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ハイエルフと行く異世界の旅  作者: めたるぞんび
第7章:宮廷秘書官の捜索と救出作戦の旅 [後篇]
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決戦開始と宣戦布告を告げる鐘の旅(前篇)

 アーデライードの鬨の声――天高く響かせた美声に、何故か士気がぐんと高まる。

 全員が意気軒昂にして臨戦態勢に入った。いざアンデット群と反転攻勢に挑む。


「まずは、我らにお任せを!」

「自分らの持ち場ですから、オッス」


 不動心たる態度を示すオルソンとマルティンは、ここぞ騎士としての役割だと、スケルトンどもを蹴散らしながら、里人の家財を護るべく弱者優先に避難誘導を開始する。

 これで瑛斗らの集団から一時的に離れることになるが、あとで合流できるだろう。


 ぞろり……ぞろり……


 ここは、朱が色褪せた素朴な門柱を潜り抜けた先、仮宿舎の前にある小広場。魔法陣のようなものが鈍く光ると同時に、地面から蠢くアンデットどもが続々と湧いて出た。

 立ちはだかるスケルトンやゾンビに対するは、前衛の瑛斗とドラッセルだ。


「さて、と。それじゃ仕切り直して、順繰りに倒していこうか」

「そうだな、コイツらを念入りに潰そうぜ……ウォリャッ!!」


 まずはドラッセルが幅広剣(ブロードソード)を引き抜いて先陣を切ると、ゾンビを圧潰しては、スケルトンをも撃砕する。それに追随する慎重居士の瑛斗は、最前線とまでは行かないが、周辺の様子を確認しながらドラッセルを補佐している。

 後衛で落ち着き払ったレイシャは、詠唱時間(キャスト・タイム)を有効に活用しつつ魔法杖(ワンド)で古代語魔法を放てば、続々と付与魔法系(エンチャント)の『ファイア・ウェポン』で瑛斗たちを付与して援護する。


「おおっ、これは凄いな……」

「アンデットには、炎属性が弱点だから倒しやすいや」


 初心者向けのスケルトンやゾンビは、知能が皆無でのろのろと緩慢なので倒しやすい。その上、武器を魔法の炎に包まれば打撃力がさらに追加となって、より百人力と言えよう。

 魔力(オド)の強い土地であれば、怪物(モンスター)たちも強化されると言われているが、スケルトンやゾンビらは意外と脆く、あっけなく砕け散り、時には勝手に崩れ落ちる。


「どうやら敵は、死霊術師(ネクロマンサー)俄仕立(にわかじた)て臭いわね……」


 死霊術師とは、主に暗黒魔法を用いて死者をアンデットに変え、呪術によって霊魂を操る、最も忌避すべき混沌にして悪(カオティックイービル)と謂われる魔法使いである。

 俄仕立てとアーデライードが言うからには、敵の準備などがまだ整わないのだろうか。

 それを受けて緊張感漂うソフィアは、弓矢を手に構えつつも教えを乞おうと切り出す。


「こ、こういう時は、どうでしょうね……アデルさん」

「ま、こういう時こそ泰然自若よ。ゆっくり待ちなさいな」


 と、余裕綽々のアーデライードは、ふんぞり返って腕組みをしている。余裕もそうだが精霊たちを総動員して、どうやら里の状況を俯瞰しつつ観察いるようだ。

 そう感じたのは瑛斗であって、あくまで仮定に過ぎないが、アーデライードなら戦闘中に決まってそういう行動に移すことが多いので、いちいち考えることはしない。霊的彩光であるセンスオーラを見られない瑛斗だが、空気中の微震をなんとなく感じるのだ。


「チッ、腐れ野郎どもが! 次から次へと湧いて出てきやがるな!」


 ドラッセルが吠えると、自らが突進して幅広剣を豪快に強振してゾンビを一刀両断する。攻撃してきたスケルトンを切り返せば、錆び付いた剣ごと真っ二つに圧し折った。


「里の入口といえば、敵が一気呵成に攻め込むのが定番なんだがなぁ」

「……そうだな。アンデットって、こんなにもあっけないものなのか?」


 動向を探っていた瑛斗が、バックステップしてアーデライードに指南を仰ぐ。


「アンデットってこんなにも脆いや。やっぱりエトムントさんの策略なのかな?」

「んー、どうみても予定調和としか思えなくて、面白さと新鮮みに欠けるわね」


 と、そう楽観的なアーデライードに呟かれると、こちらも緊張感がなくなりそうだ。唐突にぱっきりと腰を折られてしまうようで、ついでにこちらの気も抜けそうになる。


「あの……アデリィの軽はずみな発言は、どうかご遠慮ください」

「ああ、ごめんってば。敵が攪乱させようとする常套手段じゃないかってこと!」


 アンデットどもの強襲や指揮はせずに放任するなどして、別の場所を逸らせたり、逆に目を引き付ける企みなのだろうか。つまり、敵の陽動作戦といったところか。


「意外と……と言うのもなんだけど、アンデットが弱体化しているってことか?」


 アンデットを力任せで破砕した不躾なドラッセルが、会話中を割り込んできた。


「ウハハハッ! それ以上に感じてンのは、肝が据わってるエイトだからだろ! 何せオマエの一撃でヤツら粉砕できる力を持ってんだからな。ホラ、エイトの後ろを見てみろよ。そこのポニーちゃんが震えて帰りを待ってるぞ!」

