白銀の怪物
バタン
守護者の装甲が剥がれ落ちた。
(何だ?第二形態…か?)
ユラが守護者の変化した姿に戸惑っている隙に、ユラは守護者に一撃を叩き込まれた。
「はやっ…」
気付けば協会の壁に打ち付けられていた。
(何が、起きた?は、早すぎて見えなかった…)
ユラの視界はグルグルと回っていた。
(視界がハッキリしない…手足が痙攣してる…立てない!)
ユラは落ちた剣を拾おうとした。しかし、手に力が入らない。目の前にはもう守護者が迫ってきている。
(あぁ、ダメだ。もう動けない…)
ユラは辺りを見た。歪んだ視界でもハッキリとわかる。自分を助けてくれるものなど誰もいないと。でも、ユラはほぼ0に等しい希望に追い縋った。
「誰か…助けて…」
しかし、誰も助けには来ない。少しずつ遠のいていく意識の中、ユラは走馬灯を見た。
「あら、起こしちゃった?」
目を開けた先には、優しく微笑むママの顔があった。私はママの膝を枕にして寝ていた。
「…ん、ママ?」
まだ寝ぼけてる…あれ?これって、走馬灯…?
(!)
「あ、動いた!」
私は大きく起き上がった。いま、感じた。ママのお腹の中に…
「あらあら、元気ね。」
ママはお腹に手を当てながら言った。
(ママ…?)
…声が届かない。じゃあ、ここは私の記憶の中?
「動いた!動いた!」
私が何度もジャンプしながら言う。そうか、シェンラーだ。まだシェンラーがママのお腹の中にいる時の記憶。この時はシェンラーが動くたびに大はしゃぎしてたっけ。
「私、もうすぐお姉ちゃん?」
「うん、そうだよ。弟を守ってあげないとね。」
「うん!」
お姉ちゃんになるって言って、やたら家事を手伝う様になったっけ…懐かしいな… あ、あれ…目元が、熱く…
(ママ…また、会いたい…)
!?、私、何言って…もう、会えるわけないのに。今、何を言っても届くはずないのに。言わずにはいられなかった。
「おいでユラ。」
「なあに?ママ。」
「パパのお話、してあげようか。」
(!?)
「え!いいの!?やったー!」
私はママが腰をかけているソファーに向けて走り出し、勢いよくママの隣に座った。
(パパの話…?)
全く知らない。ママが内緒にしてきたパパの話…。
「パパはね、すっごく強かったんだ。不器用だけど優しくて、私を一番に思ってくれる。そんな人だった。」
「え!パパって強かったの!?正義のヒーロー!?」
「うーん、ちょっと違うかな。」
「パパの話もっと聞きたい!」
「じゃあ、ママが魔王城にお呼ばれした時の話をしようかな。」
「魔王城?」
「とっても大きな魔王様のお城。まだユラが生まれてからしばらくして、ママとパパは2人で魔王様に会いに行ったんだ。ユラが生まれたことを報告にね。」
※魔王城に連れて行くのは流石に危険すぎるため、ユラは子供の数日間の預かりをしている協会に預けています。
「魔王様って、悪い人じゃ無いの?」
「とっても優しかったよ。ちょっと普通の人とは見た目は違うけど、パパの次くらいに優しい心を持ってた。」
「魔王様って優しいんだ!」
「まぁ、全部の魔王様が優しいかは分からないけどね。」
「続き続き!」
「はいはい。それで、ママとパパは魔王様と会って、少しお話ししたの。日も暮れ始めて、ママ達は帰ろうとした。その時…
「魔王様!」
魔王の元に、一人の青年が駆け寄った。角が生えている。口元にも牙があるため、おそらく《鬼人》に類する魔族だろう。
「どうした」
走って来たのだろう、《鬼人》は荒ぶる息を鎮めながら報告した。
「魔王城に侵入者です!数は六、おそらく勇者ゴーリャとその仲間達だと思われます。」
魔王は一瞬驚いた様な顔をしたが、すぐに冷静になり、獣王ギラドアに告げた。
「ギラドア、お前は彼女を連れて裏門から出ろ。勇者は俺たちで対処する。」
「いえ、7大魔王軍の一人として、俺も戦います!」
ギラドアから送られる熱い視線。魔物が世界のほぼ全てを支配していた【魔物大戦】の時代に嫌というほど見せつけられた死すら恐れない、まさに戦争狂の目。魔王は小さくため息をつきながらギラドアに言い掛けた。
「もう終わったんだ。魔物先制の時代は。お前はもう俺以外に守るものがあるはずだ。」
そう言われて、ギラドアは言葉の意図を理解し、隣を見た。そこにいるのは最愛の妻。
「…わかりました。また、世間話しに来ますから、死なないでくださいよ。」
「ふっ、俺を誰だと思ってる。魔王だぞ。」
ギラドアと魔王はお互いに無愛想な笑みを浮かべ、それぞれ別方向へ一歩踏み出した。
「ニテ、行こう。」
※ニテ=シェンラー、ユラの母。
ギラドアは手を差し出した。その手をニテはとる。魔王と別れて約5,6分は経っただろうか。ニテとギラドアは魔王城探索を続けていた勇者ゴーリャの対峙した。
