表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/57

第七章-2 君が前に立つなら

 廊下へ出た途端、それまで張りつめていた空気がようやく少しほどける。


「……驚いたわ」


「でも、適任でしょ?」


 アルシオがそう返すと、アエラはじっと彼を見る。


「あなたって、そういうところずるいのよ」


「え」


「真正面から言うんだもの」


 そう言ってそっぽを向いた頬が、わずかに赤い。その横で、マリエラがくすりと笑った。


「でも、素敵でしたわ。公の場でああして認められるのは」


「マリエラ!」


「事実ですもの」


 ランスは淡々とした顔のまま言った。


「少なくとも、会長人選については最良の形になったと思う」


「あなたまで」


「適切な判断です」


 きっぱり言い切られ、アエラは反論しかけて、結局できなかった。ザンザスは短く一言だけ落とす。


「舞踏会までに、役割分担を詰めましょうか」


「そ、そうね」


 エレンもおずおずと続けた。


「会計や運営案も、年明け前に少し整理しておいた方がいいかもしれません」


 すでに皆、次を見ている。そのことが、何だか少しくすぐったく、そして頼もしかった。やがて六人はそれぞれの方向へ散っていく。

 最後に残ったのは、自然とアルシオとアエラだけだった。冬の淡い光が、長い回廊に差し込んでいる。アエラはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと言った。


「……私に務められるかな」


「大丈夫だよ、リーナ」


「でも……」


 アエラの不安を感じ取り、アルシオは少しだけ黙った。冬の淡い光が、長い回廊の床へ静かに落ちている。


「もっと前から思ってたんだ」


 やがて、アルシオはゆっくりと言った。


「僕は、みんなの前に立つべき立場にいる。たぶん、それはこれからも変わらない」


 アエラは何も言わず、ただ彼を見つめている。


「でも、それは役割だからだ。皇子だから。そういう立場に生まれたから。前に立つことを求められる」


「……アルシオ」


「でも、リーナは違う」


 その一言に、アエラの睫毛がわずかに揺れた。


「瞳の力強さも、みんなを惹きつける声も、前に立って人を引っ張っていけるものだって、ずっと思ってた」


 アエラは息を呑む。


「模擬評議会の時も、創設祭の時も、ただ勢いで進んでいたわけじゃない。ちゃんと先を見て、周りを動かしていた」


「それは……」


「だから、リーナが会長になるのは自然なことだと思った」


 アエラはすぐには返せなかった。視線を逸らしそうになって、けれど結局、逸らせないまま立ち尽くす。


「……そんなふうに、見てたの」


「見てたよ」


 あまりにもまっすぐ返されて、アエラは小さく息を漏らした。


「ほんと……ずるい」


「え」


「そう言わられると、悪い気しないじゃない」


 そっぽを向いた頬は、もう隠しようもなく赤かった。


 けれどアルシオは、そこで少しだけ目を細める。


「それに」


「……まだあるの?」


「リーナが前にいる方が、僕は支えやすい」


 アエラが息を止める。


「たぶん僕は、そういう役回りも嫌いじゃないんだと思う。――前に立つリーナを後ろから支えて、ちゃんと形にしていくこと。たぶん、そこにはやりがいもあるし……少し、楽しみでもある」


 最後の言葉は、ほんの少しだけ柔らかかった。アエラは何も言えない。ただ、頬を熱くしたまま視線を揺らす。


「……そう」


 やっとそれだけ言って、視線を逸らす。


「じゃあ、ちゃんと支えてね」


「もちろん」


「途中で面倒になったとか言わないでよ」


「言わないよ」


「ランスばっかり頼りにしたら怒るから」


 思わぬ一言に、アルシオは目を瞬いた。


「何それ」


「何でもない」


 アエラはそう言って先に歩き出す。けれど、その足取りはどこか軽かった。アルシオはその背中を見つめながら、胸の奥に不思議な温かさが残るのを感じていた。前に立つ彼女を支えること。それを自然に思える自分がいた。そして、その未来を少しだけ楽しみにしている自分にも、もう気づいていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