対面するシェンラーと獣王ギラドア
「獣王ギラドア…あなたが俺の父親…?」
「ああ。いかにも。」
「え?じゃあ、ママは獣王と結婚したの?」
「うーん…まあ、そうなるな。」
「なんで?獣王…魔族って人間の敵でしょ?」
「あーなるほど、お前らは前魔王の時代を知らないのか。」
「前魔王?」
「ああ。あの魔王と時は平和だった。何せ、あの魔王、人間と結婚し子供を授かりやがった。前魔王の名はヴァール・ザグラドール、あいつの時代がずっと続けば良かった。」
「そのヴァールって魔王は確か討伐されたんじゃ…」
「ああ。討伐された。勇者ゴーリャの時代にな。」
「勇者ゴーリャ…あなたが壊滅寸前まで追い込んだ勇者パーティーの?」
「ああ。そうだ。」
「…まだわからないことはたくさんあるけど、それよりも、話は変わるんだけどさ、俺って、ここで何をしたらいいの?出口がどこか分からないんだけど…」
「出口はない。俺を倒せば出てくる。」
「え?あなたを倒す?俺、一人で?」
「ああ。そうだ。」
「無理だと思うけどな…」
「戦ってみないと分からない。まぁ、一回かかってこい。今お前がどのくらいの強さなのか知りたい。」
「わかった。」
ギラドアは大剣を片手に持って構えた。
「こい!」
シェンラーは深く踏み込んだ。剣に魔力を乗せ、一気に距離を詰め、ギルドア目掛けて振り下ろした。
「【炎天下】!」
「ふむ、なるほどな…この程度か。」
「え…?」
ギルドアは避けるどころか、構えていた剣を直し、自らの体でシェンラーの攻撃を受け止めた。
「!」
(硬い。いや、俺の攻撃が攻撃として成り立たないほどに弱いのか…)
「その目、気付いたな。そう、お前の一撃は攻撃ではない。ただ剣を振っているだけだ。」
「そんな俺にあなたを倒せと?」
「ああ。俺がお前を鍛え上げる。」
「あなたが鍛える?俺を?」
「そうだ。あと、俺のことは師匠と呼ぶように。」
「師匠?」
シェンラーの体感時間で、1週間ほど経っただろうか。(※外の世界は2日ほどしか経過していない)一応親子で血が繋がっていると言うこともあり、ギルドアの戦闘スタイルをシェンラーはたった1週間でマスターした。
「【乱れ咲:風刀】」
シェンラーは剣を振り回し、あちこちに斬撃を飛ばした。一見するとただ振り回しているように見えるが、剣を振るうたび、シェンラーの闘気が高まっていく。そして、あちこちに飛び回る斬撃は、全ての形が均一であり、力の加わり方にブレがないことを表している。
「よし、だいぶマシになったな。」
「本当ですか師匠!」
いつの間にかギルドア師匠と呼ぶことに抵抗がなくなっていた。しかしギルドアは…
(師匠じゃなくてパパって読んで欲しかったな…)
とっても一途なパパである。
「よし、今日は少し手合わせをするか。」
「わかりました!修行の成果を出し切ります!」
対面しただけでわかる。初めて会った時から見違えるほど闘気が練り上げられ、闘気そのものの量もかなり増している。そして何より、
「まだまだ弱いが【獣王覇気】が出てきたな。」
【獣王覇気】
獣王ギラドアが戦闘せずに敵を撤退させたい時によく使っていたスキルの一つである。効果は相手をただ威圧するだけである。まぁ、威圧に耐えられなかったものは気を失うが。
「さぁ、来い!」
「【乱れ咲:風刀】」
シェンラーはまるで、舞を舞うかのような動きをしながら、剣を縦横無尽に操る。放たれる斬撃はギルドアを目掛けて収束した。
「フンっ、」
ギルドアは大剣を振り上げ、一振りで全ての斬撃を風圧で薙ぎ払った。
「まだまだ!【乱れ咲:乱喰】」
今までの舞を舞うような中距離攻撃から一転、暴れ牛の如く攻撃を連続で叩き込んだ。
その全てがギルドアの大剣によって防がれる。全くギルドアには効いていないように思われた。しかし、次の瞬間、ギルドアは一歩後退りした。
「!?」
(後退りした!そうか、大剣だから連続攻撃を捌くのが難しいんだ。なら…)
「【乱れ回雲:速】」
「!」
シェンラーはまた攻撃の型を変え、再びギルドアに斬りかかった。今度の剣技は連続攻撃に特化した【乱れ回雲】という剣技の速度を高めた型である。
「…」
いつも何かアドバイスをくれるギルドアが、珍しく黙り込んだ。やはり、苦手なのだ。早い連続攻撃が。
「はぁ!」
シェンラーは深く踏み込み、力をしっかりと溜め込み、一点目掛けて力強く切り込んだ。
「!」
ギルドアは攻撃を防ぐため大剣を構えた。しかし、大剣では防げないわずかな隙間を見つけ、一点を貫いた。
「【乱れ回雲:一点突き】」
初めてギルドアの体に一撃を叩き込んだ。すると、ギルドアの傷口が少しずつ開き黒い魔力が一気に溢れ出した。
「お前に教えたいことは全部教えた。まだまだ未熟だが、ある程度は戦えるだろう。この後どうするかはお前次第だ。俺と母さんはお前達を見守っている。ユラによろしく伝えておいてくれ。」
ギルドアが話終わると同時に、シェンラーの意識は現実世界に戻った。
目を開けると、いつもの黒をベースとした魔法使いのローブではなく、白いローブを羽織ったティラがいた。
「あ!起きた!」
ティラは言った。すると奥の扉からフランが勢いよく飛び出してきた。
「本当だ!起きてる!」
フランの後ろからクラストも現れた。
