作戦決行(前編)
キューラは夜中に目を覚ました。
「どうした?キューラ。」
上体を起こしたキューラに気付いたのは、ルークだった。
「…何か、嫌な予感がする。」
ルークの家にキューラが居候を始めてから3日が経った。ルークのパン屋で働き、夜は疲れて朝まで熟睡する。大変だが充実した生活を過ごしていた。そう、今まで睡眠中に目を覚ますことなど一回もなかった。その嫌な予感の正体は部屋の明かりをつけた時にわかった。
「ユラが、居ない!?」
キューラは思っていた。いつかこの家を飛び出し、一人で家族を助けに行こうとする日が来るのではないかと。
(まだ近くにいるはず…!)
「《追跡》」
【追跡】
相手を追いかける時によく使われるスキル。効果は、追いかけたい相手の足跡を見つけることで、続く足跡を目で捉えやすくなると言うものだ。使う機会が少ないが、場合によってはとても役に立つ。
「まて!キューラ!」
キューラはルークの静止を振り切り、スキルを使いユラを追いかけた。
「総員、かまえろ。」
バルトルの合図とともに15人の兵士が剣を抜いた。
「俺が先に突入する。総員、俺に続け!」
バルトルは勢いよくフロルゴ団の立てこもった建物に突入した。
「…何だ…これ…。」
建物の中を見たバルトルは言葉を失った。
「総員、人質を保護せよ。」
「「「了解。」」」
建物の中には、気絶させられたフロルゴ団と思われる者と、手足を縛られたままの人質がいた。
(これは…一体何が起こった?)
バルトルに考える暇を与えることなく事態は進んだ。
ドンッ!
激しい爆発音のような音が聞こえた。音は目の前にある地下への入り口から聞こえた。バルトルは四人の部下を引き連れ、地下へ入って行こうとした。が、一人の少女に止められた。
(…ピンク色の髪…見たことないな、フロルゴ団ではない。人質か?)
「そこをどいてくれないか?俺たちはその先に行かないといけないんだ。」
なるべく少女を威圧しないようにバルトルは優しく言ったが、少女は抵抗した。
「ダメ!」
《数分前》
「それ以上近づくな!人質がどうなってもいいのか!」
目の前に現れた圧倒的威圧感を放つ男と対面し、フロルゴ団の団員たちは、人質を盾に脅しをかけることが精一杯だった。
「見張はどうした?5人はいたはずだ。」
フロルゴ団の団員の問いかけに男は答えた。
「ああ、確かにいたな。まぁ、あの程度の実力じゃ俺も足止めもできないがな。」
「殺したのか?」
「さぁな。あとで合わせてやるよ。」
室内には四人の団員がいた。どうやらマルシはここにはいないようだが、この場にいるフロルゴ団はこれで全員だろう。
「ここにいる奴らは…一応気絶させとくか。」
男は剣を抜き、団員たちを見つめた。
「パルラードさん、外で気絶させているフロルゴ団を中に移動させておいてください。もうそろそろやってくる騎士団が後処理をしてくれると思うので。」
「それにしても、強くなったな、マカン。」
「いや、スキルの使用に慣れてきただけですよ。」
「…俺も行こうか?居ないよりはマシだと思うが…。」
「いえ、これはウーラン村の村長として、俺がやらないといけないことなので。」
地下へ続く梯子を掴みながらマカンは言った。
「じゃあ、行ってきます。」
「…。」
マカンは手足を拘束され、口を塞がれている人質たちと目が合った。が、一言だけ告げてマカンは地下へ降りて行った。
「安心しろ。多分騎士団の奴らが助けてくれる。」
一部始終を物陰から二人の子供がのぞいていた。
「家族はいた?」
「ううん。いなかった。二人とも大丈夫かな?」
「…大丈夫。お父さんがいるから!」
「…私も行く。」
物陰から飛び出し、ユラも梯子を掴もうとした。
「じゃあ、いざという時逃げれる僕が行く!」
「…」
「ユラは誰か来ないか見張ってて。」
「わかった…。」
「《霊闇撃》」
キューラはマカンの後を追い、地下へ入った。
「ふぅ。これで全員かな…」
「!!」
外に倒れているフロルゴ団を全員運び終えたパルラードは人質を助けるかどうか迷っている隙に、騎士団が近付いていることに気付き、パルラードはその場を離れた。そして、現在に至る。
「この子を連れて行ってくれ。」
バルトルはユラを連れて行くように部下に命じた。
「分かりました。ほら、行くよ。」
部下が手を差し伸べたが、全く動こうとしない。
「仕方ない。力尽くで連れて行け。」
部下の一人がユラの手を掴み、無理やり連れて行こうとした。次の瞬間、部下が勢いよくユラに突き飛ばされ、壁で頭を強打し、意識を失った。
「…?」
少女の体系から放たれたあり得ない力に、皆が硬直している中、ユラはフロルゴ団の持っていた剣を奪い、そのまま切りかかった。一人の兵士が剣で受けたが、剣の強度が足りず、二つに折れ、ユラの攻撃は兵士の鎧に直撃した。
(何だ?あの少女…。見た目は変わった点は見当たらない。なら考えられるのは…)
バルトルは目を凝らし、ユラの闘気を見た。
「やっぱりな。」
ユラの常人離れした闘気がバルトルの目に映った。
(この闘気の感じは、人間じゃないな。別種族の闘気が混じっている。)
「まぁいい。こいつは連れて行く。」
バルトルはユラに向けて魔法を放った。
「『停止』」
魔法をかけられた途端、ユラは指ひとつ動かせなくなった。その隙に兵士たちはユラに麻酔を投与し、ユラの意識は途絶えた。
【闘気と魔力】
人は生まれた時から一定量の闘気と魔力を持っている。剣士の才があれば闘気を、魔法使いの才があれば魔力を多く持って生まれる。魔力または闘気の片方のみを持って生まれるものはいないが、盟約や魔法によって片方に集中させることはできる。
【魔力】
魔力は魔法を使うためのエネルギーのようなもの。魔力が尽きれば魔法は使えなくなり、一定時間したら魔力は回復する。
【闘気】
闘気は魔力と同じく、剣技やスキルを使うために必要なもの。ただ、闘気は魔力とは違い、多ければ多いいほど、筋力や動体視力、体幹など、様々なものが常に強化される。
※闘気も底を尽きることはある。
【スキル】
人は生まれた時、二つのスキルを得る。一つは《集中》、もう一つは《固有スキル》だ。
【集中】
全ての人が会得するスキル。このスキルは、ただ一つの物事に集中することしかできないが、鍛錬を重ねることで、《追跡》などのスキルに派生することができる。
【固有スキル】
《霊闇撃》や《反撃》、《舞剣》などのそれぞれの個性を最大限に引き出すことのできるスキル。人によって異なり、稀に二つ持って生まれるものもいる。
次回「作戦決行(後編)」




