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ドアを蹴破る音と共に銀髪の少年が通路へ飛び出した。その先に居合わせた船員の頭を上から押さえつけながら、飛び上がり様に顔目掛けて膝を蹴り上げる。
頭は上から固定され、下からは膝蹴りが来るのだからたまったものではない。グキリと嫌な音と共に、その船員は大量の血を鼻から垂らして床に沈んだ。鼻の骨が折れているのだろう。
後ろからついてきた雫は、コウの替えの服になりそうな物を探しているが、男の服を脱がすのは面倒なので諦めた。おまけに脱がすには残念すぎる容姿だったのと、腐女子的にはイケメンの服を剥ぎたい。「チェンジで」と一言呟いてコウの後を追った。
2人が監禁されていたのは船倉に近い区画だ。そこから階上へ向かう狭い通路を駆ける。無理だと分かっていても可能な限り船員達と遭遇せずに、コウの幼友達が監禁されているであろう部屋まで辿り着きたい。
コウは2人3人と遭遇した船員達を一撃で鎮める。正直早くてよく分からない、どんだけ獣人身体能力が高いんだ。「あっ人が!!」と思った時には、コウの腕だか足だかが動いたような気がして、瞬きした後には白目をむいて気絶している船員達。
気になるのは腰布1枚で飛んだり跳ねたり蹴り上げたり…見えそうで見えない。これがチラリズムというものか!!
2層目の階段を一気に上がると、作業中らしき船員達4人と遭遇してした。
「あいつらっ!!」
「おいっ餓鬼共が逃げだぞ!!」
「―――っち」
手前にいた2人目掛けて駆けるコウ。そのまま飛び掛るのかと思いきや、横の壁を蹴り上げ反動でを4人の中央へ降り立つ。その際には奥の1人を蹴り倒し、すかさずもう1人の足を引っ掛けて床に横転させた。倒れた相手が体勢を整える前に、後ろから来る応戦に対応しスルリと身を反すと、身体を回転させたまま相手の腕を掴み逃げ場をなくしたところへ肘鉄を決める。
って実況している間に、余った御一人様が私の方へやってくる。うそー!
「雫っ!かがめ」
コウの言葉に咄嗟に頭を抱えたまま下にしゃがんだ。
頭上をふわりと風が通った感じがしたが、振り向くと襲い掛かってきた男が何故か私の後ろで気絶し、コウが相手をしていた3人も同様に床に倒れていた。
「この上にセッカがいる、一気に行くぞ」
そういって私の腕を引っ張るように先へ進むコウ。反対の手には男達から奪ったのだろう、傘位の長さの剣が握られている。
上の階へ上がると、下の騒ぎを聞きつけて来た船員達と遭遇した。パッと私の手を離したコウは迷いなく男達に切りかかる。相手が何事かと動揺している間に少しでも多く倒したい。なんと言ってもこちらは1対多数なのだ。
赤く散るそれらから目を背けることに耐え、私も倒れた男の手から落ちたナイフを拾い上げた。1人戦ってくれているコウの足手まといになる訳にはいかない。
「雫っ……奥の部屋だ!!頼む」
「分かった!!」
コウが指示した部屋へ駆け込む途中、男の1人が手を伸ばしてきたので咄嗟にナイフを向けた。手が当たった位の感じだが小さな悲鳴が届いた。ナイフに触れた感触では深くは切っていないと思うのだが、手を濡らしたそれを感じでぞっとした。
部屋のドアは簡単に開いた。中にいた太っちょなオッサンが驚いて振り返り思わず眼が合った。南街で私を迎えに来たキモオヤジだ。
着ている物は良い服なのだが生理的に好かん!!嫌らしい何かとても関わりたくないタイプの人間だ。そのキモオヤジの前には綺麗な銀髪の少女が椅子に座っている、おそらく彼女がセッカだろう。
「お、お前は…」
「その子から離れて!」
手にしたナイフを真っ直ぐ向けて威嚇する。
「……驚きました。まさか逃げ出してくるとは、しかし、そんなナイフひとつでどうするのです?」
キモオヤジが少女から離れてこちらへゆっくり歩いてくる。
いや…あんたに言われなくても、何にも考えてなかったし。勢いで逃げ出したけど、無計画です。
「さあ、そのナイフを渡しなさい。後でちゃんとお仕置きしてあげますよ」
ブサ男の分際で「お仕置き」なんて台詞言うんぢゃない。キモいわ!!
男の後ろでは、どこかの民族衣装のような服を着た少女が心配そうに見守っていた。腰布1枚のコウと幼友達だというのが信じられないくらい、きちんとした身なりなんですけど…。
生成りのシャツとズボン、その上から襟前を重ねた着物の様な青い袖なし上掛けを羽織り、腰の位置には兵児帯に似た布が結ばれている。
「――――っあ!!」
指差した私の声に反応して、キモ男が後ろを振り返った。その一瞬、テーブルの上にあった水差しをキモ男に思いっきり投げつける。バリンっではなく、ゴンっと鈍い音がしてキモ男が膝をついた。部屋の奥では少女が目を丸くして驚いていた。
秘技!「あ、後ろ」だ。あほが見る~豚の○○~ってやつですよ。銀髪美少女が何かしたと思ったんでしょう。する訳がない。だって私と美少女は初対面だし、事前になんの打ち合わせもしてなけりゃ、彼女には私が見方か否かさえ判断つかないんだから。
膝をついた男を後ろから蹴り飛ばし、すかさずその上に跨ると、銀髪少女が駆け寄り華奢な手でキモ男の頭を押さえつけた。軽いとはいえ女性2人が乗っかっているのだからそう簡単には抜け出せまい。階下から持ってきた縄で素早く男を拘束する。そう、コウを緊縛していたあれです。しかし、絵面が良くないわー。キモ男を拘束しても楽しくない。
「だいじょぶ?私 雫、コウの友達。助け、きた」
少女が私をみてにっこり微笑んだ。
その直後、部屋の外からはドンっいうと大きな音と同時にあがるコウの悲鳴。少女は私の両肩を掴むと、口をパクパクと何かを訴える。
「えっ??声が……話せない?」
ぶんぶんと頭を横に振り、少女の首に着けられた首輪を指さし何かを伝えてくる。平たい金属製の首輪には細かい文様が描かれ、輪を閉じる部分には金具が取り付いている。
流石の私にも思い当たった。何かの術式が書かれた首輪に鍵穴。すぐに男の懐を探ると…あった!見つけ出した鍵で少女の首輪を外す。
首輪に施された魔術式で、セッカの声を封じていたのだろう。書かれていた術式は理解できないが、アル君に見せてもらった古語と同じ言語が書かれていた。
声を取り戻したセッカは、これぞ正に鈴を転がしたような声!という声優バリに可愛い御声で自己紹介。
「私はセッカ。シズク、この船には魔術師がいる。コウを助けないと」
しまったぁー!コウには魔力耐性がない。それでこいつらに捕まったんだった。




