魔法界の若き天才:クイル•ミッリューテ
常人は5歳ほどの年齢で魔法に目覚める。しかし、クイルは3歳の時に魔法に目覚め、幼い頃から魔法に没頭した。来る日も来る日も魔法を放ち続け、6歳にして無詠唱魔法を習得し、魔術学校で基礎を学び、10歳の年に他属性魔法の同時発動を可能にした。
『魔法とはイメージである。』魔法使いは皆そう言う。脳内でイメージできないものは魔法でも再現できない。
何故、クイルは天才と言われたのか。理由は単純だ。クイルは想像力が著しく高かった。簡単に例えると、まず燃える炎を想像を想像する。そして、炎のイメージを頭に残したまま同時に流れる水を想像する。この様な二つの異なるものを同時に想像できるだろうか。大抵の者はできない。一つのものを鮮明に想像しなければならない魔法に置いて、異なる二つのものを想像することは不可能に近い。しかし、クイルは10歳にして可能にしてしまった。他属性魔法の同時発動を可能にした途端、クイルは急成長を始めた。数多くの上位魔法を習得し、技を磨き続け、クイルの右に立つ者はいなくなった。
クイルが当時19歳の時のことだ。真白い雪原の中、現アルガ帝国王がクイルに面会に来た。内容は宮廷魔法使いにならないか。と言うものだった。当時のクイルは更なる高みを目指していた。そんなクイルからしてみれば、宮廷魔法使いという、魔法を研究し続けられる環境は、喉から手が出るほど欲しかった。クイルは宮廷魔法使いになり、現在に至るまで魔法を研究を続けている。
「attaquer」
ユラは深く踏み込み剣技を唱えた。
「神の加護を信ずる我に、光の導きがあらんことを【光輝貫撃】」
クイルは右手に持った杖で詠唱しながら魔法を作り、左手では魔法陣を通し無詠唱魔法を発動した。
(【氷槍】)
両者共に、自信の出せる最速の技を出した。しかし、結果は圧倒的だった。
(!?さっきまでより更に速く…)
ユラの方が速いことを悟ったクイルは急いで防御魔法に切り替えた。が、防ぎきれず、ユラの一振りを受けてしまった。
「ぐぁっ…」
「…【瞬間移動】!」
ユラと一定の距離を保ち、クイルは自信の腕を見た。そこにはあるはずの腕が無い。ユラの一振りで完全に切り落とされた。常人なら焦るところだが、クイルは息を整え、詠唱を始めた。
「神に祈りを捧げる我に、大いなる女神の祝福があらんことを【回復】」
すると、切り落とされたクイルの腕は再生した。
(あと…5回)
「accelerer 」
ユラは勝負を決めようと、更に攻撃速度を上げた。しかし、クイルは範囲攻撃を連続展開し、ユラの接近を許さない。
(もっと…もっと力がいる…)
ユラの想いに応える様に、ユラの闘気は練度が高まっていく。
「attaquer」
パリンッパリンッと防御魔法の割れる音が聞こえる。少しずつユラは押し返していた。辺り一面がクイルの魔法で埋め尽くされた空間の中で。
(あと3回。)
「attaquer」
ユラはただクイル目掛けて攻撃を続けた。守りに特化した戦い方を続けるクイルに違和感を覚えながらもユラは気にせず追撃を続けた。
「accelerer 」
ユラの一撃が遂に防御魔法の合間を縫いクイルに届いた。しかし、クイルが寸前で避けたことでかすり傷で終わってしまった。
「あと、1回だな。」
「…」
「さあ、どうする?あと一撃で俺を倒せるか?こいよ、最後の一撃。防ぎ切ってやるよ。」
「ここで決める。」
クイルは全面に多重魔法障壁を展開し、更に自身に保護魔法をかけた。どんな剣技が放たれようと完全に防ぐ体制は整っていた。しかし、ユラは剣を抜かず詠唱した。
「tuer」
今までの剣技と違い、剣を用いらない剣技。自身の闘気を全て使い切ることを対価に放つことの出来る大技。受けたのもは確実に死ぬと言うチート性能をしている。
「ぐはっ…」
クイルは吐血した。目に見えぬ攻撃を喰らい、何をされたのか分からぬまま、クイルの心臓は少しずつ機能を弱めていく。
(何だ?何をされた…?)
クイルは何も分からない中、直感だけでこれから自分は死ぬのだと悟った。
「チート能力め…」
「まさか、ここまで追い込まれるとは思わなかったよ…」
ユラは闘気を使い切り、その場に膝を付いた。剣を立てて無理矢理状態を起こし、飛びかけの意識の中、クイルの最後を見届けようとした。
「初代王アルガ帝国王の名の下に、我、19代目宮廷魔法使いクイル。秘技の使用をここに可とする。」
(…魔法詠唱!?)
ユラは起き上がろうとした。しかし、体はもう限界を超えており、【超越者】の能力も消え、髪は元のピンクへと変化した。
(何で…?剣技は確かに決まったはず。もう心臓は止まっているはずなのに…)
「アルガ帝国に生けるすべての生物を我の配下とす。」
(…あれは…魔法陣?)
クイルの周りに黒い魔力が旋回を始めた。先ほどバルトルが破壊した、クイルが集めたシェンラーの魔力だ。クイルはユラと戦いながら、飛散したシェンラーの魔力をもう一度集め直していた。すると、クイルは自身の目の前に一枚の紙切れを出した。バルトルが守っていた、支配の魔法陣だ。クイルは自身の魔力と、旋回するシェンラーの魔力を魔法陣に込め始めた。
「我、配下に命ずる。己の手で、己を絶て。さすれば道は開ける。初代アルガ帝国王の意志のままに【絶対服従ー強制自殺】」
辺り一面がクイルの魔力で一瞬のみ埋め尽くされた。その瞬間、アルガ帝国民全員の腹部にある魔法陣が発動した。この時になってようやくわかった。何故クイルが死ななかったのか。ユラが攻撃を放つ直前に、絶命を条件に盟約を結び、魔法詠唱をする時間を作った。つまり、魔法詠唱を終えたクイルの体はまもなく崩壊する。
「クイル…何をした!」
「この魔法は俺が死ねば発動する。俺はもう時期死ぬ。」
クイルは先程までとは打って変わって、悲しげな表情を浮かべた。
「あいつの制服姿…見てやりたかったな…。」
「?」
そう言い残し、クイルの体は塵となり、風に吹かれ消えていった。
(あいつ?誰のことだ…?)
クイルが完全に息絶えた瞬間、腹部の魔法陣が激しく光出した。
「何!?」
次の瞬間、
「グッ…」
ユラは自らの手で首を絞め始めた。
(息が…)
周りにいた者も同様に、自身の手で自身の首を絞め始める。手が言うことを聞かない。完全に操られている。だんだんと首を絞める強さは強くなっていく。息が苦しくなり、意識が遠のき始めた。
(これが、クイルの最後の攻撃…アルガ帝国民全員の命を奪い取る気だ…)
ユラは考えた。しかし、酸欠で回らない脳をどれだけ使っても考えはまとまるはずもなく、やがて考えることを放棄した。目からは涙がこぼれ落ち、最後の瞬間を迎えようとした。その時、辺りは眩い光に包まれた。
(何!?)
「ぐぁっ、はぁ、はぁ、はぁ…」
意識が飛ぶ直前、支配の魔法は眩い光に包まれ、消失した。
「息が…手も動く。一体、誰が…」
次回【支配の魔法と救済の魔法】




