守護者(ニ)
召喚された三体の守護者の対応に追われる中、一人守護者を放置しクイルの元へ向かったバルトルは、今、クイルと再度対峙した。
「任せて大丈夫なのか?分かってるんだろ?ユラじや守護者に勝てないって。」
クイルはバルトルが近づいて来たことに気付き、自身の魔力をスキルで高めながら、問いかけて来た。
「愚問だな。俺は負ける戦いは挑ませない。たとえ厳しい相手だろうと、ユラは勝つよ。」
「すごい自信だな。少なくとも俺にはだいぶ押されている様に見えるがな。」
「ふっ、まぁ、見とけ。ユラはここにいる誰よりも強い。」
「楽しみにしておくよ。じゃあ、話も済んだことだし、俺たちも始めるか。」
そう言い終わるとクイルは剣を抜いた。
「ああ。」
クイルの言葉に応答する様に、バルトルも剣を抜いた。
「土楽《雷》!」
あたり一面に激しい衝突音が聞こえた。守護者に叩き込まれたユラの一撃。しかし、いまだに装甲を破ることは出来ない。
「なぁ、ユラ。装甲のない場所を正確に切り落とせるか?」
キューラは問いかけた。
「装甲のない場所?」
「ああ。守護者は攻撃する瞬間、肩辺りの装甲が折り込まれて、一時的に装甲がない状態になる。そこに切り込めないか?」
「多分、いける。守護者が攻撃する瞬間に背後を取れたらだけど…。」
「背後を取れれば良いのか?」
「うん。装甲がなければ私の攻撃は入ると思う。」
「よし、俺が守護者が攻撃する瞬間にユラを背後に送る。一発で成功させてくれ。」
「送る…?まさか、守護者の攻撃を肩代わりするつもりじゃ…」
「大丈夫。一発で死ぬほど脆くはないから。」
「…その言葉、信じるよ。」
ユラが受けた守護者の一撃。ユラは生まれた時から常人とはかけ離れた丈夫さをしているため、かろうじて致命傷にならなかった。しかし、農民や防御力の低いアサシンなどがその攻撃を喰らえば、致命傷、最悪は死に至るだろう。
「ユラは攻撃を続けてくれ。俺が守護者の攻撃の時に合わせる。」
「了解」
ユラは再度剣を強く握りしめ、守護者に駆け出した。
「炎竜《雷》」
「水月《雷》」
剣技を繰り返し叩き込むユラ。連続の攻撃に全くダメージの入らない守護者の装甲。一進一退の攻防が続く中、その時は訪れた。守護者が右腕を振り上げた。キューラの言った通り、肩辺りの装甲が外れている。守護者の攻撃モーションを合図にキューラは守護者の背後に回り込んだ。
「《混》!」
【フロルゴ団創設の剣技:混•壊•反】
フロルゴ団が騎士団と渡り合うために作り出された三つの剣技。
【混】
手印を結ぶことで発動できる、自身と仲間の位置の入れ替えが可能。発動範囲は視界に映る範囲。
【壊】
手のひらで触れることであらゆる物を破壊できる。ただし、触った場所のみを破壊し、その破壊が広がることはない。回復魔法や、長い時間をかければ自然回復でも治る人は治る。
【反】
一定量の受けたダメージを反射させることができる。
剣技を唱えた瞬間、ユラとキューラの位置が入れ替わった。守護者は振り出した腕をキューラに打ち込んだ。それと同時にユラの一撃もまた守護者の腕を切り裂いた。
「切ったよ!キューラ!」
しかし、キューラからの返答がなかった。
「キューラ…?」
守護者から一旦距離を置き、キューラを探した。すると、血を吐き民家の壁に埋もれているキューラの姿が見えた。
「キューラ!」
ユラは急いで駆け寄った。
(息はある。脈もしっかりある…。大丈夫。生きてる。)
「ぐはっ、」
すると、キューラはかろうじて意識を取り戻した。
「《反》である程度は防げると思ってたんだけど…あまり防ぎきれなかったな…」
「動くな。片腕は切り落とした。すぐに倒して戻ってくる。もう少し耐えて。」
「まて、ユラ…。」
「?どうした、」
「これを…受け取ってくれ。」
すると、キューラは腰に携えていた剣を取り出した。
「この剣に今の俺のできる全てを乗せた。俺の闘気も魔力も、全てこの中に入ってる。俺のところには戻らなくて良い。バルトルのところに行ってやれ。一人じゃ厳しいだろうから。」
そう言ってキューラは目を閉じた。
(気を失ってる…。)
キューラから受け取った剣を見た。ざっと見ただけで、炎、氷、雷、風、土、音、闇などの属性が付与されていたり、剣から闘気が体へ流れ込んで来ている。他にも多種多様なエンチェットが施されている様だ。
「ありがとう、キューラ。」
ユラはそっとキューラを壁に寄り掛からせる様に寝かせ、守護者の前へ戻った。
