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ハイエルフと行く異世界の旅  作者: めたるぞんび
第7章:宮廷秘書官の捜索と救出作戦の旅 [後篇]
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キマイラ討伐による最終決戦の旅(後篇)

「バ、バカなッ! こんなにも呆気なく倒されるなど……ッ!!」


 拳を握って怒りに震えるザルディゴートは、もはや焦りの色は隠しきれない。

 だがその時、唐突に謎の声がザルディゴートの耳元で囁き始めた。


『よく聞け……奸賊であり、凡才なる愚か者よ……』

「グムゥ、何奴だッ?!」


 暗黒教義である共有聖語の古代エルフ語により、ザルディゴートは困惑した。

 共有聖語は不慣れで断片的で読めるも、流暢であり童女のような美声だからだ。


『彼奴の仲間を使役に仕掛けさせ、あまつさえ呪詛までも愚行せん』

「ムムム……貴様は誰だ、一体何者なのだ!?」


『我が名はレイシャ。我は、我が主の所有物であり、奴隷である』


 その声は、レイシャ。訥々と古代エルフ語で語り始めた。

 耳元で囁くことができる古代語魔法『リプレイス・サウンド』を仕掛けたのだ。


「フン、所有物であり奴隷だと? 嗤わせる……」

『如何にも。我が主は、其れ程まで尊崇にして敬慕なる唯一無二の傑物ぞ』


 ザルディゴートが遠くを見やるに、小さきダークエルフの童女。

 闇夜に赤く光る双眸、まさしくレイシャである。


「!! その赤き双眸やもしや……『暗黒神の寵児』か?!」

『ふっ、所詮は世迷い言(よまよいごと)ぞ……邪神信奉者の狂言に過ぎぬ』


 闇夜が深く深くなればなるほど、赤き双眸がますます眩く光り輝く。

 ダークエルフを愚弄するは、到底許さん。気合十分に心の炎が燃え滾っていた。


『だが我の種族を愚弄するとは、汝は所詮愚者は愚者ぞ。恥を知れ、外道!!!!』


 怒りを込めたレイシャは、紅い目を見開く。

 魔力(オド)の許容量を解放させ、準備万端整った複合魔法を呪文詠唱し完成させた。


『地獄の業火(ヘルフレイム)』


 レイシャ独自の重複魔法『ファイアボール・アンド・ファイアボール』をさらに磨きをかけて凝縮させた、古代語魔法で初となる口語化圧縮の進化版である炎魔法である。

 瑛斗の婆ちゃんから預かった『黒革の手帳』――六英雄の一人である『冥界の魔女』エリノアが残したという古代魔法語の教導書を、大切に学び取っていた成果であろう。


「あれ、やっていいって。だってえーとがいってたもん」


 先程までの古代エルフ語の、流暢で童女の美しい声はどこへやら。日本語であり共通語(コモン)の勉強中のレイシャは、あどけない声でそう呟いた。

 確かに「あれ、やっていい? やっちゃって、いい?」と、瑛斗に許可を得たのは、間違いなかろう。しかしそこまでやっていいとは、誰しもが思っていなかった。


「ん……でもころしちゃダメって、ゆってたし?」


 殺しちゃダメだと絶対に約束を守るレイシャは、死なない程度にずらすつもりだ。

 それでも燦然と光って獄炎渦巻く極大火球が、ザルディゴートの目前まで迫りくる。


「ヒッ……ヒイィィィッッ?!」


 流石の上位職である死霊導師(ネクロメイジ)も驚きは隠せまい。横目で間近で見ていた瑛斗とドラッセルらも、あまりにも極大火球で目を見開いていた。

 ただし、爆炎に見覚えがあるのんびり屋のサクラだけが「たまやー」と花火のように呟いて、ほのぼのと眺めているのも、また一興を超えて不思議ちゃんでならない。


「?! お師匠様!」


 従者らしきフードを被っていた子供が、神聖魔法を高速圧縮で唱え始めた。


『ヒート・プロテクティブ・サークル』


 神聖魔法『ヒート・プロテクティブ・サークル』とは、神の御業により薄い結界を張り、炎のダメージを減少できる防御魔法である。防御魔法によって回避できたザルディゴートは、高貴であり上質な外套(ローブ)に身を包んだおかげで、なんとか死を免れたのだ。

