくるよ。二人はあまり《アトラス》から離れないようにして楽しんでくれ」
そう告げて、最後にトワの頬を撫でてから、ユージンは去っていった。
ドキドキと心臓を高鳴らせながら、セラフィーナは彼の背中を見送った。
すると、
「ん! セラ!」
トワが親指を立てて言う。
「その気になったのか! 今なら推してやるからな!」
「な、なってませんから!」
真っ赤な顔のまま、そう叫ぶセラフィーナだった。
――一方、同時刻。
「……ボス。見つけました」
ユージンたちがいる湖の森から少し離れた場所。
高台と呼ばれるような場所から双眼鏡を覗き込む男がそう告げた。
「おう。そっか」
ボスと呼ばれた男――ライガスが苦笑を浮かべた。
「このまま見失うかと焦ったぜ」
そう呟く。
今、この高台には《フリーローバー》のメンバーが揃っていた。
十七機の魔装機兵。大型魔導車輛が一台停車している。
ユージンの後を追って出立したライガスたちだったが、あまりの進行速度に一時は見失うことになってしまったのである。流石に焦ったのだが、偶然見つけたこの高台から周辺を捜索して、標的を再び見つけることが出来たのは幸運だった。
「しっかしまあ……」双眼鏡を覗く男がニヤニヤと笑う。
「あんなところに湖が隠れてるとは知らなかったっすね。あいつら、水浴び……つうか、水辺で遊んでるっすよ」
凝視したまま男は語る。
「こいつは眼福っすね。今夜が楽しみっす」
「……そっか」
ライガスは部下の男から双眼鏡を奪い取り、覗き込む。
その先には水着姿の女二人が見えた。
「確かに眼福だな。しかし、やっぱクロエはいねえな」
ライガスは眉をしかめた。
今は休息中なのだろう。今日はあそこで夜を過ごす予定かも知れない。だが、その状況でも目的の女の姿がないのは、同行していない可能性が高かった。
「……チ」
思わず舌打ちするライガス。
少しは期待していたのだが、残念ながら当てが外れたようだ。
「まあ、そう思惑通りにはいかねえか。さて」
ライガスは他の場所に視線を向ける。
ややあって、少し離れた岩場に知った顔の男がいることに気付いた。
どうやら呑気に釣りに興じているようだ。
「魔弾の戦鬼ともあろう男が随分と腑抜けちまったもんじゃねえか」
ライガスは皮肉気な笑みを見せた。
今のあの男の姿はとても傭兵には見えなかった。
(だが、そっちの方が都合いいか)
目的の女が同行していない以上、あの男から情報を聞き出す必要があった。
「……ふん。アサルト。かつての戦友よ」
ライガスは白々しく慣れない言葉を嘯く。
「これから旧交を温めにいかせてもらうぜ」