「へぇ、すごいね。あの守護者の装甲を破るか…」
クイルは、バルトルの攻撃を防御魔法で防ぎながら言った。
「戦闘中によそ見とは、随分と余裕だな。」
「いや、案外余裕じゃないよ。正直、ユラがここに加勢に来たら俺に勝ち目はないよ。」
「俺一人ならどうにかなると?」
「ああ。お前一人なら勝てる。」
「舐められたものだな。ここからは本気で行く。」
バルトルは力強く地面を踏み込み、攻撃速度を上昇させた。
「おっと、戦いを再開する前にやっておかないとな。」
「?」
クイルは守護者のいる方向に手のひらを向けて、小さく呪文を唱えた。
「《解除》」
すると、守護者たちの装甲が剥がれ落ち、中から新たに薄く、今までより更に頑丈な漆黒の装甲が現れた。
「何をした?」
「支配権を放棄した。俺が支配権を放棄したことでストッパーが外れて、俺が支配できなくなった代わりに視界に入った者全てを破壊する最強の兵器と化した。」
「…更に強くなったのか?」
「装甲はより硬く、攻撃力、スピード共に上がってるからな…結論から言えば強くなったな。行ってやらなくても良いのか?流石にあの守護者三体はあいつらだけじゃ厳しいぞ。」
「大丈夫だ。ユラなら乗り越えられる壁だ。」
「まぁ、俺にはどうでも良いことだし、続きを始めるか。」
カン、カンとクイルの防御魔法とバルトルの剣の衝突音が響き渡る。バルトルが速度を上げればクイルは更に早くなり、二人の攻防は加速し続けていた。
「炎竜《乱》」
「!?」
バルトルから放たれた剣技をクイルは今まで通り防ごうとした。しかし、今、バルトルの放った【炎竜】は防御魔法の間を蛇の様に蛇行しながら斬り込んできた。
「チッ、流石に避けるか。」
「今のは危なかった。新技だな?」
「お前が何か企んでるのはわかってたんだ。新技の一つや二つ隠し持ってるに決まってるだろ?」
「水月」
「電円」
バルトルは一方的に剣技を浴びせ続け、押しているかのように思われた次の瞬間、防御魔法の隙間からクイルの手がバルトルに触れた。
「《壊》!」
クイルが触れたバルトルの腹部が、腐敗したかの様なボロボロな筋肉へと変化した。幸いにも右側を少し触られただけだが、しっかりと触られた部分は細胞が破壊されていた。
「それは…フロルゴ団の…」
「ああ。捕まえたフロルゴ団の役から聞いた。意外と使えるな。」
「くっ…」
「動かない方がいい。臓器までやられるぞ。」
「こっちはもう死ぬ覚悟はできてる。引くわけないだろ!」
バルトルは剣を地面に突き立て、何とか立ち上がった。
「そうかよ。なら死んどけ。」
バルトルの頭上に無数の氷の槍が生成された。槍はバルトル目掛けて勢いよく放たれた。しかし、氷の槍がバルトルに届く前に、バルトルの姿が消えた。
「消えた…?」
一瞬、クイルはバルトルを見失った。その隙にバルトルは空高くに作られた高魔力反応のある何かを破壊しに向かった。
「そこか!」
クイルは空を見上げ、バルトルを見つけた。
「闘ってる間、ずっと疑問に思ってたんだ。何故、今日なのか。何故、この場所なのか。これを見て分かったよ。」
「やめろ、触れるな。」
「コレって、協会から漏れ出したシェンラーの魔力だろ?お前、シェンラーの魔力を吸収するつもりだったな?」
「やめろ、それ以上近付くな!」
「お前の焦る顔初めて見たよ!ついでに、絶望した顔も見せてくれよ!」
バルトルは空に浮かぶ何かに剣を突き立てた。
「やめろ!」
鬼の形相でクイルはバルトル目掛けて突進した。
「《深玉寒冷槍》!」
無数に放たれた氷の槍が、バルトルの体に何本か突き刺さった。
「ぐぅっ!」
(急所は避けたが、次は避けられない…)
「『神の加護を信ずる我に光の導きがあらんことを…』 死ね、バルトル。《光輝貫撃》」
念唱により魔法の威力を底上げした攻撃。【光輝貫撃】と言う魔法は元々攻撃力は高く、今のバルトルが受ければ間違いなく即死。避ける気力も残っていないバルトルは死を覚悟した。しかし、
「クイル、俺の、俺たちの、勝ちだ。」
バルトルは勝利を確信した。
「?」
辺り一面が激しい光に覆われた。光が弱まり、目を開くと、そこにバルトルの姿は無かった。
「お前…ユラ…なのか…?」
クイルは問いた。クイルの目の前には深夜の月の如く、白銀に輝く長髪のユラがいた。
この回を書いている途中にルビみたいに文字の上に点が打てることを知って、めっちゃ使いたくなって使いました。
次回「白銀の怪物」




