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マイホーム・ザ・アトラス! ~新婚旅行は快適無双なキャンピングロボで~  作者: 雨宮ソウスケ


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第16話 強盗団

 ――強盗団とはクズばかりだ。

 長年に渡って傭兵をしてきたオルンは、常々そう思っていた。

 普段は無法者。犯罪者だ。だというのに戦時では傭兵顔で参戦する。

 そして戦争が終われば、再び無法者に戻る訳だ。

 そんな連中と一緒にされるのは、ずっと不愉快だった。

 だからこそ、生粋の傭兵であるオルンは実直で在り続けた。

 犯罪者に落ちるつもりはない。依頼主は何としても守る。

 それを信条に傭兵であることに誇りを抱いていた。

 今、この瞬間にもだ。



『俺が殿を務める!』


 機関砲の乱射で『敵』を牽制しつつ、オルンは叫んだ!


『依頼者を早く逃がせ!』


 続くオルンの言葉に、傭兵仲間の機体が『了解だ!』と応じた。

 四機の魔装機兵を並走させながら、魔導車輛が加速する。

 それを見届けてから、愛機の背中に取り付けた楯を地面に突き立てた。楯は左右に開かれ、壁のように展開した。そこに敵からの銃弾が直撃する。無数の火花が散るが、幾重にも装甲を重ねた特注の楯だ。銃弾ごときで容易く破壊されたりはしない。


『俺の愛機はてめえら専用機でな!』


 楯に隠れつつ、愛機の両手甲に組み込まれた機関砲を乱射する。

 弾丸も特注だ。いわゆる徹甲弾だった。高価な割に災害獣にはあまり通用しない弾丸だが、魔装機兵相手には効果抜群だ。多少の被弾なら防いでくれる装甲も紙のようだった。


(敵は二十六機か。多いが、ギリどうにかなるか)


 愛機の中でオルンが双眸を細めた。

 ここは広い草原だ。遮蔽物はないからこそ数で圧してきたようだが、その考えが甘い。

 巨大な楯を遮蔽物とし、一方的に徹甲弾で殲滅する。

 商隊護衛時のオルンの愛機は、そのスタイルに特化していた。

 すべては傭兵として任務を全うするためにだ。


(てめえらみてえな傭兵擬きとは覚悟が違うんだよ)


 弾幕は次々と敵機に被弾する。すでに八機が行動不能に陥っていた。

 強盗団も流石に警戒しているようだ。

 散開しつつ、それぞれ間合いを詰めようとしているが、


 ――ドルルルルッ!

 また一機、オルンの愛機に脚部を撃ち砕かれて倒れ込んだ。


(これで九機)


 強盗団は半数も潰せば撤退する。

 この状況ならば不可能ではないが、弾倉も無限ではない。


(出来ればこいつには頼りたくねえが……)


 オルンは、ちらりと楯の内側に目をやった。

 そこには二本の短剣が固定されていた。魔装機兵用なので充分に巨大なのだが、分類としては短剣になる。一般的に魔装機兵の武器は戦鎚や斧槍が多い。巨大すぎる災害獣相手に遠心力も合わせた最大威力の一撃を与えるためだ。それに対して刀剣類は、魔獣か、もしくは魔装機兵の相手を想定した武器だった。

 魔獣相手なら刀剣を使えば出血の期待もできる。魔装機兵相手ならば、大振りの戦鎚よりも小回りの利く短剣の方が有利だった。そして鋭利な切っ先を魔装機兵の膂力で打ち付ければ、装甲も貫くことが出来る。


 しかし、接近戦はやはりリスクが高い。最後の手段にしたかった。

 と、そうこうしているうちに、さらに二機大破させた。


(どうにか弾倉が持つか?)


 オルンがそう考え始めた時だった。

 不意に、強盗団の中から赤い装甲の機体が加速し始めたのだ。

 無限軌道で滑るように疾走する。危機感を覚えたオルンは機関砲を集中させて赤い機体を狙うが、速度と縦横無尽な機動で回避された。


(――こいつ!)


