決戦開始と宣戦布告を告げる鐘の旅(後篇)
隠れ里の土地勘がない瑛斗だが、然らばエトムント邸へ向かう目的地は決まった。初めての前衛を挑むライカとカルラが、隠れ里の緑豊かな散策路を突き進む。
人狼娘たちがウォーハンマーを振り回せば、スケルトンどもを蹴散らして、雄叫びを上げる――
「ほわぁーっ! ほわわーっ!」
「ちょわっ! ちょわわーっ!」
――はずだが、まだ若さゆえあどけなさが残るため、このような口調になってしまう。しかし愛らしさで微笑ませでくれる彼女たち。天真爛漫ほんわか癒し系として申し分なし。
「え、この娘たち、めっちゃ可愛い……」
「でも戦闘中にわき見しては、絶対にダメだから」
「ごめんなさい」
迂闊に呟いた可愛い物好きなソフィアが、瑛斗に叱られるとは如何なものか。瑛斗とドラッセルが人狼娘たちをフォローしつつ、周辺の警戒を怠らずに歩を進める。
暫く進むと道の先が開いたところで、ライカとカルラが足を止めると、元気のいい声が響き渡った。
「ここがお爺様の館の前なのですーっ」
「そこからもっと奥まったところが、中央広場ね!」
ライカとカルラの情報によると、エトムント邸である洋館の奥にある里の中央広場は、周辺に潤いのある森の憩いの広場として開かれており、みなが親しまれているという。
「妙だな……ここ周辺じゃ、アンデットが見当たらないようだが」
「エート、ここのひともいない」
赤い瞳を細めたレイシャが何かを感じ取ったようで、瑛斗の耳元で囁く。
確かにそうだ。夕暮れ迫る静寂漂う隠れ里は、人っ子一人いないかように、ひっそりと影を潜めているように見受けられた。あくまでも瑛斗の見解であり直観でもあるが、もしかしたら各人それぞれが予想を見越しての役割分担でもあるのかも知れない。
「……! 来たぞ!!」
周辺の局面をつぶさに窺った瑛斗の大声に、反応したドラッセルとソフィアが叫ぶ。
「なっ、なんだこれは?! こんな奴ら、見たことがないぞ!?」
「右からは、オーク型! 左からは……オーガ型じゃないの、これ?!」
崖の下から這い上がったは、継ぎ接ぎの躰であるフレッシュゴーレムの群れである。
フレッシュゴーレムとは、総称ではアンデットの類とも言えるが、暗黒魔法などで用いられる、人間や動物の死肉を繋ぎ合わせて作られたゴーレムの一種である。
中には、黒い外套に目深いフードを被った死霊術師らしき何者かの幾人が姿を現した。恐らくアンデットの使役者であろう死霊術師と思しき敵部隊は、陽動作戦に失敗して業を煮やしたか。いざ陥落せんと里の襲来を仕掛けたのだろう。
「オーガって……あの、オーガか?!」
オーガとは、巨人族の一種とも言われるほどの巨体を持ち、体色は赤褐色、口の犬歯の位置には鋭い牙が生えており、人をも噛み砕くほどに喰らう怪物である。凶暴且つ獰猛な性格である彼らは、非常に貪欲な肉食性であり、人肉をも好むという。よって人々の間では『食人鬼』とも呼ばれており、目前で現れれば誰しもが恐れおののくとされる。
「ど、どうしよう……図書館で図鑑なら見たことはあるけれど……」
「しかもオーガ型のフレッシュゴーレムだと?! コイツらとどう戦えばいいんだ!?」
オーガとの実践経験がない若輩の騎士たちは、さらにオーガ型のフレッシュゴーレムと他に類を見ない怪物の群れとの激闘なれば、如何に若手騎士としても動揺は隠せない。
だがいつもは地味な瑛斗だったが、こういう時に限って豪胆ぶりで異彩を放つ。
「みんな怯むな! 館の門前こそ防御の要だ!」
胸を張って堂々たる態度を示した瑛斗が、全員を喝破して奮い立たせた。
その檄に義侠心が疼いたドラッセルが、臆してはならんと幅広剣を掲げて追随する。
