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マイホーム・ザ・アトラス! ~新婚旅行は快適無双なキャンピングロボで~  作者: 雨宮ソウスケ


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第15話 初仕事、始まる

 朝、八時ごろ。

 モーターホテル、《キャンピング・ザ・アトラス》は王都グラスタを出立した。

 城門をくぐり、草原にある街道を無限軌道で走り始める。

 街道は大型魔導車輛も通るために広い。《アトラス》も問題なく通れた。とはいえ、ここは王都に近く車輛の出入りが多い。速度も二十キロ程度の徐行だ。魔装機兵の二倍以上の体格は流石に目立っていたが気にもかけず、戦鎚を片手に携えて《アトラス》は進む。



「もう動き出しているんですか?」


 その時、後部キャビン・《アーススフィア》のダイニングにて。

 ソファーに座る女性が小首を傾げてそう尋ねていた。

 桜色のワンピースドレスを着た女性である。胸元には、人工精霊が宿る宝石をペンダントのように吊るしていた。

 ――そう。セラフィーナである。

 彼女こそが《キャンピング・ザ・アトラス》の初めてのお客さまだった。

 そして彼女の依頼に応じて《アトラス》が向かう先は、水網都市ガロンだった。


「全然振動を感じないんですけど……」


 自分の足元を見て、セラフィーナはそう呟く。

 走行に特化した魔導車輛でも、もっと振動は伝わってくるものだ。


「まあ、《アーススフィア》はある意味独立しているからな」


 と、セラフィーナの疑問に、隣に座るトワが答えた。


「詳しくは企業機密で言えないけど、たとえ《アトラス》が戦闘になって跳びはねても《アーススフィア》に振動は伝わらないぞ」


「え? 流石にそれは揺れるんじゃあ?」


 セラフィーナが流石に訝しむが、「大丈夫だ!」と豊かな胸をぽよんっと叩いて、トワは自信満々にそう保証する。

 事実、どれほど《アトラス》が激しく動いたとしても、《アーススフィア》は別の重力場内にある。《アトラス》との位置関係を維持しつつ、水平を保つことが可能だった。


「企業機密だけど、セラは何も心配することはないぞ!」


「は、はい」


 何やら凄い自信に、セラフィーナはただただ頷いた。


『けど、ここまで振動を感じないと、今どれだけ進んでいるのかも分からないわよね。ここには窓はないみたいだし』


 と、人工精霊のユキが言う。

 確かにその通りだ。三階層ある《アーススフィア》のどの部屋にも窓はなかった。

 すると、


「ああ、そっか。まだこれは見せてなかったな」


 トワはおもむろに立ち上がり、壁の一部にそっと触れた。

 途端、室内に一気に日が差し込んだ。

「え?」セラフィーナは目を丸くした。

 振り返ると、背後に壮大な景色が広がっていた。

 見渡す限りの草原に、遠くには森。晴天の空には鳥たちが飛んでいる。その光景は枠内にあって、まさに車窓からの景色だった。


「え? これって」


 セラフィーナは驚いて窓のようなモノに触れた。

 そこには街道を走る魔導車輛の姿もあった。


『あ、なるほど。外部映像を窓のように映しているのね』


 と、ユキが先に理解する。


「うん。『窓』だ」トワが頷いた。「各階にあるぞ。壁だけだと殺風景だったしな。けど、外からは見えないから安心してくれ」


「凄い……」セラフィーナは目を瞬かせて感嘆した。


「本物の窓みたい。魔装機兵にも外部モニターはあるけど、結構ノイズもあってここまでクリアな映像じゃないのに」


「これも企業機密なんだぞ」


 胸を張って、ふんすっと鼻を鳴らすトワ。

 創設したばかりの会社であるのに、やたらと企業機密を連呼するトワだった。

 まあ、《アトラス》は異界の知識やら、消失した魔法など、あまりにも常識を超越した技術の塊なので、そうでも言わなければ仕方がないのだが。


「ともあれだ」


 トワはにっこりと笑ってこう告げる。


「セラはお客さまだからな。ゆっくりとくつろいでくれ」

 


