支配の魔法と救済の魔法
ユラとクイルが激戦を繰り広げ、支配の魔法を放とうとしていた時フラン達はー
「シェンラー大丈夫かな…」
フランはカレーを口一杯に頬張りながら言った。
「大丈夫だろ。シェンラーは強い。きっと、更に強くなって戻ってくるよ。」
フランの問いにクラストは答えた。
「そうよね。あ、そう言えば、ミルちゃんのさっきの悲鳴って何だったんだろ…」
「さぁ。またカレーをこぼしたとかじゃ無いか?」
「そうかもね。」
「…」
少しの無言が続いた。同じ《白き旅団》で旅をしているとは言え、フランは基本ティラと話しているため、クラストと二人きりで話すのは初めてで、フランは少し気まずく思っていた。
「…?」
フランはまだ子供。クラストというゴツい男性と二人。萎縮しないわけがない。しかし、察しの悪い男クラストはてっきりカレーが辛いのだと思い込み、フランに水を追加で渡した。
「何か、騒がしいな…。」
食堂のため賑やかなのはいつも通りなのだが、やたら外が騒がしい。気になりクラストとフランは外を覗いた。そこには慌てて逃げ出すアルガ帝国の住民達と、黒い機械の様な人形の何かと戦う黒ずくめの集団とユラの姿が見えた。
「何…あれ…」
「分からない。行ってみるか?」
「うん…」
フランはクラストの誘いを受け、ユラの見えた、前戦に向かおうとした。フランとクラストが食堂を抜けようとした時、後ろから呼び止められた。
「待って下さい、二人とも。」
声の主はトルアだった。
「ミルちゃんは大丈夫だった?」
「えぇ。それより、外のアレ見ました?」
「ああ。俺たちも加勢してくる。」
「!?危険です。ここは今戦っている人たちを信じた方が…」
「危険なのは承知の上だ。俺たちは冒険者だ。目の前に敵がいれば剣を抜き盾を構え杖を持つ。冒険者ってのはそんな奴らの集まりだからな。」
「では、同行してもよろしいですか?」
「!?それこそ危険すぎる。お前は冒険者じゃなく一般人なんだ。ここで待っていろ。」
「僕は僧侶の魔法を使えます。もし負傷している人がいれば治せるし、バフもかけれます。ちゃんと自分の身は自分で守れます。」
「わかった。フラン、トルア、行くぞ。」
「はい!」「おー!」
クラストが一歩踏み出し、ユラの元へ向かおうとした瞬間、再びミルの悲鳴が聞こえた。
「またか…」
「いや、今回はミルだけじゃ無いみたいだ。」
辺りの住民を見た。全員自分の首を自分の手で絞めていた。
「何してる!」
クラストは急いで近寄り、もがき苦しむ住民の一人の手を首から剥がそうとした。しかし…
「!?…強い。明らかにこの細い腕から出せる力じゃない…」
すると、後ろからトルアがクラストと住民の間に割り込んできた。
「これは…精神操作魔法…いや、支配の魔法か。」
「なぁトルア、どうにかできないのか!?」
「…【魔法妨害】」
トルアは魔法を放った。すると目の前の住民の体は光に包まれ、支配の魔法を打ち消した。
「はぁ、はぁ、はぁ、…」
目の前の人の支配の魔法は解かれた。しかし、あたりを見渡せば、あちこちに同じ支配の魔法を受けた人がいる。
「まさか!」
トルアは深く集中し、魔力の流れを見た。すると…
(アルガ帝国全体に魔法がかかっている。僕が支配の魔法を受けなかったのは多分半分僧侶だから。フランさんとクラストさんが魔法を受けなかったのはアルガ帝国民じゃなかったから…?だとすれば…)
「今、支配の魔法を受けているのはこの国の全アルガ帝国民…ってことか。」
「…どうにも出来ないのか?」
「無茶です。アルガ帝国がどれだけ広いと思ってるんですか。この街の人全員も助けられないかもしれません。」
トルアは【魔法妨害】をあちこちに振り撒きながら答えた。
(くっ…もうすぐで魔力が底をつく…全員は救えない…)
【魔法妨害】
相手の魔法を阻害し打ち消すことができる。が、消費魔力が多く、実戦では魔法には魔法をぶつけて打ち消すため、基本は使われない。
(くそ、救えるのは多分僕しか居ないのに…)
うめき声をあげる大量の住民を前に、トルアの魔力は底をついた。
「【魔法妨害】…」
魔法を唱えても、魔法が放たれることはない。涙を流し助けを求める人々を前に、トルアは呆然と立ち尽くした。
「ねぇ、他に支配の魔法を破る方法はないの?」
フランは聞いた。その問いに対し、トルアは暗い表情を浮かべ、はっきりと答えた。