「…!ゴーリャ、魔物がいる。どうする?かなり強そうだけど…」
「どうした、サルテン、お前らしく無いな、見つけた魔物は殺す。それだけだろ。」
「ふ、そうだったな。」
「待ってゴーリャ。隣にいる女性って…人間じゃ無い?」
「!?言われてみれば…」
一方ギラドア達は…
「…ゆ、勇者、何で…」
「ニテ、奴らが油断している今のうちに全力で逃げろ。魔王城にいる人間。確実に殺される。」
「待って!それじゃあなたは?」
「争ってみるさ。最後は魔物らしくね。」
「…」
ニテは悟った。勇者と対面した魔物の末路。それは一つしかない。ニテは涙を堪え満点の笑みで言った。
「あなた…愛してる。」
「ふっ、ニテ、俺も愛してる。」
ニテは伝え終わると、勇者ゴーリャと反対方向に駆け出した。
「さてと、最後のひと暴れしてやるか。」
数分で決着はついた。魔を祓い魔を切る光の剣《勇者の剣》。ギラドアの攻撃全てが吸収され、無効化される。数分勇者を足止めしただけでも相当な成果だろう。そう自分に言い聞かした。ギラドアは疲労と損傷で動かなくなり、その場に倒れ込んだ。俺は十分やった。そう言い聞かせることしか出来無かった。
「獣王って聞いてたからどんなのかと警戒してたけど…まさか一撃も僕らに攻撃が通らないとはね。」
ゴーリャは倒れ込んだギラドアにしゃがみ込んで言い放った。
「…」
魔力もそこをつき、残っているのはわずかな闘気だけ。ギラドアが意識を手放そうとしたその時、
「ゴーリャ、こいつどうする?」
サルテンと呼ばれた男が、ニテを首を掴み、連れ戻して来ていた。
「.ニテ…なん、で…」
「ごめんなさいあなた…。」
ゴーリャは少し考えた後言った。
「どうせ反人類だし、殺しても問題ないでしょ。」
ゴーリャは勇者の剣をニテに向ける。その瞬間、ギラドアの闘気が跳ね上がった。まるで陸地に打ち上げられた魚が水を得たかの様に。
「ニテを、放せ!」
「へぇー、まだ動けたんだ。」
ゴーリャは振り返り、勇者の剣で確実に仕留め様と、剣を振り下ろした。しかし、ギラドアはゴーリャの剣を素手で受け止めた。
「な…」
ギラドアの闘気が増加していく。この時ゴーリャは初めて焦りの表情を見せた。ギラドアが再び立ち上がると同時に、ニテは勇者達に気絶させられた。
「その後パパはどうなったの?」
「パパはね、遠くにいっちゃったんだ。もう家には帰って来れないんだ…。これがパパだよ。」
ママが一枚の写真を取り出した。そこには明らかに人類ではない…魔族がいた。
「これがパパ?カッコいいね!」
「でしょ。とっても優しい心を持った人間なんだ。」
(パパは多分ママが傷付けられるのを見て、何かが起きて覚醒したんだと思う…。一つわかってるのは魔力がカラカラだってことか。魔力が無いってことは、闘気だけで戦うことが鍵?いや、不可能だ。物理攻撃だけなんて、すぐに限界が来るはず…いや、そうか、そういうことか。全部わかったよ。ママ。)
私が色々考えていると、ママが語りかけてきた。
「この記憶は今からユラの記憶の奥底に閉じ込める。ユラ、あなたがこの記憶を見てる時は多分あなたがどうしようもなく追い詰められた時だと思う。でもね、大丈夫!パパの子供なんだから、どんな時でも乗り越えられる。」
(ママ!)
ユラが寝てしまって、目を開けられない、もう一度微笑むママの顔が見たかったけれど、贅沢は言ってられない。
「ありがとう、ママ…」
(!?今、声が出て…)
少しずつ意識が遠のいていく。
(ママ!ママ!)
もう何度読んでも答えてくれない…
「あら、寝言かしら…」
(…じゃあね、ママ。ありがとう、ママ。)
目が覚めると、ユラの体は少し活力を取り戻していた。手足の痙攣もなくなり、視界もさっきよりはハッキリしている。守護者は目を覚ましたユラに容赦なく攻撃を仕掛けた。守護者から繰り出される一撃。装甲が剥がれ落ちたことにより更に速度が増した守護者の一撃は空を割いた。
「思いを剣に乗せる…守りたい物をイメージしろ。」
そう言ってユラは剣に魔力を込め始めた。魔力切れを恐れず、全ての魔力を注ぎ込んだ。魔力を注ぎ終わると、明らかに今までとは違う感覚が体上に走った。
「魔力を使い切ったのに、魔力切れにならない…いや、むしろ力が湧いてくる。」
不思議な現象に戸惑うユラの元に、守護者は一瞬で距離を詰め、拳を振り上げた。右側から音とほぼ同じ早さで迫ってきた守護者を、ユラは剣を振り上げ、跡形もなく粉砕させた。
「ママ、パパ、見ててね。みんな、私が守ってみせるから。」
ユラが剣を振り下ろした。すると、ユラの髪は白銀へと染まり、体からは洗練された闘気が流れ出した。
※一部変更しました。
次回「白銀の怪物」