「おはよう、シェンラー」
「おはよう、みんな。ごめん、今まで迷惑かけてて…。」
シェンラーは挨拶と同時に謝罪した。
「私たちはあんま気にしてないから大丈夫。それに、自分の魔力と戦ってたのは事実で、大変だったのはシェンラーの方じゃん。」
シェンラーの謝罪にティラが答えた。
「…ありがとう。」
ゆっくりとシェンラーは辺りを見渡した。協会の一室。椅子以外何もない部屋。ふと、シェンラーは思い出した。
「あれ?トロスは?」
「ああ、あいつなら…」
「痛い痛い!」
「我慢して!お兄ちゃん!」
ベットに横になる包帯ぐるぐる巻きのキューラと、それを僧侶の魔法で治しているトルアの姿があった。
「もっとそっとやってくれよ。…?」
半泣きのキューラは自分を見つめる「白き旅団」に気付き、何事もなかったかのように語りかけてきた。
「よお、起きたか、相棒。」
っと、白い歯を輝かせながら、めちゃめちゃカッコつけてシェンラーを見つめながら言った。
「元気そうで良かったよ。またくるね。」
シェンラーが協会にいる間に起きた出来事を知り、急いで駆けつけたが…想像以上に元気だったのでもう一人の方へ向かった。
「ちょっと待って置いていかないで…」
「ほら、今日中に終わらせたいんだから…続きやるよ!」
「ぎゃー…」
回復魔法は基本痛みを伴わない。が、今回はキューラの傷が想定よりも深く、痛みを伴う代わりに、回復量を増す盟約を結んでいる。
そこにはユラがいた。椅子に腰をかけ、バルトルの手を握り、目を覚ますことを祈っている。
「姉ちゃん…」
「シェンラー!?」
ユラはシェンラーに思いっきり抱きついた。
「良かった、目を覚ましてくれて…」
感動の兄弟の再会。しかし、シェンラーの顔色は少しずつ悪くなっていった。
「シェンラー…?」
「姉ちゃ…苦し…放…して…」
シェンラーの声を聞きやっと自分が力一杯シェンラーを抱きしめていたことに気づいた。
「あ、ごめん…」
「はぁ、はぁ、死ぬかと思った。」
「ごめんね、つい嬉しくなっちゃって…」
「姉ちゃんってこんな荒い性格だったっけ…」
「優しくお淑やかな性格ですけど?」
「そうだったねー。でも、良かった。姉ちゃんもトロスも、街のみんなも無事で。」
「ええ。あと師匠が目を覚ましてくれればいいんだけど…」
ユラの師匠ことバルトルは、想像よりもはるかに深い傷を負っていた。臓器も少しやられており、僧侶の回復魔法である程度は回復させたが、まだ、完治には至っていない。
【僧侶の魔法とは?】
回復魔法の一種で、民間の僧侶が使う魔法。最もメジャーな回復魔法であり、その能力は自然治癒力を極限まで高める、と言う単純なものである。そう、この魔法はあくまで自然治癒力を高めるものであり、自然治癒で治らないもの(※欠損した腕や臓器等…)はこの魔法では治らない。この魔法の1番の特徴は、人によって回復速度、回復量が変化することだ。年齢や性別によっても変化するが、一番大きな要因は闘気や魔力の総量だ。この世界は闘気:魔力の量=「強さ」である。対象の「強さ」が高ければ高いほど回復速度も回復量も飛躍的に上昇する。今回の場合は、ユラの闘気の総量が負傷者の中で一番高かったため誰よりも早く回復した。
「おめでとうございます」
首に銀色に輝くメダルを下げたユラは、部下から称賛の声をかけられた。
「ありがとう。でも、これは私だけの力じゃない。この【英雄の証】は私たちみんなに贈られたものだ。」
【英雄の証】
アルガ帝国で国のために戦い、国の英雄として国王から認められた者に贈られるもの。今回の一件で、バルトル、ユラ、トルアの三名に贈られた。
「小隊長、もう動いて大丈夫なんですか?傷が治ってからまだ2日しか経ってないですよね…消費した闘気も回復してないみたいですし…」
「大丈夫、闘気無しでもある程度戦えるから。」
「それなら良いんですが…」
「さてと、小隊のみんな!早速依頼が入っている。クヌラ洞窟に出たと言うゴブリンアーチャーの大群を一掃しに行くぞ。」
「「「「「了解!」」」」
「トルア兄ちゃんだ!」
「兄ちゃんが帰ってきた!」
孤児院の玄関の戸をを開けると、5人の子供達が勢いよく飛びついてきた。
「みんな、大丈夫だったか?どこか怪我してないか?」
「ううん、大丈夫!じいじが守ってくれた。」
すると、子供達の後ろから一人のご老体が姿を現した。
「ナトラさん、この子達を守ってくれてありがとうございます。」
【ナトラ】
孤児院によく寄付をしてくれている協会の僧侶。今回の一件で協会を使用していたため、孤児院の方に出向いていたようだ。
「わしゃ何もしとらんよ。こやつらがわしに着いてきただけじゃ。」
「それでも、ありがとうございます。」
子供達の中からミルが顔を出した。
「兄ちゃん、おかえり!」
「ただいま、ミル、ただいま、みんな。」
フランとティラは、シェンラーに「明日、10時にここに集まってくれ」とだけ言われた。その他の詳しい話は一切なく、たった一言伝えてシェンラーはさって行った。
「何か話があるのかな…」
「さぁね、でもまぁ、今後『白き旅団』をどうするかって話だと思うよ。」
「なるほどね…次の目的地はどこだろう。」
フランは次なる冒険に、期待を膨らませた。
次回【『白き旅団』、解散!】




