43 我が家が消失しました
連休前の昨日は、兄の友人であり自分がお付き合いしている彼氏の家に泊まった。
まだ兄にしか明かしてないのが、先週彼からのプロポーズを受けたばかりだ。
「すーちゃん……実家の改装すんの?……いやこの場合は建て替えか?」
私をすーちゃんと呼ぶこの男が、自宅まで箱バンで送迎してくれた婚約者の孝弘だ。自宅が酒屋をしている為、車体側面にはカッティングシートで酒屋の店名が貼ってある。昼間は自宅の酒屋を手伝い、夜はBARのオーナーとして頑張っている彼は、学生時代は兄と一緒に荒れまくっていたという黒歴史を持っている。
「昨日はあった……朝までは……」
「だよねぇ~」
5年前に改築したばかりの我が家。兄と妹と時々海外から帰ってくる叔父とで住んでいた我が家。だが、目の前にはまっさらな更地しかない。
慌てて兄の携帯に連絡するが、電波が通じない。
「電波が通じないぃ……根性で繋げろ!!」
アドレス登録が、家族と姉の仕事先だけという妹の携帯も同様に通じない。
「み、水……あと電気も止めないと……うあぁー、水道局って祝日営業しているの??」
「すーちゃん、すーちゃん」
スマホ片手にぶるぶる震える手で操作する。
「すーちゃん……落ち着いて」
「お、お、落ち着けぇ?どの口?ねえどの口がそんな事いうの!!」
孝弘の口に指を突っ込み、口を両側に引っ張る。
「い…いはいよほ……しゅーしゃん……いはい」
「家がないの!一晩あんたの家に外泊しただけなのに、家がないの!!これはきっと結婚やめろって神のお告げよ。結婚止めるぅ」
「そんなぁ。すーちゃん……あっほら、車庫は残ってるんだし、車庫覗いてみよ。しーちゃんがいるかも?」
母屋は跡形もないが、確かに庭の一部と車庫はそのままだ。ガレージシャッターを押し上げて中を覗くと、兄と叔父が共同で所有しているセダンと四駆が並んでいた。だが、その兄の姿はない。
「ほらほら、しーちゃんが大事にしてる単車がある。あれ置いてしーちゃんが消えるなんて事ないよ」
車庫の片隅に冬季は役に立たないのに、何故か大切にしている兄のバイクが鎮座している。
「バイク置いて失踪するのはありえなくて、妹置いて行方くらますのはありなんだ…」
「そ、そういう訳じゃ、ないよ??」
「あらぁ静ちゃん、どうしたの」
気の抜けたような挨拶をかますのは隣のタバコ屋のおばあちゃんだ。
「あら?お宅……」
我が家があった更地を見て、固まるお隣さん。不味いわ、お年だし驚きのあまりこのままポックリ逝きかねない。
「ほほほほほ。急な建て替えをすることになりましてぇ。いえねぇ改築したとはいえ、元が古かったのでシロアリが…」
「………ま、まあ、そうなの?」
「ええ、このまま住むのは危ないって事なので、急ですが建て替えちゃえって。兄と妹はしばらく叔父の所へ行っているので留守なんですよぉ。私は仕事もありますから彼のお家に厄介になろうかと思いまして」
「あら、じゃあ結婚が近いのかしら?」
「ほほほほほほ。正式に決まったらまたご報告しますわ」
「そう、じゃあ、忍さんたちにもよろしくね」
何とか誤魔化した。自分の結婚話が広まってしまうが仕方ない。
「すーちゃん、また強引に誤魔化したね…」
「るさいっ!!」
だってこんな異常事態、どーしろっていうの!?
今って何時なんだろう?時差はどのくらいあったのだろう??
あの兄は実の親には死んでも頼らない筈だから、両親の元にいるとは考え難い。
絶縁した両親へ連絡する気も起きず、海外に暮らす叔父のアドレスを検索する。
コール音が続くが相手が出る様子はない。一度電話を切って、叔父の携帯へかけ直すと、今度は数回のコール音で出た。
「叔父さん?」
『すーちゃん?珍しいねぇ…どうしたの?雫は元気??』
雫を溺愛する叔父が真っ先に聞くのは、いつもの通り雫の様子だ。
これは、失踪のことを伝えたらショック死するかも?
「家がない…」
『えっ?何??』
「家がないのぉ!朝帰ってきたら、家がないのぉ」
『朝って外泊したの?いや、すーちゃんはもう立派な大人だから、うん、叔父さんが心配することじゃないけど……でも外泊は…』
「そんな事言ってる場合じゃない!!家がないの。まるっと、すぺっと、土台ごとぉ」
『………酔ってないよね?今、日本は午前中の筈だし。は、何か怖い夢見たの?』
このオヤジはぁ…可愛がってくれるのはいいのだが、28歳の私をいつまでたっても人を子供扱いする。
「酔ってないし、頭はすっきり起きているし、変な薬もやってない!!」
「す、すーちゃん……落ち着けぇ…どうどう」
『し、しーちゃんはいる?叔父さんしーちゃんと話したいなぁ』
逃げた。私の様子がおかしいと気付いて兄に対処させようとしている。
「忍はいない!!っていうか、忍兄なんてどーでもいいの。あれはほっといても大丈夫」
『すーちゃん……酷いなぁ』
「雫がいないっ!家ごといないのぉ!!」
受話器の向こう側で、ガタンッドサッと何かが倒れる音が聞こえた。
忍 しーちゃん
静 すーちゃん
2人の幼い頃のあだ名です。
雫はしずくちゃん。そのまんま