「しっ、失礼ね! もうドラッセルの背中を狙ってやろうかしら!」


 そう歯軋りするソフィアは、全力で弓を引いて構える。

 流石に味方に当たると危ないので、構えるだけで矢は番えていないけれど。


「あのねエート、おくのほう、ありそう……」


 そう言って瑛斗の無事を願うレイシャが、彼ぴっぴの腕袖をクイクイとせっつく。


「おいコラ、なにさ、彼ぴっぴって!」

「そうだな、まずは虱潰(しらみつぶ)しで当たっていくか?」

「ねぇ、話を聞いてなさいよ! ねぇ?!」


 ヤキモキするハイエルフに対して、聞こえないふりをした瑛斗は戦闘に全集中する。

 このまま遅れていては、隠れ里で留守番するサクラたち獣人族も心配だからだ。


「そんなの、ホラ! もうすぐ来るわよ……ホラ、すぐに来たわよ、ホラ!」


 そう急き立てるアーデライードは、精霊の予知で分かったとしても落ち着かない。

 それよりも何よりも、どうやってレイシャが彼ぴっぴなる謎単語を導き出したのか。こンのちびすけだーえるに後で理由を問いたい。問い詰めたい。


「とうちゃーっく!」

「ちょっぴり遅くなりましたなのです~」


 悠々にとてとてと駆け寄るは、冒険服を着用済みのカルラとライカである。

 何故か二人とも、小振りの片手用(ワンハンデッド)ウォーハンマーを引っ提げていた。


「大丈夫だったかい、二人とも」

「へーきですー」


 戦闘状態の最中なのに、あろうことかのんびりとしている。

 自分が初心者で緊急しすぎるんじゃないかと、逆に心配になりそうだ。


「……ええっと、他に何かあったんじゃないか?」

「んんーっ? そうねぇ?」

「ああ、慌ててたお馬さんたちを、厩舎に戻して落ち着かせたのです」

「あー、そうそう! 馬房用小窓や閂までも、しっかりバッチリ閉じたし!」

「サクラ姉さまも、じきにここへ駆けつけるおつもりなのです」


 総合世話係(コンシェルジュ)であるサクラは、万が一のために馬車の荷物などを纏め上げて、借りた宿の部屋を鍵閉め(シール)を怠らないように確認しているようである。

 不満気な顔のアーデライードがやって来て、メイドたちの状況を確認する。


「宿の亭主や女将さん、宿泊者、近隣住民は問題なし?」

「はい、とっても大丈夫なのです」

「ついでに宿の周辺のアンデットたちを、ぜーんぶやっつけたわ!」


 まさか十二歳にしてアンデットを一掃するとは。流石の瑛斗とて心配になる。


「ええ……本当に大丈夫だったのか?」

「これくらいはへっちゃらのへーだわ!」

「私たち、三歳くらいからゴブリン遊びで倒してましたし……」

「えっ、怪物(モンスター)を三歳から倒していたのか!?」


 狼の獣人族(ライカン・スロープ)は、三歳程度で成獣の姿に変身するという。

 しかも彼女たちは、通常打撃の武器が通用しない獣人族の特権でもある。石斧や鉄製の武器程度ではまるで効かず、お茶の子さいさいと言って過言ではないのだ。


「だからオークを倒したのは、十歳くらい、かな? ……です」

「その時は、半獣人化(メイクオーバー)して集団戦闘(みんな)で、えいやっと!」


 恐ろしいことを口にするライカとカルラは、二人ともニコニコと仲良く微笑み合う。

 そういえば――と、瑛斗は思い出す。獣人族救出作戦の折、暗闇の森の中で猛獣使いのゴブリンとオークの群れと真正面で突撃し、魔物どもを殲滅した経験を持つことを。

 さらに、リッシェル邸周辺のジャイアントラットもさらっと駆逐している、とメイドたちに聞かされると、怪物退治の専門家になり得るんじゃないかと、瑛斗は新たな扉の可能性を感じさせられた気分だ。