 赤い魔装機兵は接近してくる。明らかに他の敵兵とは技量が違う。一機のみの弾幕で止められるような相手ではない。そう察したオルンは二本の短剣を抜いた。


『くそったれが!』


 楯から飛び出し、迎え撃つが、


『―――な』


 オルンは唖然とした。直前にまで迫った赤い魔装機兵。そのあまりにも異様な姿に、歴戦の勇士であるオルンも目を奪われたのだ。


(――くそ!)


 それでも一瞬後には思考を切り替えたが、遅かった。

 そうして――。



 夜。森の奥にある朽ちた館にて。


「はは、ボス! 今日は大漁っすね!」


「おう。そうだな」


 顎髭を撫でつつ男は言う。

 そこは強盗団・《フリーローバー》のアジトだった。

 あちらこちらの壁に大穴が空き、すでに部屋の体裁もない大広間で焚火を囲いながら、男たちは談笑していた。それぞれの手には金貨もあれば食料もある。肉を焼き、かぶりついている男もいた。誰もが発砲酒を片手に掴み、陽気に笑っている。

 今日の襲撃で数人の死傷者も出たが、さほど気にもしない。結局のところ、強盗団は仲間などではなく、利害のみの集まりだ。死者を悔やむような気持ちもない。


「まあ、当たりと言えば当たりだが」


 そこでボスの男は頭を掻いた。


「ここで狩りをして二週間か。そろそろ女が欲しいところだな」


「そうっすね。商隊も傭兵どもも男ばっかっすから」


 ひっくっ、としゃっくりを零して強盗団の一人が頷く。


「こればかりは現地調達も難しいっすよ。そもそもいねえんすから」


「国営の魔導車輛ならいるかもしんねえが、流石に国相手に挑むのはな」


 ボスの男は嘆息した。


「物資もそれなりに貯めたしな。ここらで換金のために中継村にでも行くか」


「そうっすね。そこなら娼館もあるっす」


 ごくごくと発泡酒を飲み干して、部下の一人が言う。


「もうパンパンっすよ! いっそ娼館丸ごと貸切るっす!」


 立ち上がって、カクカクと腰を激しく動かし始めた。周囲の男たちはゲラゲラと笑い、立ち上がると、同じように腰を振った。


「先生っ!」


 そんな中、最初に悪乗りした男は壁の傍に座る人物に目をやった。

 年齢は三十代半ばか。長い黒髪の痩せた男だ。各々統率性のない服を着る男たちの中で、唯一、操縦士服を着た人物だった。その上に黒いコートを羽織っている。

 眼光は鋭く、彼は一人黙々と酒を飲んでいた。


「先生はどんな女が好みなんすか?」


「……女に興味はない」


 長髪の男は、視線を合わせることもなく答える。


「俺が興味を抱くのは戦場だけだ。強者と死合う時だけだ。今日の相手は中々に良かったが、最後は消化不良だった」


「はあ。そうなんすか?」尋ねた男は首を傾げた。


「楽勝だったんなら、それでいいと思うんすけど?」


「……ふん」


 長髪の男は目を細めると、そのまま黙り込んだ。

 すると、質問をした部下の背をボスの男が叩いた。


「まあ、傭兵を経験したことのねえお前には分かんねえだろうな。センセは戦場で生きるホンモノの傭兵なのさ。興味があんのは強い奴との命のやり取り。極限の緊張感こそが、女を抱く以上の最高の瞬間なのさ」


 そう告げると、ボスの男は「センセ」と呼んで一人、酒を嗜む男に目をやった。


「ただ、俺らの方もだいぶ溜まってるしな。マジで女が欲しいんだ。だから明日は中継地に行くぜ。しばらくは休暇だ。けど、仕事の時はまたよろしく頼むぜ」


「……お前が面白い舞台を用意してくれるのならな。ライガス」


 長髪の男はそう返した。


「おうよ。分かってるさ」


 ボスの男――ライガスは、ニカっと笑ってそう告げる。


「センセとは長い付き合いでいてえからな。けど、今は――」


 一拍おいて、ライガスは発泡酒を掲げた。


「喜べ! 野郎ども! 明日は中継地だ! 娼館だ! 存分に女を楽しもうぜ!」


 その号令に、


「「「「うおおおおおおおおおおおお―――ッッ!」」」」


 一斉に酒を掲げて、獣のような声を上げる男たちだった。










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