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第1話 断頭台の令嬢は、解剖台で目を覚ます

首が落ちる瞬間、私は笑いそうになった。


だって、あまりにも滑稽だったから。


真実を暴くために生きてきた私が、"嘘"によって殺されるなんて。


「――セシリア・ヴァン・アルディス。汝の罪、断頭をもって贖え」


刃が落ちる。


視界が回転する。


石畳が、空が、群衆の顔が、ぐるぐると入れ替わる。


その一瞬、私は見た。


涙を流す王太子殿下の、そのすぐ隣で。


確かに、微笑んだあの女の顔を。


――エルミラ。


(……ああ、そう。そういうこと)


理解した瞬間、意識が途絶えた。


冷たい。


それが、次に感じた感覚だった。


石の冷たさ。


金属の冷たさ。


そして、自分の指先が、動くという感覚。


(……指、が?)


私は、目を開けた。


見えたのは、白い天井。ランプの光。薬品の匂い。


そして――


「あら、目覚めたのね」


私の顔を、真上から覗き込む、一人の女性。


黒髪を無造作に束ね、銀縁の眼鏡をかけている。


年の頃は、私と同じくらい。


白衣。血の染み。手には、光る小さな刃物。


「幻覚か、幽霊か、それとも本当に憑依か。まあ、なんでもいいわ」


彼女は淡々と言った。


「今、私はあなたの遺体の腹を開こうとしていたところなの。少し、静かにしていてくれる?」


(――は?)


私は反射的に身を起こそうとして、気づいた。


動かない。


正確には、動かせない。


私の意思とは無関係に、この身体の持ち主が、こちらを見下ろしている。


いや、違う。


見下ろしているのは、私だ。


私の視界で、私の首が、私の遺体を見下ろしている。


解剖台の上に、横たわる私。


首と胴が、綺麗な布で繋がれた状態で、寝かされている、私。


(私……死んだのよね?)


「ええ、死んでるわよ。斬首されて三時間。ちょうど良い頃合いね」


私の思考に、彼女が答えた。


聞こえている。私の心の声が。


そして、彼女は、私の遺体の胸元に、そっとメスの先を当てた。


「安心して。私は雑な仕事はしないから。あなたが、どうやって殺されたのか。ちゃんと、最後まで聞き届けるわ」


(――どうやって、殺された?)


(斬首、でしょう? みんなが見ていたわ。私の首は落ちた)


彼女は、少しだけ笑った。


冷たい微笑みだった。


でも、なぜだろう。


私はその笑みに、生まれて初めて、味方という言葉を連想した。


「あなた、公爵令嬢のくせに、随分と勉強不足ね」


彼女はメスを置き、私の遺体の首筋を、そっと指でなぞった。


「死斑の出方。うっ血の位置。眼球結膜の点状出血。それに――」


彼女の指が、私の唇を、そっと押し開ける。


「舌の、この赤紫色の斑点」


「これは、斬首された人間の遺体には、絶対に、出ない兆候よ」


しん、と、部屋が静まり返る。


私は、彼女の言葉の意味を、必死に理解しようとしていた。


「……つまり」


彼女は、私を――正確には、彼女自身の目を通して私を見つめて、言った。


「あなた、斬首される前に、既に一度、殺されかけていたわね?」


「これは、処刑じゃないわ、セシリア・ヴァン・アルディス」


「――これは、殺人よ」


刃物の光が、ランプに反射して、きらりと瞬いた。


私は、自分の心臓が――持っていないはずの心臓が――どくん、と、鳴った気がした。


(誰)


(誰が)


(私を、殺した?)


彼女は、ゆっくりと、メスを構え直した。


「大丈夫。死体は嘘をつかない」


「これから私が、あなたの身体に残された証言を、全部、聞き出してあげる」


彼女は、私の遺体に向かって、優しく、囁いた。


「――さあ、教えて、セシリア」


「あなたを殺したのは、誰?」

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