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妹達がようやく部屋に引っ込んだので、最近一緒に飲むようになったアルと2人で事件解決の祝杯を挙げていた。
自分はバーボンのみで十分なのだが、ツマミが欲しいアルは中央街で人気のルメデのチョコを肴にしている。
「夜中にそんなもん食ってると太るぞ」
「魔術師には糖分が不可欠です。今日は術式もたくさん使ったので大丈夫ですよ。シブノさんこそ、煙ばっかり食べてると身体壊しますよ」
アルに言われたからではないが、2本目を吸うのは止めておいた。
「今さっき、シュルツ隊長から連絡がありました」
自分が風呂に入っている時にでも電話があったのだろう。アルは綺麗に箱詰めされたショコラボンボンをひとつ口にポイと放り込む。
「むぐむぐ…あっこれ美味しい………えっとですね。結論から言うと」
「省略するな」
「はい………えー例のシノブさんが沈めた船を探ったところ、船から見つかったのは魔人族と思われる死体が幾つか、それと御禁制の魔法薬。いわゆる麻薬の様なものですね」
ちょっと待て、沈没した船から見つかった死体は魔人族だ?だとすれば、船を沈めた自分の所為ではないのか?他に囚われていた魔人族がいたという事だろうか?
顔を青くした忍の様子を見て、慌ててアルが付け加えた。
「いえっ……魔人族の遺体が見つかったというのは」
「俺が船を沈めたから溺れ死んだって事か……」
「ち、違います。正確には既に亡くなっていた魔人族の……なんというか、その身体の一部が見つかりまして」
「はあ?こちらの世界でも臓器売買があるのか?」
「いいえ、それは…是であり、否です。そちらの世界の様に臓器移植を目的としたモノでなく……そのぉ…おそらく薬の材料にするのではないかと」
人食の習慣でもあるだろうか?
もし自分達が今日、あの子達を助け出さなかったら……口の中が不味くなり一気にグラスの中身を飲み干した。
「魔力の高い者の血液や臓物から、不老不死の妙薬が出来ると信じる者は多いのです。実際、寿命が延びるという研究結果もあるようでして……勿論、何処の国でも法によって戒められています」
「が、禁戒を犯す者達はいるってことか…」
「すみません」
「何でお前があやまる」
「同じ世界…この世界の人間として恥ずかしいです」
地球にだって臓器密売をする腐った連中がいる。何処の世界も同じだ。とアルに言うと、また「すみません」とあやまるのだった。
強い魔力を持つ者の血は薬になる。貧しくとも魔力を持って生まれた子は、日々の糧を得る為に己の血を売る事もするらしい。そうして集められた血からは、効果の高い媚薬が作られるということだ。
セルウス商会は魔力の高い魔人族に目をつけ、魔族国の辺境で魔人族狩りをしていたようだ。その最中に運悪く彼らに捕まったのがあの2人なのだろう。
「あの子に花人族としての価値がなければ、今頃は死体となって運ばれていたってことか」
「ええ、ぞっとする話です……」
ガタンっと音が鳴りドアの方へ視線を向けると、青い顔をしたコウがそこにいた。
子供に聞かせる話じゃなかった。というか、足音させて来て欲しい。
「あ、兄上殿…」
「忍でいいぞ、コウ。どうした?」
「お、俺…喉が渇いて……」
ちょうどチェイサー用のミネラルウォーターがあったので、グラスに注いで手渡す。
カタカタと震えながら水を飲んだコウの頭を撫でて「忘れろ」と声を掛けた。
少し熱い気がして額に触れると、気のせいじゃないようなので救急箱から体温計を取り出した。
「コウ、これ咥えろ」
「ん………?」
コウは体温計をじっと見つめたままボーっとしている。
意味が分かっていないようなので、無理やり口に体温計を突っ込む。
獣人だけあって人のそれよりも立派な犬歯が見え、誤って体温計を噛み砕きそうな様子だったので、自分の指を一緒にコウの口内に入れた。
「コウ、噛むなよ」
「………ん」
舌裏の筋に体温計を当て、差し入れた人差し指は上下の歯の間に置く。誤って体温計を噛まないようにだ。コウを抱えてソファに座り膝の上に乗せた。何をされているのか理解していないコウは、一応は口腔内の指を噛まないように気を付けている様で、舌を時々動かしながらじっと忍の方を見ている。
口の端から滴った涎を忍が手で拭うと、少し気恥ずかしそうにしていた。
ピピピピッという電子音が鳴り、体温計を取り出した。
「38度9分……高いな…」
「治癒魔術で治療済みとはいえ、内臓小破、肋骨も折れてましたからね……子供なので軽めの薬を処方したのですが」
体力の落ちている時の発熱は避けたい。
「し…忍……」
救急箱の中にはロキソニンがあるが、注意書きには15歳未満は使用しないようにと書かれていた。
16歳のコウ…ちょっと微妙だ。
「コウ、ケツ出せ」