「それじゃ……ライカとカルラ、一緒にやってみるかい?」

「はいっ! やってやるです。がるる~っ!」

「私たちに、まっかせなさい! がおーっ!」


 諸手を挙げたライカとカルラが、俄然やる気が漲りまくった勢いだ。

 ますます心強く感じ取った瑛斗が、全幅の信頼を寄せる気持ちを受け取った。


「ところでアデリィ、この道行く先は何か決まっているのか?」

「それなりに把握できたけれど、このままじゃ埒が明かないわね……」


 どうやらアーデライードは、精霊を総動員した調査結果が終了したらしい。

 色々ともどかしさを感じつつ、即断即決しうるのは彼女の持ち味でもある。


「よし、決めたわ。私は一旦、里の外に離脱するけど、あとで宜しく」

「えっ?」

「大丈夫よ、たっぷりと精霊の護符(アミュレット)をてんこ盛りにしてるし」

「ええっ?」

「ついでに能力値全体(フィジカル)付与魔法(エンチャント)してあるから、大丈夫、だいじょーぶっ!」

「えええーっ?」


 理解を超え過ぎていて、瑛斗とて何かをされているのか、まるで気付かなかった。

 たまに精霊を付与しているんじゃないかと予感はしていたが、ここまでとは。これは良いことなのか、悪いことなのか、分からないほどにやってくれた。というか、いつの間にかにやられていたという。よって瑛斗にとっては、宇宙猫状態である。


「ライカとカルラ、お爺様の館まで案内できるわよね?」

「はいー」

「もちのろんよ!」

「では、宜しい。あとは任せたわよ!」


 そう言って早速に踵を返すと、敏捷性の高いハイエルフは驚くほどに疾駆する。


「おーい、アデリィ! 待ち合わせ場所はーっ?」

「お爺様の館の、さらに奥まった所にある中央広場!」

「ああ、了解ーっ!」


 それを台詞を最後に、アーデライードは森の奥へとあっという間に消え去った。

 とはいえ瑛斗は、今回が隠れ里に訪れたのが初めてであり、要領を得ていない。


「ええっと……ライカとカルラ、道案内を頼むよ」

「はいー、お任せあれなのです!」

「そうよ! 私たちにまっかせて!」


 嬉しそうなライカとカルラは、元気めいっぱいで尻尾を振りそうな勢いだ。


「よう、エイト。この辺りは、ほぼ駆逐できたが、どうだった?」


 そうドラッセルが尋ねてきた。血濡れの幅広剣(ブロードソード)襤褸布(ぼろぬの)で拭きつつその辺で捨てる。弓矢を射ったソフィアも、それなりに奮戦したようだ。


「取り合えず、敵の囮であるお爺様の館へ向かう。道案内は、ライカとカルラだ」

「んんと、あっちの道では、あのヒトたちがウロウロしてるのです」


 ライカが指差す先は、上りの小路にスケルトン数十匹が徘徊していた。


「それじゃ、道案内を始めますですー」

「いっくぞーっ! うおーお、そぅれぇッ!!」


 武器を構えたライカとカルラが、とととーっと小走りで突撃を開始する。

 片手用ウォーハンマーを両手で振り回せば、スケルトンどもを木っ端微塵に破砕する。

 ハンマーの頭の部分は小振りにしており、柄の部分は長くしてあるようだ。


「どこで手に入れたんだ、それ……?」

「これ? ドルガンさんにもらったのですー。それーっ!」


 ドワーフであり六英雄である“闘将”ドン・ドルガンお手製の謹製であった。

 目覚ましい破壊力とその武器を目の当たりにした瑛斗が、驚きを隠しきれない。


「ええっと、あのドルガンさんから、何でこれを?」

「あのねぇ、私たちが頑丈だから……ちょわーっ!」

「それに身長が低いから、間合いが足りないので……ほわっ!」

「それと、えんしんりょく? で、教えてもらって、むんっ!」


 瑛斗が試験勉強中だった二週間の間で、彼女たちがここまで劇的に成長を遂げるとは。捜索から隠れ里の中とはいえ「暇だから」との理由で、若さゆえの成長性は半端ない。

 それらメイドを垣間見た、騎士であるドラッセルやソフィアらも恐れ入る。


「おいおい、これじゃオレたちもウカウカしてらんねぇぞ……」

「うわぁん! このままじゃ、私だってもっともっと頑張らなきゃ!」


 戦闘能力と家事能力の両天秤を兼ね備えた、人狼少女のライカとカルラ――このままでは、騎士とメイドの格差社会。騎士の職種が役立たずになって、やがて飯の種がなくなってしまうだろう――と、桶屋が儲かる理論のソフィアは、脅迫観念がふとよぎったのだ。


「そんなの嫌だわ! 待ってよ、私も置いて行かないでーっっ!」


 戦闘狂のドラッセルを尻目に弓矢を背に戻したソフィアは、腰にあったショートソードを引き抜くと、前線に向かってこぞって参戦を始めるのであった。

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