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忍ターン
コウが目覚めた部屋にあった淫猥な絵、そしてその部屋に入ってきた大人の男。性の知識に乏しい16歳の少年コウが誤解するには十分だった。コウ自身、部屋に入ってきた忍をひと目見たとき、絵に描かれていた様なその淫靡な事を今からされるのかと実は内心ドキドキしていた。
コウが忍の方をチラリと盗み見ると、忍は申し訳なさそうな表情で謝罪する。
「ああーすまん…なんと言うか、その…すまん」
「………?」
「俺もうっかりしていた。この部屋は上の妹、静の部屋なんだが。何というか、ちょっと変わった嗜好…いや趣味で」
銀狼というよりは灰色かかった子犬の様な狼族の少年。少々つり上がった生意気そうな茶色い瞳はじっと忍を見つめている。それも悪戯がばれて怒られているわさびの姿にそっくりだ。
「じゃ、じゃあ、兄上殿………は……お、俺と……」
「―――っ!?………もしかして俺がコウを手篭めにすると思ってたのか?」
恥ずかしそうに頷くコウ。とんでもない誤解をされていたらしい。どうりで顔を赤くしてでビクビクと怯えている訳だ。
ネットやメディアの情報に溢れかえった日本の高校生と違い、国境の辺境に隠れ住んでいたという獣人の少年。性についての知識なんぞ、この純朴な狼には微々たる程度しか持ち合わせていないだろう。
それが……妹のマニアックで偏った、それも濃厚な情事を描いた薄い本などは刺激が強すぎだろうに。
薄い本と描きかけの原稿は、コウの目に付かないところにしまっておこう。
ベッドに腰を下ろし、安心させるようにコウの頭を撫でてやる。気持ち良いのか?叱られた犬のように下がっていた耳がぴくぴくと動いた。
「悪い、驚かせたな。俺は人買いじゃないし、未成年に手を出すほど馬鹿じゃない。コウもセッカも安心してこの家にいていいんだ」
安心させてコウを寝かせると、階段をばたばたと上がってくる足音が聞こえてきた。
「―――コウ!!」
ドアから現れたのは色違いのスウェットを着たセッカと雫。
心配して様子を見に来たのだろう。ベッドの上ではしゃぐ様に互いの無事を確認しあう3人。
忍は「雫っ」と妹の袖を引き、描きかけの原稿と薄い本を未成年の目に触れない様にどこかへ片せと注意する。
「えっーでも、私の部屋だとセッカがいるし……リビングにも沢山あるしぃ」
「リビングの分は本棚の1番上に上げとけ。無理ならアルの部屋だな」
自分の部屋を保管場所としては提供する気はさらさらないので、アルの部屋を指定する。
「私の部屋の分と静姉の原稿は?」
「押入れの中にでも放り込んでおけよ」
「入りきるかなぁ?」
「あの……シズク様、私がいては迷惑ですか?」
おずおずと聞くセッカに慌てて雫は違うのだと否定した。
「えーと、セッカとコウはまだ子供だから……教育上問題のある物を片付けないといけなくて。セッカがいるのが迷惑ってわけじゃないからね」
「俺は大人だ。もう子供じゃないぞ!!」
「じゃ、これ見る?」
大人宣言をするコウに、自信作の薄い本を渡そうとし、横から兄に叩かれた。もちろん本も没収だ。
「子供になに見せる気だ…」
「いや、この国なら15歳で成人だしぃ。コウは16歳だからいいかなぁ?と」
本にはしっかりと18Rと注意書きされている。
「…俺はもう大人です」
「さっきまでビビってたお前が何言ってるんだ…まだ子供だろ……」
「あれ?コウ見たの??因みに忍兄がモデルの話もあるんだよ」
「っ雫!!」
どうも自分の妹達はこのあたりの常識について緩すぎる。普通の家庭ならゲイやバイというだけで、結構深刻な問題とされるのだが、やはりそこは自分自身がバイなので強く注意できないのだ。まあ、他人に迷惑を掛ける趣味でもないので放置した自分にも原因はあるのだと、一応自覚している。
「あ、あ、兄上殿……が?」
顔を真っ赤にしているコウの横では、事態を把握できていないセッカがキョトンした表情で座っている。
「だって…だって…あれ…男…同士…………」
語尾はごにょごにょと何を言ったのかさえ聞き取れない。
折角、コウを安心させた処だったのに、頭の緩い妹の一言で壁が出来てしまった。こうなってしまっては、保護者である忍の事も警戒してしまうだろう。
「ああーだって、忍兄、バイだもん。どっちもいけるよー」
すでに妹を窘める気力も尽きた。
「お、おれ…おれ……」
まさか自分に襲われるとでも誤解しているのだろうか?プルプルと震える子犬の様な姿に嗜虐心がくすぐられたが、相手は子供だ。
「……青少年保護育成条例」
忍が溜息と共に漏らした。
「え?何??」
「せい…しょ…ね??」
「青少年保護育成条例。18歳未満に対して、有害図書の販売や淫行・わいせつ行為を禁止する条例。お前は兄を犯罪者にするつもりか!!俺は子供に興味はない―――だから、コウ。そんなに警戒しなくてもなにもしない。雫はさっさとそこの本片せよ、でないと燃やすぞ」
ぶつぶつも文句を言いながらも、原稿やその手の本をクローゼットに移動する雫。
「異世界なんだから、異世界ルールで良いと思うけどぉ……」
「まだ言うか!!」
「最近会ってる翼人さんだって若いじゃん」
「セスは21だ!!―――ってなんでお前が知ってる……」
「いやぁー、次のネタに??」
お兄ちゃん、お前の将来心配だよ。
リビングにあるのは商業誌。雫と静の部屋にあるのは同人誌です。
18R版(※BLです)訂正・加筆分のみムーンライトにアップしてあります。大人な腐った方のみ探してみてください。
アップしたのは12章のみ。今後、追加するかは反応みて検討します。




