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マイホーム・ザ・アトラス! ~新婚旅行は快適無双なキャンピングロボで~  作者: 雨宮ソウスケ


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第17話 妄執

 中継(なかつぎ)の村。

 中継地とも呼ばれるそれは、主に都市間に点在する村の俗称だった。

 都市間の移動は、場合によっては数日もかかる長距離の旅になる。そのため、農業などではなく、物資の調達や休息を目的とした中継の集落が生まれたのだ。商隊の出入りも多いので一般的な農村よりも発展している場所でもある。頑強な外壁にも覆われており、大都市にある工場区がそのまま独立したような村だ。


 昼を少し過ぎた頃。

 ユージンたちは、中継の村の一つに到着していた。

 物資は充分にあるため、目的としては、軽い休息と最新情報の収集である。

 旅のリスクを少しでも回避するため、魔獣や災害獣の生息域、強盗団の出現情報。他にも直近の天候や地形などの最新情報を得ることは旅する者の基本だった。


(ただ、中継の村はいささか問題もあるしな)


 と、歩きながらユージンは思う。

 シドに管理を任せた《アトラス》を格納庫に預けて、ユージンは村の中を進んでいた。

 ここは広い大通りだ。多くの飲食店が開かれている。人通りも多く、活気に満ちている。中継地はその特性上、発展しやすく、どこも『村』というよりも『街』に近い規模になる。


(発展するのはいいが、大きくなればなるほど影も深くなるものだ)


 ユージンは、周囲に目をやりながら少し瞳を細めた。

 賑わっているが、正直なところ、ガラの悪さも伝わってくる。

 路上にテーブルをはみ出している店も多くあり、昼間から酒を飲み、馬鹿騒ぎしている連中もいる。風貌からして傭兵か。中継の村に常駐する傭兵は多い。ここで護衛の補充員として雇われるためだ。旅の途中で命を落とす護衛もいるため、そういった者の代わりだ。

 ユージン自身も一時期、中継の村で日々を過ごしたこともあった。

 だからこそ、中継の村で職探しを否定する気はないが、


(傭兵は荒くれ者が多いからな)


 中継の村には大都市の工場区にはない娼館もある。さらには賭場や闇市、果ては奴隷市まで開かれていた。工場区に比べると相当に治安が悪いのだ。

 昔、妹分を連れて中継地の裏道を歩いた時、襲われたことがあった。

 その日まで中継地で襲撃など受けたことのなかったユージンは少し驚いたが、返り討ちにして話を聞くと、妹分を攫って奴隷市で売りさばく気だったらしい。


(あれで改めて中継地が無法地帯だと理解したな)


 ユージンは小さく嘆息する。調べたところ、大都市で少年少女を攫って、中継地にて売りさばくという犯罪者もいるらしい。


(そんな場所に、俺はトワを連れて歩いている訳か)


