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ハイエルフと行く異世界の旅  作者: めたるぞんび
第7章:宮廷秘書官の捜索と救出作戦の旅 [後篇]
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キマイラ討伐による最終決戦の旅(中篇)

 眉間に大ダメージを負ったアンデット・キマイラは、荒れ狂うほどに奇声を上げて大暴れする。どうやらザルディゴートの杖を奪われたせいで、暗黒魔法は元より、アンデット・キマイラのコントロールも失ったようだ。

 もうすぐそこまで死霊導師(ネクロメイジ)の姿は見えた。これ以上はサルディゴートの持ち駒も限界だろう。よって最終決戦は、新たな局面に突入する。


「知れ者どもが……何故(なにゆえ)崇高たる我らを邪魔立てせん!」

「いいや、違うね」


 暴れ狂うキマイラと堂々と鬩ぎ合う瑛斗が、間隙を縫ってはっきりと言い切った。


「俺はただ、怪物どもを退治したいんだ」

「ハッハーッ! その通りだエイト、違いねぇ!」


 瑛斗とドラッセルは、まるでトランス状態に達したのか。口元がニヤリと緩んだと同時に、冒険心と好奇心が詰め込まれた瞳の奥が爛々と見開かれていた。

 ドラッセルの戦闘狂に毒されたかのように。喉が乾いてしまったように。勝利の美酒に酔いしれるまで渇望するのだ。


「俺は、爺ちゃんと同じくらい、異世界の冒険を駆け抜けたい!」


 とまでは、口には言えないが、若き瑛斗は心の内に秘めていたことがある。


 それは瑛斗が四~五歳だった頃――北海道の畑で巨大ヒグマと遭遇した。

 爺ちゃんが農業の視察のついでに、北海道旅行で付き添った時だろうか。

 凶暴なヒグマを間近にして「死ぬんだろうな」と悟った記憶だけがあった。

 でも爺ちゃんは、違った――滅茶苦茶だけど、全てを超越していて次元が違う。

 ふらりと現れて、備中鍬をむんずと掴んだ爺ちゃんが、こう呟いたんだ。


「しょうがねぇなぁ……みんなには、内緒だぞ」


 と、その瞬間に、ヒグマの首を一撃でかっ切って、斬り落としたのだ。

 九十歳前後の爺ちゃんが「あとで熊鍋でも食えっかな」とも呟いたっけ。

 それ以上の記憶はあんまりないが、ただそれだけは覚えてる。

 異世界では、歳を取ったとして差はあれど、戦闘力は変わらないという。

 多分だけど魔力(オド)や精気(マナ)など身体の中で蓄えて、身についた御業なのだろう。

 だから恐怖とか、不安とか、悔恨とか、苦痛とか。それら全てが消し飛ぶんだ。

 ただ一つ、残ることと言えば「そういう風に、俺はなりたい」って。


「向こうの世界じゃ、ちっぽけで、何もできなかった俺だけど……」


 単なる俺の夢であって、独りよがりな願望に過ぎないかも知れない。

 身体が小さくて、力も弱い。剣道だって、喧嘩だって、勝った試しは微塵もない。

 でもこの半年間、ただひたむきに剣技を磨き、体力を付け、弛まぬ努力を重ねていく。

 異世界では、魔力と対をなす負の根源・魔素によって怪物を生み出してしまうという。

 巨大ヒグマを思い出す。この巨大な怪物どもを、全てまとめて薙ぎ払ってやりたい。

 負の根源・魔素を正すため、不安定で不釣り合いな異世界を善へと導いてみたい。


「何かのために勇者となって、この世界で成し遂げるんだ、と!」


 だから邪悪な怪物どもを、倒したい……倒したい、倒したい! 倒したい!!

 そして何としてもコイツらに、勝ちたい……勝ちたい、勝ちたい! 勝ちたい!!

