閑話休題 その3 「「DIVAS」初ライブツアー決定記念パティー?」
次回より二部です
小さなプライベート用のダイニングで、異世界の料理に舌鼓を打つ。
小さいといっても、この屋敷の中ではという事であって、我が家とは比べるまでもなく広く、高そうな調度品に囲まれている。
アイドル変身メイクを落とし、すっかり寛いだ装いに戻った雫達は揉めた。
何に揉めたかといえば、誰が食事の用意をするかでだ。いつもは兄か姉が料理をしていた為、雫が用意する場合はレトルト食品やお好み焼き、カレーや鍋という簡単で限られたものになる。
別段それでも問題はないのだが、忍が晩餐会?らしきものに出て豪華な食事をするのだと聞いた一同から非難されたアルは、シャールの侍従長に助けられ別室で小さなお食事会が開かれた。とはいっても、DIVAS関係者だけの小さな会食だ。
テーブルマナー等は適当にわいわいがやがやと賑やかな中にあって、アルだけが青い顔でもそもそとサラダを食んでいた。その様子はまるで馬か牛のようだ。
「はい……これ」
「あ、ありがとうございます」
アルの様子を心配したのだろう、コウが皿に綺麗に盛り付けた薄切り肉やカナッペ、マリネを差し出す。
コウを褒めるように、アルは上を向いた狼の耳の付け根あたりを撫でた。
「……魔族国へ行くこと、決まった?」
「ええ、先ほど大まかな日程が決まりました。明日からはその準備で忙しくなりますね」
「俺……頑張って強くなるから」
バーン副隊長の話ではコウも随分と腕が立つようになってきていると聞く、奴隷商の件から毎日騎士隊の鍛錬に参加している事が彼を大きく成長させたのだろう。恵まれた身体能力を持っていても、それを有効に使いこなすには努力が必要だ。
「騎士隊からは随分強くなったと聞いていますよ。魔族国へ行った際には護衛として頼りにしていますから」
「……うん」
「多少の事では魔力酔いしないよう、何か魔導具を準備しておきますね」
純朴で素直な銀狼の少年は、ぼそりとアルに礼を言う。
「ええぇ~アル君、日程決まったの?」
「はい、まあ入国などの手続きがありますから、すぐにではありませんが…」
3種類のケーキを皿に盛り、幸せそうに堪能している雫とセッカが話しに加わる。
「わさびも一緒に連れて行っていいんだよね?」
「あー……あちらでの滞在はホテルが主になりますから、難しいかと」
「ええぇぇぇ、わさびもウチの家族だよ。置いてくなら行かない」
「可愛そうですわっ」
そのわさびは伸びすぎた被毛を整えるため、エステ隊のチーフに預けてある。オネエな兄貴が印象通りの可愛いもの好きで、モフモフ好きな乙女思考の持ち主だったので、喜んで引き受けてくれたのだ。
「おそらくシャール様か、シノブさんのお知り合いに預ける事になると思います」
噂をすれば影と現れたのは、オネエな兄貴とすっかり綺麗になった愛犬わさびだ。
「子猫ちゃん達ぃぃ、わんちゃんが綺麗に生まれ変わったわよ♪」
一仕事終えて身内の食事会に加わるオネエな兄貴は、くねくねしながらアルの隣に腰を下ろすとずいっとアルに身を寄せてくる。
「パ、パヴォーネさん……近いです」
「あら。アルフレッド様ったら意外に逞しい♪」
服の上からアルの腿や肩をツーっと指の腹でなぞるパヴォーネ兄貴。だが、その表情は恥らう乙女の如くはにかんだそれである。
その様子を見ていたセッカが一言。
「……ロックオン」
「だねぇ~」
他のエステ担当の御姉様方もほろ酔いで雫の周りに集まってくと、近くにいたコウの首に腕を絡め、獣人のふさふさ耳を堪能しながら、ワインを水のように喉へ流しこむ。
「アルフレッド様はチーフの好みど真ん中だからねぇ~」
「好きなのようねぇ~インテリで甘いお顔」