 流石に気が重くなる。

 ――そう。

 現在、大通りを歩くのはユージン一人ではなかった。

 少し後ろにそわそわと周囲を見物するトワが付いてきているのだ。

 酔っぱらった傭兵たちは、大通りを歩くトワを凝視して、感嘆の声を上げたり、口笛などを吹いている。とにかく目立っていた。

 その上、今はセラフィーナの姿まであった。歩くだけで注目されるトワに比べれば控えめではあるが、彼女も充分に見目麗しい。酔っぱらいたちの興味を引いていた。

 本音を言えば、二人には《アーススフィア》で待っていて欲しかったのだが、中継地は休息地でもあるのだ。引き籠っていては息抜きも出来ない。

 それにトワには出来るだけ世界の広さを見て欲しかった。

 それもまた本音だった。

 負の一面はあるが、中継地もまた現代の人間の営みの一つなのである。

 トワにはそれを感じて欲しかった。


「凄いな! ユージン!」


 その時、トワがユージンの袖を掴んで瞳を輝かせた。


「色んな店があるな! それに懐かしいぐらいガラが悪いぞ!」


「……? ガラが悪いことが懐かしいのか?」


 ユージンがそう尋ねると、トワは「うん!」と頷いた。


「昔はこういう連中がゴロゴロいたからな!」


 そこでトワは自分の長い銀髪を掻き上げて、


「私の容姿が目立つことぐらい自覚してるぞ。結構注目されていることもだ。昔は血塗れの剣とか槍を持って声を掛けてくる奴らが沢山いた」


「……いや。流石にそれを堂々とする連中はもういないと思うぞ」


 ユージンは苦笑いを浮かべた。

 そういえば、トワはもと冒険者だと言っていた。千年前。開拓者(シーカー)の黎明期だ。その頃なら法などもっと雑であり、さぞかしガラも悪かったことだろう。


「改めてトワは蛮族時代も過ごしていたんだな。とはいえ、表立って動く連中はいないかもしれないが、用心に越したことはない」


 ユージンはトワと、セラフィーナの方にも目をやって告げる。


「とりあえず昼食をとろう。裏道以外は安全だと思うが、二人とも気を付けてくれ。中継地にはどんな奴がいるかも分からないしな」



       ◆



「……んあ?」


 同時刻、裸の男がベッドの上で目を覚ました。

 年齢は四十代か。髭面の巨漢だった。

 ライガス=グランド。強盗団・《フリーローバー》の首領である。

 ただ、現在は休息の時だ。

 大きな欠伸をし、ボリボリと胸板を掻いて上半身を起こす。

 ライガスの隣には裸の女がいた。二十代半ばか。短い黒髪の娼婦だ。ベッドの端には大きな眼鏡も落ちている。女は疲れ切った様子で眠っていた。


「俺の趣味もどうも偏っちまったな」


 眼鏡を拾い上げて、ライガスは苦笑を浮かべた。

 この眼鏡は自前の小道具だった。ここ八年ほど娼館を使う時は、いつも短い黒髪の娼婦ばかりを選んでいた。その女にこの眼鏡をかけさせるのだ。

 そうすると非常に興奮する。思わず抱き潰してしまうほどにだ。


「いま思うと惜しいことをしちまったな」


 ライガスは再び大きく欠伸をした。


「あの小僧にくれてやるべきじゃなかったか」


 もう随分と昔の話だった。戦利品として獲た女。いや。当時は小娘か。そいつをとある傭兵の小僧にくれてやった。しかし、あの小僧はよほどのモノを持っていたのか、一夜で開発された小娘は前日とはまるで違う輝きを放っていた。小僧を見る時の愛憎が混ざり合ったような小娘の眼差しは正直に言ってゾクゾクとした。

 小僧には何度も貸してくれと願ったのだが、結局、借り受けることは出来なかった。

 それを今でも無念に思っている。


「喰い損ねたことが、まさか今でも尾を引くとはな」


 当時の戦争が終わり、あの女は小僧に連れられて去っていった。それ以降、あの女の行方を探しているのだが、どうにも見つからない。

 小僧の方は傭兵として相当に名を知らしめたようで、手がかりとして追っていたのだが、ここ数年ほどは名を聞かなくなっていた。まったく知らない土地に移動したのかもしれないと考え、こんな辺境にまで赴いたのだが、今のところ、これといった収穫もなかった。


「さて。どうしたもんかね」


 ライガスは片手で頭を掻いた。

 所詮は昔のことだ。喰い損ねた女一人など別に諦めてもいいのだが、欲しいモノは奪うのが自分の性分だ。どこまでも強欲だからこそ強盗団の首領などをしているのである。


「もう少し探って情報がねえのなら、いったん戻るのもありか」


 そんなことを考えていた時だった。

 ――ドンドンドンッ!

 と、部屋のドアが強くノックされた。

 ベッドの上の女がギョッとして目を覚ますほどだ。

 ライガスは訝し気ながら立ち上がり、ドアを開けると、


「――ボス!」


 部下の一人が立っていた。十年以上の付き合いの強盗団の古参だ。

 何故か部下の男は顔色を赤くしていた。

 そして興奮気味な声で、部下はこう告げるのであった。


「ボス! 朗報っす! あの小僧を見つけました!」








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