 一方、《アトラス》の操縦席コックピットにて。


「さて」


 操縦桿を握りしめつつ、ユージンが呟く。


「早速の仕事だ。会社としての出立も上々だな」


『ええ。そうですね』シドが答える。


『それがセラフィーナさんというのは意外でしたが』


「まあ、これも縁だろう」ユージンは苦笑を浮かべた。


「トワが緊張しない相手で良かったよ」


『やはりユージンはトワに甘いですね。一応従業員である以上、トワにも接客技術を習得してもらうべきなのでしょうが……』


 一拍おいて、


『千年もひきこもっていた人間にはハードルが高そうですね』


「うちは基本的にはホテルだからな。従業員がそこまで干渉する必要もないだろう。間食を希望されるお客さまなら、最低限トワはコーヒーぐらいなら出せるし、軽食ならトワ秘蔵の『カップヌードル』があるだろう」


 ユージンは言う。


「あれは本当に凄いぞ。俺も感動した。異界の技術はどれも驚くモノばかりだが、特に食に関しては一切の妥協を感じさせないな」


『食事に関しては私には何とも言えませんが……』


 シドはそう呟きつつ、画面の一部を拡大させた。二メートル級の雄牛に似た魔獣が群れを成す姿が映る。草食系ではあるが、近づけば凶暴な群れだ。


『いま私たちが注意すべきは魔獣たちと、災害獣(ディザイアン)といったところですか』


「ああ、そうだな。それと――」


 おもむろに、ユージンは双眸を細めた。


「ここの近くでは十年ほど戦争がないそうだ。やはり強盗団どもは多いようだな」


 戦争がなければ、強盗に身を落とす傭兵は多い。その逆のケースもある。かつてユージンが出会った男のように、戦時中のみ傭兵になるような者たちのことだ。

 いずれにせよ、戦争がない時ほど強盗団が多いのは、どの国でも同じだった。

 この近隣においては、現在手配されている強盗団は二十八にも至るそうだ。未手配はもっと多いだろう。結果的に、現役の真っ当な傭兵が商隊の護衛につき、傭兵崩れの強盗団が襲うという図式が出来ていた。


「懸念すべきは《アトラス》はどうしても目立つということだな。慎重な強盗団なら警戒して近づかないという選択もするかもしれないが……」


 ユージンは小さく嘆息した。

 恐らくそんな慎重な連中だけではないだろう。


『やはり強盗団との戦闘は視野に入れておいた方がよさそうですね』


「そうだな。分かっている。だが」


 そこでユージンは冷酷なほどに眼差しを鋭くした。


「お客さまの安全と快適が第一だが、《アトラス》にはトワが乗っているんだ。トワを傷つけようとする奴ら、俺からトワを奪おうとする奴らに容赦する気はない」


『……本気で怖いですよ。ユージン』


 シドが苦笑じみた口調で言う。


『戦鬼の顔になってますよ。モーターホテルのオーナーが』


「む。そうか?」


 ユージンは顎に片手を置いた。


『やれやれ、新婚ですしね。ただ、私として少し気がかりなのは』


 そこでシドは微かに嘆息した。


クロエ(・・・)のことです。私はユージンのための支援人工精霊ですので、勿論ユージンの幸せを祝福しますが、彼女は私を造り出した「母」でもありますから』


 そう告げるシドに、ユージンは少し驚いた顔をした。


「懐かしいな。お前の口からあの子の名前が出てきたのも数年ぶりだ。しかし、あの子の何が気がかりなんだ?」


『……ユージン。まったく。あなたはトワに対してだとあそこまで積極的で独占的だというのに。とは言え、クロエに対するあなたの考えも分かります。彼女にとっては辛い記憶でしょうから。だから、私もあえて彼女の名を口にしませんでした。ユージンはそもそも脳筋でもありましたから。ですが、こうして今の状況に至った以上、一度ぐらいは手紙を送ってやってください。少しでも彼女を大切だと思うのなら』


「……よく分からないが、そうだな」


 ユージンは「ふむ」と小さく呟いた。


「あの子も確かもう二十三になるのか。辛い過去も今なら受け入れられるかもな。分かった。知った場所に行き着いた時にでも一度手紙を送ることにしよう」


『ありがとうございます。ユージン。ああ、それと』


 シドは尋ねる。


『ユージンは一夫多妻についてどうお考えですか?』


「……唐突な質問だな」ユージンは眉をひそめた。


「それは各個人の主義だろう。国に所属しているのならその地方の法律だな。それは国によって違うものだ。俺としては否定もしない」


『なるほど。理解しました。まだ可能性はゼロではないということですね』


「……? 何を理解したのか分からんが?」


 ユージンは眉根をさらに寄せるが、いずれにせよだ。


「ともあれ、今は仕事だな。まずは中継(なかつぎ)の村に向かうか」


 そう告げた。








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