「御姉様方……パヴォーネチーフってどっちですか?」
「……どっちって?」
「突っ込む方?突っ込まれる方?」
「ま、シズクちゃんたらおませさん♪」
「シズクおねー様たらはしたない。受け、攻めとおっしゃらないと」
思わず、セッカからダメ出しされた。
すかさず、ひとりの御姉様がコウの耳を両手で塞ぐ。
「コウくんはお耳を塞いでおきましょーねぇー」
「……や、やめ…く、くっつくな……」
「はいはーい、いい子ちゃんね」
酔っ払いは怖い。お綺麗な御姉様が2名がかりでコウを押さえつけて、所構わずキスをしている。実はいろんな意味で手練なんじゃなかろーかという、綺麗な御姉様にがっしりと関節を押さえ込まれたコウは身動きできない。
「チーフはどっちもいけるんじゃないかしら?」
「あら、本人はネコ希望らしいけど、中々お相手がいないからタチをしてるって聞いたわよ」
「どこ情報よ、それ」
「シノブ様に無茶苦茶にされたいわぁ~って叫んでたわね」
「アルフレッド様のことは食べちゃいたいって言ってたわよ」
「…………つ、つまりは?」
「リバって事ですわね♪」
DIVAS関係者の食事会も落ち着き、参加スタッフの数名が退出した頃になって、苛立たしげに開かれたドアから不機嫌な2人の男が現れた。
異世界の貴族服なのだろう、フロックコートの様な長いジャケットを着て、伸びっぱなしになっていた黒い髪を後ろに撫で付けた忍がシャールと共に戻ってきたのだ。
シャールは瞳色のベストと白いシャツにアスコットタイを上品に着こなし、金糸で細かな刺繍を施した黒いジャケットを、その横の忍は黒いジャケットに銀糸のシンプルな刺繍のみと渋い装いで、アスコットタイを苛立たしげに外し、ベストとシャツは肌蹴けている。
そういえば兄はネクタイ嫌いだったなと思い出し、上品な仕立ての貴族服を着こなした忍を見る。
「……コスプレ?」
「……あ゛ぁぁ?」
いかん、魔王光臨だ。
「忍、カッコイイ♪」
「シノブおにー様、素敵ですわ」
コウとセッカの評価は良い様だが、どちらかというと「や」の付く人?いや、地上げ屋か?どちらにしても、かたぎじゃない。後ろに撫で付けた髪をぐしゃぐしゃと解しているが、これでサングラスをしてたら絶対に関わりたくない職業の人だ。
「雫………ちょっとこっち来い」
「えっ?……………………嫌だ」
暫時、拒否する。黒いオーラを纏った兄に近づくのは危険だ。
「じゃ………コウ、こっち来い」
素直なコウは疑うことなく忍に近づき、目の前で歩を止め忍を見上げると、いきなりがばりと覆いかぶさるように抱きついてきた忍の体重を全身で支えた。
「はぁぁぁぁぁぁ癒されるー」
「忍…………疲れてるのか?」
脱力して体重を預けながら抱きついてくる忍の背を、コウがあやす様によしよしと撫でている。それを見ていたシャールも疲れた様子で近くに腰を下ろし、侍従に渡されたワインに口を付けて溜息をついた。
「あぁ~めっちゃ疲れてる。お兄ちゃん頑張ったのに雫は冷たいしなぁ~」
「全くあの御仁ときたら………シノブも今日はお疲れ様でした」
シャールが愚痴をこぼすのは珍しい。雫達の為の苦労だろうと、シャールに礼を述べた。
「では、シズクさん……疲れた私を癒してください」
シャールが両手を雫に向けて広げる、まるでこの胸に飛び込んで来いと言われている様だ。否、そういう意味なのだろう。【魅了】の効果もあり思わず足が一歩前に出たところで、にっこり笑顔のセッカに腕を捕まれて留まることが出来た。危ない危ない。
シャールは残念とばかりに大きく息を吐き、アルはホッと胸を撫で下ろした。
オネエな兄貴の名前がやっと出ました。パヴォーネさん くじゃくの様な華やかさってことで…
忍兄はお尻を護りきったようです