 恐怖を打ち克つどころか、希望に向かって邁進せんと、さらに上回ってしまうのだ。


「あらら……それじゃ集中し過ぎて、隙を突かれるわよ」


 胸が高鳴るアーデライードが、生と死のギリギリの境目を見定める。


「クソッ、獅子の次はヤギと、次から次へと……がふっ!」

「しまった、獅子に夢中で蛇に見逃したか……うあぁっ!」


 キマイラが半回転すれば、死角を突いた尻尾の蛇が鞭のように蹴散らした。

 狙いを定めた蛇が瑛斗を絡めとると、とぐろをクラッチして強く締め上げる。

 強打されたドラッセルが一時的に行動不能に陥れば、尻尾の蛇に締め付けられ、苦悶の表情が浮かぶ瑛斗も劣勢に入った。


「ふふっ、まだまだエイトは甘ちゃんねぇ……でもね!」


 それでも関与しないアーデライードは、ただ手を出さずに刮目するだけだ。

 しかし瑛斗が蛇に絡めとられたまま、大地に打ち付けられる瞬間である。


『プロテクション』


 古代語魔法『プロテクション』を用いて、物理的ダメージが軽減される。

 瞬時に見抜いたレイシャの高速詠唱が、どうやら間に合って役立ったようだ。


「ご主人さまーっ!」

「だいじょぶっ、ごしゅじん!」


 雑兵・スケルトンを蹴散らし終わった、ライカとカルラが駆けつけてきた。

 それと同時に、気配をまるで見せないサクラが屋根から壁へと飛び降りる。


「あたしを……あたしたちを!」

「助けてくれたのです!」

「だから、恩返しするんだ!!」


 瑛斗らが獣人族を救い出した恩義がある。

 それは絶対に譲れない、三人の約束であった。


「そぅれ、カルラ!」

「ライカ、いっくぞーっ!」


 身体の小さき護衛者(リトル・ガーディアン)がキマイラの前足の股の間を潜れば、ライカが右後足、カルラが左後足をこれでもかというくらい、ウォーハンマーでしこたま膝に叩きつけた。

 弾丸のようにスピードの勢いが有り余るほど、鉄槌を受けたキマイラの膝が砕かれた。


「これでも喰らいなさんな、邪蛇(マガナワ)さんよ!」


 サクラが尻尾の蛇に飛び掛かると、双短剣(ダブルナイフ)で双眸を斬りつけた。

 失明を受けた蛇が、獅子とヤギとの三重奏のように絶叫がこだまする。


「やっぱり仲間がいなきゃ、敵わないや……ははっ」

「だが仲間がいるから目指すんだろう、この勇者見習い!」


 とぐろを解かれた瑛斗が苦笑いをしつつも、ドラッセルの喝を受けて奮い立つ。

 そう言えば、アーデライードがそう言ってたっけ――


「如何なる時でも連携戦では、完全無双にして絶対無敵の負け知らず!」


 瑛斗とドラッセルは、今朝の模擬決闘で身に染み付いている。

 技能(スキル)を多投しないこと。だが、バランスよく技能を使い切ること。


「罷り通るぞ、ドラッセル!」

「おうよ、エイト!」


 先制を奪った瑛斗が戦士技能(ファイタースキル)『インステップ』でキマイラの懐へと飛び込めば、瑛斗得意の『スピンムーブ』で回転し、間髪入れずに斬り込んだ。

 打撃力は非常に高い戦士技能によって大ダメージを負った獅子の代わりに、キマイラの背中にあるヤギの頭の堅硬な角が待ちはだかる。


「今度はオレの番だ、どちらが折れるか勝負だ!」


 ドラッセルが真白銀の魔槍を突き刺すと、ヤギの角の先から根元まで打ち砕いた。

 騎士技能の高等技能『槍撃・刺突一穴』であった。


「…………!!」


 初めて技能の成功を収めたドラッセルは、感極まって言葉が出なかった。

 融通が利かず散漫し易かった影を潜め、集中力を精密さに手応えを掴んだようだ。


「まだまだっ! 連続攻撃を緩めるなよ!」


 ドラッセルと交代できて技能再時間(クールダウン)を取れた瑛斗は、戦士技能『チェンジ・オブ・ディレクション』を発動させた。

 この戦士技能は、斬り込む方向や動きや、走り込む向きを変えて敵の動揺を誘う。

 稲妻のように理解不能な道筋によってキマイラを混乱させ、狙うは獅子――ではなく、尻尾の蛇の鎌首を片手半剣で斬り落とし、見事に成功した。

 それでも猛り狂ったキマイラの獅子が、反射神経を遺憾なく発揮して爪撃を放つ。


「エイトの技ぁ、借りるぜぇ!」


 だがドラッセルが敵の攻撃を受け流す、戦士技能『パリング』を発動して魔槍で円を描けば、膂力を誇る前足の爪を難なく受け流せた。

 それは今朝に発動して目にした戦士技能を、いとも簡単にやってのけたのだ。


「そう言うことだよな、エイト!」

「そうだよ、ドラッセル!」


 受け流されたキマイラの反撃(ターン)は、脆くも潰えた。そうなれば今度は、順位的に俊敏度(アジリティ)の高い瑛斗の独壇場であった。

 それでも無駄に技能を使わない瑛斗は、最も得意な連続攻撃を繰り出した。複数の打突と思いきや弧を描く美しい剣筋で、キマイラの反撃の猶予を打ち崩されて与えない。

 ドラッセルが参戦すれば、息ぴったりに攻め手が豊富となって攻勢優勢が一気に進む。背中のヤギの角は折れ、蛇の鎌首を斬り落とされて、後足の膝をも砕かれた息絶え絶えのアンデット・キマイラの運命は、もはや時間の問題だろう。

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