 ただし彼の外套は、焼け焦げだらけで見窄らしい姿となってしまったが。


「ええい、遅いぞ小僧が……儂をもっと護らんか……ッ!!」

「ああ、ごめんなさい……お師匠様、ごめんなさい……!」


 無様なザルディゴートは、皺が目立つ拳で従者らしき子を何度も殴りつける。息が切れてるほどに、何度も何度も、拳から血が滲むまで忘れるほどに殴りつけた。

 威圧的な弾圧と暴虐による憂さ晴らしの時間は、だが刻々と過ぎ去っていくのだ。


「アデリィ、アンデット・キマイラを仕留めたよ」

「あーあ、もう。私、汗握っちゃったじゃない……おめでとう、エイト」


 両手を広げるアーデライードが、仲間たちと合流して素直に喜んだ。

 最期にアンデット・キマイラを仕留めたのは、勝利者である瑛斗。獅子の頭頂骨を力一杯に振り落とし、重厚なる片手半剣(バッソ)にて斬撃の一撃で屠ったのだ。


「みんなみんな、とびきり上出来だったわよ!」


 巨大な怪物たちを討ち取ったは、瑛斗とドラッセル。彼らに能力値全体の付与魔法(エンチャント)を担い、後衛担当として役立ったレイシャ。周辺の雑兵・スケルトンを殲滅し、護衛をも託されたライカとカルラ。杖を盗んで遊撃し、蛇の双眸をも失わせたサクラ。

 アーデライードは仲間たちを褒めて労うとともに、それに引き換え嫌味を込めて後ろの方へとくるりと振り向いた。


「でもアンタを除いては……残念でしたわね、負け犬さん」

「グッ、おのれ、おのれぇぇぇ……ッッ!!」


 その“死神の使徒”と呼ばれたザルディゴートが、両腕をわなわなと震わせる。

 目深に被ったフードがはらりと外せば、白目を剥いて額に青筋を立てていた。


「どうせアンタの手持ちは、竜牙兵・スパルトイ一対とアンデット・キマイラくらいだったでしょうよ。見え透いているのよ、無様で汚らわしいお方ねぇ」

「グギギギ……この不浄なる虫けらどもがぁぁッッ!」


 焦り切ったザルディゴートの台詞は、負け犬の遠吠えにしか見えない。


「お生憎さま。ツギハギだらけのお人形じゃ、単なる置物にしか過ぎないわ」

「何を言う?! 三年も手塩にかけて育てた、我の自信作(キマイラ)だぞ!?」

「あら、たった三年? 甘いわね。十年くらい熟成しなさんな、俗物さん」


 色気を持った流し目のアーデライードが、煽るように意地悪してほくそ笑む。


「野生のキマイラとアンタのアンデット・キマイラじゃ、段違いに格が違うわ。キマイラがアンデットになれば、野生の本能と獰猛さを失って直感や感覚が鈍くなってしまうもの。例えば、天然物と養殖物みたいにね。まぁ? アンタは矮小で愚鈍だから仕方がないわね、残念だけれど、お気の毒さま。あーっはははっ!」


 アーデライードに煽りに煽られたザルディゴートが怒り狂って名指しした。


「くっ、そこの貴様! 名を名乗れ! 貴様、何者なのだ?!」

「はぁ? アンタ老眼? 歳を取り過ぎて、耄碌(もうろく)でもしたのかしら?」


 嫌味の塊であるアーデライードは、いつもの辛辣を越えて悪辣である。


「我が名は“聖なる森(グラスベル)の大賢者”アーデライード」

「なっ……?! ばっ、ばっ、ばっ、莫迦なッ!?」

「このハイエルフの見目姿(みめすがた)を、忘れたとは言わせないわよ?」


 啖呵を切ったハイエルフは、魔王戦争を渡り切った六英雄の一人である。

 ついに顔面蒼白となったザルディゴートは、言葉をも失ってしまったようだ。

 しかし見目麗しいハイエルフの反面、さらに毒舌と高笑いが炸裂し始めた。


「あーっはっはっはっ! 弱っちくて、なーんて情けないのかしら!」

「かっ、くっ……ぐぬぬぬ……っ」

「まるで雑魚ね、ざぁーこ、ざぁーこ! あーっはっはっはーっ!」


 まるで小生意気で挑発的な態度をとった少女属性のキャラクターのようである。

 それを見かねたレイシャが、アーデライードに小さい声でぽつりとこう呟いた。


「ふ……めすがき」

「めぇはぁッ?! 誰に何を吹き込まれたの、レイシャ!」

「べつに……ぷ」


 ハイエルフに顔を見ずに、横を向いてせせら笑うダークエルフ。

 つい口走ってしまったアーデライードは、昔の若い頃を思い出す。


 いけない……半世紀くらい前にやらかした、高圧的で挑発的な口調は控えねば。

 やり過ぎちゃって、ついにゴトーにも怒られたの、忘れたのかしら、私。

 そんな最近の蔑称なんて聞いたことがなかったのに、いったい誰が仕掛けたの?

