閑話休題 その2「プロジェクト・ディーバズ企画本部」
第二部にいく前の閑話休題です
DIVA イタリア語でオペラのプリマドンナ(主役級歌手)の事 ラテン語の女神
divas【名詞】divaの複数形
重厚な飴色の扉の横には「プロジェクト・ディーバズ企画本部」と達筆な毛筆体で書かれた札がかかっている。
終始ぴりぴりとしたその部屋の中で、ノクスに誕生した新しいアイドル「DIVAS」の魔族国へのツアー概要がどうにかこうにか決まった。
一応、DIVASのプロデューサーという事になっている忍とマネージャー兼護衛魔術師のアルフレッド、そして所属プロダクションオーナーとも言うべきアルディシャールは、問題の御仁を追い出すように見送ると、一気に5歳は老け込んだ様子で片やテーブルに突っ伏し、片や椅子の背もたれにしなだれ掛かって天を仰ぐ。
「もう…これ全部なかったことにして、俺独りで魔族国行っていい?」
「……何を馬鹿なことを」
「そうですよシノブさん。この辺境伯領の、いえこのアヴァンディール王国を代表するアイドルユニットとして行くからこそ、雫さんを狙う奴らへの牽制になるのです―――まあ、あの御仁は別でしたが……」
アルは今しがたまで同席していた二角の血鬼を思い出して身震いする……いや、雫が渡り人だとはまだバレてないし、現段階では花人族のセッカの方が危険だ。
一応の身の安全はあのエロ血鬼と約定した。その事もあって、あのエロ血鬼が政界にも財界にも興味のないフェロー男爵がNOと言えない程の人物だということに納得せざるを得ない。
「入国諸々の手続きは、あちらが全て引き受けてくださるそうですが……」
つまり、本来は上位12貴族中3貴族の承認が必要な入国許可を、あの血鬼が用意できるということだ。
「12貴族か……」
「ええ、エロ血鬼……失礼。あの御仁は魔族国上位12貴族に名を連ねる御仁ということですね」
忍の物言いに釣られたシャールがつい漏らしてしまった呼び名は、彼の心からの人物評価だ。
「とはいっても、現在ここノクスに滞在しておられるのは男爵位の御仁のはずなので、特に気を使う必要はありません」
「まあ、本人もそれで納得してたしなぁ」
辺境伯で爵位を持つシャールは別にしても、庶民であるはずの忍も、上位貴族相手に臆することなく逆に悪態を付いて応酬していた。
この後の会食で再びあの血鬼と同じテーブルに着くことを思うと、いくらアルでも胃が痛い。何より、貴族社会や王宮での窮屈な人付き合いに嫌気が差したからこそ、王宮魔術師の推挙を断って、辺境の地で魔窟潜りをしていたのだ。アルとしては雫の件がなければ関わりたくはない御仁である。
だが、12貴族と思われるその御仁は、後の会食にDIVASの2人を同席させるようにとこの場で指示してから退席した。
「……あ、あのぉ」
「せめて我が騎士隊を護衛に連れて行ければ良いのですが…」
「さすがに他国にぞろぞろ騎士を連れて行くのは不味いだろ…」
「……あの、ですねぇ」
「しかし、魔族国内で何かあっては」
「まあ、あの変態血鬼が他の瑣末は引き受けてくれるだろ」
「その、変態が一番危なそうですが」
「多数相手にするより、変態一匹相手の方が何とか……たぶん」
アルの胃がきりきり痛む。
「あのぉ……それで会食はどうされるのですか?」
「会食?……ああ、帰っていいぞ」
あっさりとした忍の返答に拍子抜けする。この後の会食には「DIVASの2人も是非一緒に」とあの血鬼に言われたばかりだ。しかもその際、忍は(黒い)笑顔で「ではそのように…」と返答している。
「はっ?…し、雫さんが出席されるというのに護衛の私が帰るなんて」
「ああ、雫とセッカ、コウも連れて帰ってくれ。夕飯は適当に済ませろよ」
「では、こちらで用意させましょうか?もちろん、別室ですよ」
「いや、同じ空気を吸わせるだけでも気分が悪い。うちへ帰すから護衛にシュルツ貸してくれ」
「随分と我が騎士隊にご執心では?気に入りましたか?」
「シャール……笑顔が怖い。いや、ごめんなさい??」
「あまり弄ばないでやって下さいね」
「………はい、すみません」
珍しく忍が素直に謝罪している。何に対してかの謝罪かは、アルの知るところではないが…
「……あのぉ、勝手に欠席して大丈夫なんですか?」
会食の約束を反故にして良いのだろうかとアルが尋ねるが、忍とシャールは涼しい顔で肯定する。
「別に雫達を同席させるなんて言ってないぞ」
「えっ?でも先ほど…」
「シノブは結論を言いませんでしたからね。どう解釈するかはそれぞれです」
確かに出席させるとは言ってない。
「大丈夫なんですか?」
「DIVASのお2人は急な腹痛になる予定ですから、会食には残念ながら同席できません」
「……という訳だから、護衛のアルは出席しなくていいぞ」
意外とこの2人は似ているのかの知れないとアルはひとり納得する。腹黒い2人が揃うと、こういう結果になるのか、と。