「無い。僕の使った僧侶の魔法じゃ無いと、この魔法は外せない。でも、僕は魔力が底をついたし、他にこの魔法を使える人はいない…。もう、無理だ…」
トルアは一人、絶望に打ちのめされた。知らない赤の他人だ。自分のせいで死ぬわけでは無いし、自分に直接的な害があるわけでも無い。そう、見捨てればいいだけだ。自分はやれるだけのことをやった。そうトルアは自分に言い聞かせていた。すると…
「諦めないで!」
フランは力強く言い放った。
「まだ!生きてる!まだ!助けられないかもしれない!」
フランの瞳は目の前の絶望を目の当たりにしてもなお、希望に満ち溢れていた。
「私の魔力を貸してあげる。」
そう言うと、フランはトルアの背中に触れた。
「!?」
少し触れただけでわかった。フランの魔力が異常だと。
(フランさんって何者なんだ?…いや、今はそれよりも、)
フランの魔力がトルアに流れ込んだ。トルアは溢れんばかりの魔力供給に驚きながらも、自分がやれることを貫こうと、魔法を唱えた。
「【魔法妨害】!」
数分前
「あらら…秘技を使われてしまった様ね…。」
「その様でございます。」
カフェテリアの様な二階のベランダでコーヒーを飲む身なりの良い服を着た女性と、黒スーツの執事の様な男は、クイルによって発動された支配の魔法について語っていた。
「アルガ帝国ももう終わってしまうのね…コーヒーは美味しかったから、私のお気に入りだったのに…」
「また新しい場所を探しましょう。イルア皇国とかはいかがでしょうか。」
「嫌よ。あそこは魔女を見たら殺しに来るじゃない。」
「おや、そうでしたな。」
執事の男は哀れみの目で、逃げ惑う人々を二階から見下ろした。
「それにしても…膨大な魔力ですな…」
「えぇ。魔力量自体で言ったら魔王とも並ぶんじゃないかしら…。あの魔法、嫌いなのよね…。何か人の苦しみが直接伝わってきて、目の前で死なれるだけで心に深くのしかかる感じかさ。」
「わかります。ですが、ユハナ様の創作された魔法の中にこの魔法を無効化できる魔法がありませんでしたか?」
「あぁ、確かにあったわね…でも、あんな魔力消費の悪い魔法、使う人はいないでしょ。」
「いえ、意外といる様ですよ。」
執事は手でトルアの方を指した。
「あ、言い忘れてましたけど、あまり人間界へは干渉しないでくださいね…」
執事がユハナと呼ばれた身なりの良い女性に伝えようとした時には、ユハナは消えていた。
(キリがない…でも、確実に目の前の命は救えてる!)
少しづつ支配の魔法をかけられたもの達が意識を失い、倒れ始めた。
「くっ…【魔法妨害】」
倒れたものから優先に魔法を解いてはいるが、もう、いつ死んでもおかしくない。そんなタイムリミットが迫る中、突如トルアの脳内に声が響いた。
『哀れな人の子よ、何故貴様は目の前の命にこだわる?赤の他人であろう?』
タイムリミットが迫り、切羽詰まる中、トルアは答えた。
『…確かに赤の他人です。でも、目の前で失われかけている命を見捨てることはできない。全員は救えなくても、目の前の人は助けます!』
そう言い放ち、トルアは再度住民に向け魔法をかけた。
「【魔法妨害】」
『そうか。気に入った。貴様に全員を救う魔法を授けてやろう。』
「!?」
『その魔法は僧侶の魔法ではない。女神本人が使う、正真正銘の女神の魔法だ。正しく扱うように。』
そう言って頭に響いていた声は消え、脳内に魔法のイメージだけが残された。
(不思議な感覚だ。)
よく分からないが、時間がないため、トルアは流れに身を任せ魔法を放った。
「慈悲の女神の名の下に、全ての魔法を愛の元へ消し去ろう【愛の城壁】」
魔法が放たれた瞬間、辺りは眩い光に包まれた。その魔法は急速に拡大し続け、数秒としないうちに、アルガ帝国全土を包み込んだ。周りにいたフランやクラストも何が起きているのか分からず呆然としている。トルアによって放たれた魔法は、アルガ帝国民にかけられた支配の魔法を全て打ち消し、やがて、少しずつ光は弱まり、晴れ渡った晴天の空へ消えていった。
「ユハナ様、あれほど申したでしょう?人間界には干渉しすぎてはならない。さあ、城に戻りますよ。」
「待ってよカナラ!まだコーヒー飲み終わってない!」
「それを飲み終わったら帰りますからね。」
二人は明るく澄み切った晴天の空を見上げながら会話をしていた。
次回【対面するシェンラーと獣王ギラドア】