 メスガキに、いただきマンモス、彼ぴっぴ……あとでさらに問い詰めねば。


「なにぃッ!? あの野郎が消え去っただと!?」

「あら、逃げたわね」


 ドラッセルが叫ぶ。ザルディゴートが逃げたのか、いつの間にか消えていたのだ。

 つい思案し過ぎて気付かなかったアーデライードだが、何食わぬ顔で言ってのける。


「いいのよ、あんな俗物なんて。その辺で放っておきなさいな」

「いや、しかし……!」

「たぶん移動手段の転移魔法(テレポート)の魔術巻物(スクロール)でも使ったんでしょ。そんなのぜーんぜん気にしない、気にしない!」


 そう言うと手をぷらぷらと振って、邪念でも追い払うようなポーズをみせた。

 魔術巻物(スクロール)とは、魔術の呪文が羊皮紙に記されており、巻物に魔法が封じ込まれている。よって魔法使いでなくとも、魔法が使用できる便利なアイテムである。

 そして転移魔法(テレポート)とは、一キロ圏内の場所に瞬時に移動させる古代語魔法である。


「どうせ耄碌だから足が悪そうだし、そんなに遠くにいるわけでもないし。じきに見つけ出せるから心配ないわ。その辺の野辺にでも放っておきましょう」


 切り替えが早いアーデライードが見限ったように、中央広場を後にした。


「…………」


 物言わぬレイシャが薄暗い森の中へ見上げると、紅玉のように瞳に光が灯る。

 瞳から赤き光が差すのは、魔力を使用するとともに余るほど零れだす証左だ。

 レイシャが仕掛けたは、隠れたものを見つけ出せる透視の魔法であろうか。

 情けを掛けたダークエルフどもの肢体は、どこからともなくいなくなっていた。


「さらば、ぜんらまん」


 レイシャの言うぜんらまんとは、全裸な男(ぜんらまん)のことである。

 生きるか死ぬかは分からない。だが、それ以上に興味は微塵もなかった。


「さぁて皆さん、お立合いーっ!」


 周りを見ないアーデライードが声高らかに勝利宣言する。


「これでアンデット・キマイラ討伐完了! 完璧に討ち取ったりぃ!」


 そう勝鬨(かちどき)を上げると、何故か周辺から一斉に歓声が沸き上がった。

 里の小路から、木の上から、藪の中から、建物の窓から、屋根から、バケツから、意味がよく分からない場所から場所まで。コビットたちが余すところなく突然に現れたのだ。


「うわ、なんだなんだ?」


 何が起こったのか理解できない瑛斗やドラッセルが、困惑せざるを得なかった。

 それでも陽気なコビットたちが声を上げ、一斉に歓声渦巻いて褒め称えた。


「やったーッッ! 獲ったどーッッ!!」

「よくやったッ! 頑張ったッ! 感動したッッ!」

「今日からエイトは、勇者だ、英雄だーっっ!!」


 コビットたちに褒め称えられた瑛斗は、困った顔で鼻の頭を掻く。


「いや……俺は、まだまだ勇者見習いだよ」


 そう遠くを見やると、高台の断崖にある簡易的な城砦にエトムントとルルミラがいた。挨拶とともに感謝を送って手を振った二人とも、優しい微笑みを湛えていた。

 もちろん隠れ里の魔法使いたちも、喜んで大手を振る者、充足な顔つきで腕組みする者、称賛して絶やさずに拍手する者――様々な個性豊かな里の人々が、心の底から喜んだ。


「やったな、エイト!」

「おめでとうなのです、ご主人!」

「ごしゅじん、私たちも勝ったわよ!」

「ん、やった。レイシャのエート」

「やれやれ、あたしも肩の荷が下りたさねぇ」


 ドラッセル、ライカとカルラ、レイシャにサクラ――全員が瑛斗を中心に集まってくる中、スカートをくるりと翻して絶世の美少女なるハイエルフが振り向いた。


「おめでとう、エイト……初めての一歩よねっ!」


 アーデライードが輝けるほどの満面な微笑みで、嬉しそうにそう褒め称えた。

 そうして、討伐最終決戦と初めての連携戦(パーティせん)は、幕を閉じたのである。

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