「おおっ! その通りだぜ、エイト! コイツらだけは、絶対に赦さん!!」
自分こそが一番槍だとばかりに、躊躇することなく戦闘の火蓋を切った。最初に一直線で突撃を仕掛けたのは、群れの中で俊敏性の高いオーガ型フレッシュゴーレムだ。
知性や意識のないフレッシュゴーレムは、使役者の命令だけを忠実に行動するため、簡易的な命令ならば、自傷や損害などお構いなしに攻め立ててくる傾向がある。
猪突猛進に攻めかかるオーガ型に対して、ドラッセルも同じく真っ向勝負かと思われた。
「へっ! 同じ過ちは食わせねぇよ! オラァッッ!!」
オーガ型の持つ巨大な棍棒を持つ利き手側を、地を蹴って俊敏に避けたと同時に、胴斬りした上で前かがみになったオーガ型の後頸部を目掛けて、一瞬で首を打ち落とした。
「オッシャアァーッ! オーガ獲ったり一番首だ!」
「よし! 次は、俺の番だ……ッ!」
そう声を張った瑛斗は、討ち取ったオーガ型を踏み台として乗り越えて跳躍すると、上段の構えから重厚な片手半剣を全身全霊を込めて振り落とす。
突然の襲撃を受けた二番目のオーガ型は、頭頂部が見事にカチ割られ、何も理解ができないまま瞬く間に屠られていた。
巨躯のドラッセルと小柄な瑛斗が背中を合わせると、調整するために意見交換する。
「おいおい、やっぱりアンデットは弱体化してるんじゃねぇか?」
「いや、奴らは俄仕立てだから、指揮系統が甘いんだ!」
突撃して攻撃一辺倒のフレッシュゴーレムとなれば、指揮命令の不足ではなかろうか。
とはいえ自分自身は、精霊の護符のてんこ盛りの上で能力値全体を付与魔法までされていて、ここまで進化を遂げているとは。まるで強化された人造人間扱いみたいじゃないかな、とも瑛斗は思う。
だがそれが能力上昇か、はたまたブラフだったとしても、功績を挙げて鼓舞すれば、全体の士気が上がる。士気が上がれば、全員の戦闘能力も格段に向上するだろう。
「だから奴等の甘さが目立つぞ、オーガの足元がお留守だ!」
「おう、確かにそうだな……だが、油断は禁物だぜ!」
瑛斗が地を這うようにオーガ型の左足首の内側から斬りつけると、ドラッセルが息が合ったように右の方へ蹴躓いた敵の側頭部を目掛け、剣でカチ上げて撃砕した。
「うわぁ、二人ともスゴい! こんな連携技なんて見たの初めてだわ!」
「そふぃあ、わき見しちゃ、ダメ」
「ご、ごめんなさいってば……」
またも迂闊に呟いたソフィアが叱られたのは、レイシャが瑛斗を真似たからである。
『ストレングス・エンチャント』『クイックネス・エンチャント』
パーティの中で最も素早い瑛斗に古代語魔法『ストレングス・エンチャント』を。最も筋力の高いドラッセルに『クイックネス・エンチャント』であった。
仲間の行動をじっと凝視していたレイシャは、瞬時に判断して付与魔法を同時に仕掛けていたのだ。それにより敏捷度が上がったドラッセルは、敵の攻撃を回避できた。そして筋力強化された瑛斗は、ありったけの力を込めて敵を一撃で屠ることができたのである。
『エンチャント・ウェポン・アンド・エンチャント・ウェポン』
武器の打撃力を強化する『エンチャント・ウェポン』を複合魔法を付与したのは――
「そーれっ、ほああーっ!」
「いっくぞー、ちょわーっ!」
同時攻撃で下から上へとウォーハンマーを振り上げたのは、ライカとカルラである。
右から攻めてきたオーク型フレッシュゴーレムが振り落とす棍棒を、思いっ切りフルスイングでカチ上げたのだ。ドルガン謹製のウォーハンマーとレイシャの複合魔法の効果を発揮したか。オーク型の持つ棍棒があっという間に木っ端微塵に飛び散らかされた。
