アルガ帝国暗殺者編『終幕』
イルア皇国、作戦管理局にて…
「クイルは失敗した様だな。」
長机を囲む様に6人の軍服に身を包む男性が座り、煙草を口に運ぶ。その中の一人、ハーナルド中将は静寂に包まれる喫煙所と化した会議室で声を出した。
「はい。秘技の使用までは辿り着けたようですが…『女神の魔法』により打ち消されたとの報告が入っています。」
答えたのは、白衣に身を包む長身で細身の男性。イルア皇国の研究者だ。
「『女神の魔法』か…アルガ帝国にも我らと同じ『慈悲の女神』を信じる者がいたのか。」
「我らと同じ?はっ、どうせここにいる者は神など信じていないだろうに。」
そう軽口を吐くのはカムラード中将だ。
「ふっ、それもそうか。女神がいるなら俺たちはここで戦争計画を練ってはいないな。」
リュマターズ大将は苦笑を浮かべながら答えた。
「そう言えば、ハーナルド。確かお前は部下を5人ほど偵察に向かわせていたようだが…」
「はっ。結論から申し上げますと、本作戦は失敗しております。情報収集のためアルガ帝国軍内部に侵入しようとした際、隊長に気付かれ、止むを得ず撤退したと報告が入っております。」
「何か情報は手に入ったか?」
「それが…情報を入手し、持ち帰ろうとした際に、通りかかった冒険者に捉えられたと報告を受けました。」
「確か、『フロルゴ団』に偽装していたな。おそらくそれが原因だろう。」
ハーナルド中将に問いかけたのはリュマターズ大将だ。この会議の最高権力者であり、イルア皇国に居る6人の大将の内の一人だ。
「リュマターズ大将殿、次の作戦はどうするおつもりですか。」
「…悩ましいが、確実にアルガ帝国を衰退させる方法を取る。」
「アルガ帝国を衰退させる方法…?」
「うむ。真矢斗を使う。」
「なっ…真矢斗を使って何をなさるおつもりですか」
「真矢斗にアルガ帝国王を暗殺させる。」
「…」
「真矢斗以外の者には出来ないと私が判断した。反対意見はあるか?」
一同は黙り込んだ。煙草を運ぶ手も止まり、完全に静止している。一同は考えた。真矢斗を使うべきなのか否かを。
【異世界人:真矢斗】
高校2年の冬、自殺しようとビルから飛び降り、地面に衝突する直前、異世界からの召喚の魔法陣が現れ、この世界にやってきた。こちらの世界に来てからは暗殺術を学ばされ、表向きには暗殺を繰り返す狙った獲物を外さない最恐の暗殺者となっている。
「彼はまだ子供だ。いくら暗殺者だと言っても、王の暗殺は話が変わってくる。子供に任せるのはリスクが高い。」
静まり返る会議室で最初に声を出したのはセトラスチャーリ中将だった。
「うむ。勿論わかっておる。別に私も今すぐ行かせるつもりではない。これは戦争だ。元々長期戦の予定であり、まだ子供なら育つまで待つ。まだ未熟なら育てる。我々イルア皇国が求める者は『確実』だろ?」
「…そうでしたな。では、リュマターズ大将殿、少し私のところで真矢斗を預かってもよろしいでしょうか。」
「ほう、ナチサールド中将、何か案が?」
「はっ。真矢斗に対魔導士用の三次元戦闘術を叩き込もうと思いまして。」
「なるほど。面白いな。分かった。真矢斗はお前に預けるとしよう。一人前の暗殺者に仕立て上げろ。」
「はっ。お任せを。」
この後も会議は続いた。
イルア皇国。この国は現在、アルガ帝国、サバタ諸国連合と戦争中である。アルガ帝国との間には『紅戦線』、サバタ諸国連合との間には『海洋戦線』と言う二つの戦線を抱えている。元々はガロ帝国と言う国が支配していたのだが、新しく少佐となったアスラータという青年が軍を率いて単独寸前まで持っていった。しかし、未だガロ帝国はイルア皇国の実質的な植民地のままである。イルア皇国は少しずつ勢力を増しているが、アルガ帝国との軍事力の差は中々埋まらない。そこで行われたのが、アルガ帝国の軍事力を知るための偵察及び、クイルを使ったアルガ帝国の崩壊だ。しかし、どれも不発に終わり、作戦管理局の面々は頭を抱えている。
この話の続きは…多分「二部」からになると思うので、相当先になります。イルア皇国とアルガ帝国の戦争は別作品の『平和主義の芋娘』で出る予定なのでそっちを見ていただけるといいなと思います。




