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壁一面の鏡鏡鏡…あ、別に私ナルシストではありませんから。

小さなホールの様なその一室には、鏡張りの壁と何処からか持ち込んだオーディオ機器があるのみ。

未だかつて、自分の姿を足のつま先から頭のてっぺんまで、これほどマジマジと見た事はありません。

はじめは恥ずかしさの余りに、もう一回引きこもっちゃおうかしら。と本気で思いましたとも。


―――パンパン、と手を叩く音がホールに響き、しっとりと汗を吸い込んだ服の裾で顔を拭って音のほうへ注目する。隣で息を整えるセッカがひんやりとした床に、ペタンとしゃがんだ。


「大分良くなりましたが、セッカさん、ワンテンポ遅れてますよ。雫さん、リズム感は良いのですが、何と言うかまだ動きが硬いです」


くぅぅぅぅぅぅぅ。アル君の癖に、アル君の癖にぃぃ。生意気だ!そのうち絞めてやる。

ここはシャール様のお屋敷に用意された1室。部屋に組み込まれた魔術式によって、完璧な防音設備がなされた特別レッスンルームだ。

私とセッカはこの部屋で毎日8時間の拷問を受けている。そう、歌と踊りの強制レッスンという、恥辱に毎日8時間も耐えなければならない。恥ずかしすぎて死ねるわぁー。


シャール様の侍従さん達が用意してくださったレモネードで喉を潤し、冷たい床に大の字になって身体の熱を冷ますと、すぐ隣でセッカが同様に横になった。


「ちょっと休憩ぃぃー」

「はい、賛成ですのぉ」

「仕方ないですね。30分休憩しましょう」


このレッスンが開始しされてもう1ヶ月。毎日朝からシャール様のお屋敷に通い、何故かアル君の指導の下で振り付けを、セスさんからは歌のレッスンを受けた。シャール様までノリノリで協力して下さっている為、最高級エステによって肌はプリプリ、専属お針子部隊による衣装が何着も用意されている。

そう、今我々はアイドル☆デビューに向けて、不本意ながら頑張っているのだ。


忍兄とアル君、セスさんの3名によって、日本の名曲・神曲が選定され、異世界アレンジと共通語のに歌詞に直された。例の伝説の音楽プロデューサーが既に発表した曲と被らない様にするためと、アイドルおたくのアル君と(意外だが)シャール様の琴線に触れるような曲を選ぶためだ。

その伝説のプロデューサーが発表した曲から推察するに、年齢は忍兄より随分若かったと思われ、兄の意向で昭和の名曲と私のヤル気を損なわないように幾つかのアニソンが選ばれた。衣装もそれに倣って、ふんわり広がったミニスカートにふんだんにレースが使われたモノが多い。これを20歳で人前で着なければならない恥ずかしさったら…。


「セスさん、無事に魔族国に着いた頃でしょうか?」

「ん、そだねぇ。そろそろ着いたんじゃない?」


何とか完成した曲の動画を手土産にして、先日セスさんは魔族国へ帰っていった。

私達の動画はノクス内を網羅する魔導ネットワークにもアップされ、徐々に話題になってきているそうだ。


魔族国へ人が入国するのは難しい、政治的立場の人族や魔族国の貴族の後押しがある大手商会などが、外交特区に入国できる程度だ。優秀な芸術家や職人であっても、入国が許されるのはこの特区までらしい。

だが、10数年前に大ブレイクしたアイドルグループの再来となれば、小さな特区域では治まらないのではないか?というのが今回の目論見だ。

地球でいう所のクラシック音楽などはあるらしいこの異世界でも、人々が熱狂するようなアイドルは中々現れていない。10数年前のアイドルをなぞらえた歌手も何度か世に出たらしいが、鳴かず飛ばずで消えていったという事だ。

私たちが目指すのは魔族国でも上流階級、できる事なら王族関係者の目に留まり、後ろ盾と国内での音楽活動許可を貰うこと。


それには勿論、危険なこともある。

花人族であるセッカを欲しが権力者や、私達が渡り人だとバレてちょっかいを掛けてくるお馬鹿達。

忍兄曰く、渡り人だとバレるのは想定内らしい。ただし、影のプロデューサーである忍兄が渡り人だという事にして、私は一般人を装えと指示されている。兄が危険を全て被る事になるのだが、自分の身を守れない私には逆らうことは出来ない。

セッカの事に関しても、花人族を利用したりしない相手の庇護が必要になる。それには王妹殿下の目に留まる事が目標だ。


「セスさんを招待したのって王妹殿下なんでしょぉ?」

「はいですわ」

「セスさんの話では、芸術関係の活性推進事業の代表者らしいですね。その関係で今回も宮中行事の演奏会に声がかかったそうですし」


アル君が次の曲の準備をしながら会話に参加する。


「だったらさぁ、私達がアイドル活動しても意味無いんじゃないの?」

「…………?魔族国ではアイドルの芸能活動も立派な文化事業ですよ」

「でもさぁ、王妹殿下っていわゆる王女さまなんでしょ?」

「シズクおねー様……殿方でしたら王弟殿下とお呼びするのですわ」


いや、セッカ。そういうことじゃないから……。


「普通さ、女の子がキャーキャー言うアイドルってこれじゃないでしょ」


うんそう、男性向けな私達じゃなくって、格好良いイケメンアイドルグループだよね。


「雫さん……では、シノブさんに代わりをしろと?」

「30過ぎたオッサンがアイドルも糞もないよねぇー」

「はい、第一萌えません………」

「だいじょーぶですわ。セッカが頑張って王妹殿下をメロメロにしてみせます」

「うん………あー、頑張って……」


でもねセッカ、君のコンセプトは妹キャラだから。衣装もスカートだよ?今から短パンに直してもらう?あ、それいいかもぉ。


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