「うっわーい! すっごーい!」
「よぅし、悪い魔物をやっつけちゃうのです!」
遠心力を教えて貰ったライカとカルラは、自らの身体を軸として、ライカは右回り、カルラは左回りに一回転させると、巨躯のオーク型の顎を下から殴り上げて頭蓋骨ごと破砕する。
「やりましたぁーっ!」
「やったわ、ごしゅじん!」
姉妹のように息ぴったりの連携技は、見事なコンビネーションであった。
ぴょんぴょんと飛び跳ねるライカとカルラは、喜び勇んでハイタッチする。
「すぐにそふぃあ、うしろねらって」
「アッハイ!」
どういうわけかレイシャに命令されたソフィアが、素直に行動を開始する。
「このままじゃ、レイシャの子分になりそう……」
などと呟いたところで目の前は、オーク型フレッシュゴーレムの群れである。
腰の矢筒の矢を番えて弓を目一杯に引くと、標的を定めて構える。
『シャープネス・エンチャント』
レイシャが詠唱した古代語魔法『シャープネス・エンチャント』は、器用度を上げて命中力をアップする付与魔法である。
「ええい、ままよ! 照準……発射!」
ソフィアが放つショートボウの矢は、オーク型の眉間を見事命中させて穿ち倒した。
しかし何よりも驚いたのは、戦闘について腕に自信がないソフィアである。
「え、ウソでしょ……オーク型のフレッシュゴーレムを一発で射ち倒すなんて……」
「あっそ。げっかのひめきし、つきひめ、がんばれ」
「や、やめてっ! ただでさえ、ぶっちゃけありえないのにぃ!」
イリス暗殺未遂『エキドナの庭』で名を馳せた『月下の姫騎士』略して『月姫』のソフィアの二つ名である。自信がない若輩者としては、肩身が狭くて恥ずかしくなる。
そんなレイシャとソフィアの受け答えを尻目に、瑛斗がニヤッと微笑みを浮かべた。前衛のドラッセルと瑛斗、背を任せるライカとカルラ、後衛にレイシャとソフィア――さっきアーデライードが言っていた『連携戦』という設計図が、おぼろげながらも頭に浮かび上がりつつあるからだ。
「くそっ、次から次へと……この野郎!」
「円形の陣形を崩さず、レイシャを中心として隙を与えるな!」
しかし序盤を凌ぎぎったとしても、多勢に無勢。勝ち筋どころか見当もつかない。
できれば今のうちにオーク型、オーガ型のフレッシュゴーレム撃破せんと集中せねばなるまい。何せ、敵の数が多すぎる。仮に約三十体だと見積もったとしても、圧倒的に数で勝る物量戦を仕込まれてスタミナが枯渇されては、ただでは済まされないだろう。
このままでは、消耗戦が避けられそうもないと嫌な予感がよぎる――その時だ。
「にょほーん! 呼ばれず、飛び出ず、にょほほほーん!」
――と、突然どこからかまるで分からない、クセが強い独特な声が響き渡った。
第一声に響き渡る謎の来訪に、目を見張るほど驚いたドラッセルがつい口が開く。
「な、なんだなんだっ?! この声は……!?」
「いやー、待ち侘びちゃったよ、もう~」
姿は見えずも聞こえてくる声の主は、コビット族の若頭・パッフェルホップである。
道を二手に分けた彼らは、スカウト技能を使って森の中で身を隠しているのだろう。
「おいらたちも、助太刀するよ~ん!」
「アンデットどもが舐め腐ってんじゃねぇーぞ、オゥルァ!」
「あ、もう腐ってたんだっけ、アンデットだけに」
「ふへへ、お後がよろしいようで……って、オラオラーッ!!」
怒号と駄洒落渦巻くコビットたちは、姿が見えずとも奇襲を仕掛けたか。怒濤の勢いで、拳サイズの石礫が森の上を飛翔して一斉射撃を開始したのだ。
紐のような形状で石を投げる武器である投石紐を手に持ったコビット隊は、攪乱・誘導部隊である。深き森や低木の茂みと同化したスカウト技能を持つ彼らにとって、動揺と混乱に晒された敵どもは、格好の餌食であった。のた打ち回る怪物ども、頭を抱えて逃げる死霊術師など、大混乱で這う這うの体に陥らせたのだ。
「おいおい。どうなってんだ、この状況は……?」
「彼らが急襲して攪乱工作しているんだ、ドラッセル!」
コビットたちの声がウザ過ぎて話しづらい瑛斗が、声を張り上げて説明した。
そんな咆哮と絶叫が渦巻いた中で、紅一点、甲高い声が響き渡った。
「おーい、エイト! みんな! 遅れてごめん!」
突然に現れたその声は、潜伏技能を持つ元盗賊のサクラである。
知らぬ間に木の上から現れたサクラが、瑛斗たちの後方を指差して叫ぶ。
「そこ危ないから、後ろの藪の中までどいてどいて!」
その指示を受けた瑛斗たちが一斉に飛び退くと、茂みの中に身を伏せた。
軽快で跳躍力のあるサクラが、木から飛び降りるととともに素早く滑りこむ。
「どうしたんだ、サクラ。援護か応援でもあったのか?」
「そう。合流の途中でちっちゃいのと出会っちゃって、頼まれたんだよ」
その『ちっちゃいの』と曖昧でも、大方に予想できるのはコビットの誰かであろう。するとふいに違う方向を食い入って見る赤い瞳を持つ少女が、唐突に棒立ちとなる。
「あれっ? レイシャはどこを見ているんだ?」
「ん……やっときたよ、エート」
魔力の予兆を持つ、超感覚鋭いレイシャが呟いた――その瞬間である。
『エネルギー・ボルト』
教会の鐘の合図が響き渡るとともに、突然に後方から魔法の矢が降りかかった。魔法の矢の数は数百は下らない。その上にエネルギーの威力は高く、命中精度も申し分なし。
レイシャの目線の先にある攻撃魔法の射程場所は、高台の断崖を幾つかに掘り抜いて造られていた魔法の練習場であるという。しかしいざという時のために、簡易的な城砦としても可能な多目的施設であり、誰にも分からぬように自然を模して偽装してあったのだ。
鼻が良いが遠目も目敏いライカとカルラが、そこを嗅ぎ当てたようで声を出した。
「あーっ、優しい里の皆さんだーっ!」
「キノコの場所を教えてくれた人もいるわーっ!」
魔物軍団を迎え撃つは、里の皆さん――エトムントを中心とした魔法部隊である。
全員が魔法強化であり、長距離射程範囲ないし詠唱時間は、非の打ちどころなし。全員が一網打尽と言わんばかりに果敢に攻め立てた。
「ハッハーッ! 思い知ったか、醜悪奸邪どもが!」
「ワシらとて、腕は鈍ってはおらんぞ! ワッハハ!」
老人男女が多めの里の人々は、全員が魔法を取得済みの稀有な者たちであった。
よってフレッシュゴーレムどもは、阿鼻叫喚にもがき苦しんで絶命する。運良くして逃げ回ったとしても、追撃の攻撃魔法では到底太刀打ちできず、逃ることもままならない。
勝機は高台にあり。戦局を上から見下ろせば、標的は一目瞭然で思うがままであった。
「よぅしっ! 次は、死霊術師どもを狙うんじゃぞ!」
「『スリープ・クラウド』か『パラライズ』に掛ければ、一斉摘発じゃわい!」
別働の魔法部隊を指示すれば、たちまちに死霊術師らが魔法に掛かり膝をつく。いざ凶賊を捕縛せんと、コビットたちが中心に荒縄を手に持って走って確保に取り掛かる。
「エトムント様、この状況でお出になられるので?」
「うむ、この時こそやらねばなるまいて……では、久々に始めようぞ」
簡易的な城塞の崖の先、エトムント公とその横にあるルルミラが現れた。
光輝く魔法陣を空中で描くと「ヌンッ!」とばかりに、杖を大地に突き刺す。
「うおおおっ! 我らが待ちに待ち望んだ、あの御業が……!」
「おお、遂に見たかった、エトムント様直伝・高位魔術“雷撃”ぞ!」
老魔法使いたちが沸き立つとともに、若手の魔法使いの卵たちも歓声が響き渡る。
尊厳なるエトムントが古代語魔法を訥々と厳粛に詠唱を完了させた。
超長距離攻撃であり、全体的攻撃をも得意とする“雷撃”なる必殺技――
「我が妙技、篤と見よ――『サンダーストーム』!」
稲妻輝き雷鳴轟く超絶な電撃は、筆舌に尽くしがたい凄まじい破壊力である。
超強力な雷属性の全体攻撃であるこの魔法の効果範囲は、凡そ三十メートル。
複数の起点指定が可能であり、狙われたフレッシュゴーレムは、一瞬で殲滅された。
その周辺に隠れたか逃げた死霊術師たちも、巻き込まれて電撃麻痺される。
渓谷にある隠れ里の北西から南東までの峡路は、敵部隊に逃げ道はなかったのだ。
「うおおおおおおーッッッ!!」
老若男女問わない魔法部隊の面々が感動したか、声を合わせて大歓声に包まれた。
「凄いな……こんなに凄いのは、映画館よりも迫力あるな……」
つい安っぽく呟いた瑛斗だが、藪の中は言葉が足りないくらい特等席にいる気分である。きっと旅先案内人のアーデライードが、これはエンタメだと自慢してくるに違いない。
「よし、死霊術師どもを一斉に捕縛後、直ちに撤収せよ!」
迅速果断のエトムントが、直ちに号令一下で行動を移す。
「ハハッ、了解しましたぞ!」
「お任せあれです、内務公!」
エトムントの周辺にいた重鎮な魔術師たちが、自らが勇んで買って出た。
廉潔の士と呼ばれ人徳を持つ元内務公に慕う彼らは、有能な元部下たちである。
「しかしエトムント公、どうやら不穏な空気を感じますぞ」
「闇の彼奴を成敗すべく、討伐隊を用意しますか?」
不穏な動きを察知した部下たちが、積極果敢に決起を促す。
だが、いつもは厳格であり英断のエトムントが、首を振って制止した。
「いや、ここで一旦退くのだ、皆の者」
その横にいた近侍役でもあるルルミラが、不思議そうな表情で見上げる。
エトムントが珍しく柔和な笑みを浮かべていた。いや、その様に感じたのだ。
「これで宜しいのですか、エトムント様」
「フフフ、いいのだ、ルルミラよ」
そう言って、理解していない顔をしたルルミラの頭を優しく撫でた。
「ここからは、未来の糧……いや、ここは高みの見物といったところか」
「は、はぁ……」
遠くを見ているエトムントの横顔を、ルルミラはぼんやりと見つめた。
なんとなくであるが、何かの未来を託す預言者のように見えてきたからだ。
「誰もが知らぬだろうが、これはアーデライード様の言付けでな」
「あの『聖なる森の大賢者』である、高名なお方がですか?」
お爺様とお会いしたことがないと思っていたルルミラが、小首を傾げる。
もちろん、羨望の眼差しで拝見できたハイエルフの尊顔を思い出すと、いつもはポンコツ風味であったが、羊の皮を着た狼のような高潔無比な天下無双に見えなくもない。
でもそれは言っちゃあ、おしまいよ――と、コビット心にブレーキを掛けて口を閉じた。
「そうだ。大賢者の頼みで『この少年は、勇者になる男よ』……とな」
「ええと、そこなる少年が『勇者になる』……とのこと、ですか?」
この少年とは、そこにいる人畜無害な瑛斗のことを示しているのだろうか。
よく分かっていないルルミラは、邪推するのではないかと何とも言えなくなる。
「もしやこの少年こそ、世界の命運を握るやも知れぬぞ?」
「ええっ、お止め下さいませ。振り回される世界さんは、困ってしまいます」
「フッ、いつもルルミラは、言い得て妙よな……フフッ、ハッハッハッ!」
いつもは厳俊であり威厳あるエトムントは、珍しく破顔一笑するのであった。




